第15話 パーティーバランスって大事だよね
その後も、進んで行くけど……。
「クンクン……これも食べれそうです」
「じゃあ、カゴに入れましょう。レオ、お願いします」
「へいっ! 姐さん!」
レオが背負っているカゴに、果物らしき物や草を入れていく。
「……姐さん?」
「ええ、俺にとって姐さんですぜ。弱っているとはいえ、俺が力負けするなんて……」
「リン、何をしたの?」
「いえ、ちょっと教育をしただけです。元々、反抗的な奴隷で有名だったらしく……酷い仕打ちを受けて……それでも、強靭な肉体と精神で耐えていたそうです」
「俺は、自分より弱い奴に従うのが嫌だっただけです」
「なるほど、それで?」
「姐さんに、主人に会わせたいからついてきてと言われまして……生意気にも、俺は逆らいまして……殴られました」
「へっ?」
「ワンパンってやつですね」
「そ、それは……アリなの?」
「ええ、獅子族の特徴は、自分より強い者には従いますから」
「へぇ〜なるほどね」
ヤンキーが、もっとすごいヤンキーに惚れるみたいな感じかな?
「最初はマルス様のこともアレでしたが……感服いたしました。あの魔法を食らえば、俺もタダじゃ済まないです」
「ふふ、言ったでしょう? 我が主人は、強くて優しい方だと」
「はは……リン、あんまり持ち上げないでね?」
「ふふ、そうですね」
すると……。
「あ、あのぅ……」
「うん? ラビ、どうしたの?」
耳をピクピクさせながら、俺に近づいてくる。
「何か、動いている音が……ゆっくりな感じで」
「リン?」
「ゆっくりですか……魔物は見境なく襲ってくるはず。ならば、魔獣の可能性が高いですね」
「ま、間違ってたらごめんなしゃい……」
「別に怒らないから安心して。方向はわかるかな?」
「えっと……あっちの方から聞こえます」
「では、シロ」
「は、はい?」
「血の匂いなどはしますか?」
「クンクン……多分、しないです」
「ありがとうございます。では、移動を開始しましょう」
リンの掛け声により、再び一列に並んで動き出す。
……できるだけ静かに歩き続け……。
「みなさん、止まってください……ラビ、お見事です」
リンが指差す方を見ると……十数頭のバイスンの群れがいた。
真っ黒の身体でバッファローに近い姿だが、その大きさは二メートルを超えている。
槍のようなツノも二本あり、貫かれたら……死を免れないだろう。
「ほっ、良かったぁ……でも、いっぱいいるよぉ」
「わぁ……たくさん草を食べてますよ」
「チッ、奴らは強いぜ。姐さん、どうするんで?」
「全員でかかってきたら対処できませんね……二頭は欲しいところですが……マルス様、お願いできますか?」
「どうしたらいいかな?」
「マルス様の魔法で殲滅は可能ですが、その場合は……」
「うん、綺麗にはいかないね。細切れが、ミンチになっちゃうね」
威力のある風魔法では、ズタズタになっちゃうし……。
土魔法でも、ぶっ潰してしまうなぁ……。
火属性は森を燃やしちゃうし、水魔法は攻撃に向かないし……。
うむ、チートも考えものだね。
「では、分断はできますか?」
「分断……なるほど、それなら出来るかも」
俺は草むらの陰から、様子を伺う。
できれば、オスとメスが良いよね。
メスは少し赤み掛かった黒だから……よし、あそこが良いね。
二頭のバイスンが、群れのから少しだけ左に離れるのを待ち……。
「アースウォール」
俺を起点として、まっすぐに土の壁が出現する。
「ブルルッ!?」
「ブル!?」
今ので、二頭と他の群れの間に壁が出来た。
「続けて——アースウォール」
今度は、右方向に土の壁を出現させる。
これで『L字型』になり、群れの奴らは、すぐには助けに来れない。
「す、すげぇ……!」
「わぁ……!」
「はわわっ……!」
「お見事です! 何を惚けているんですか! レオ! 貴方の出番ですよっ!」
「へ、へいっ!」
レオとリンが、それぞれバイスンに襲いかかる!
俺はというと……シロとラビに挟まれつつ。
「させないよ」
魔力を送り続け、壁を壊そうとしているバイスンを阻止する。
殺すことは簡単だけど、数を減らしちゃいけない。
ゆえに、なるべく残りは無傷でいてもらわないと。
そして、五分ほど待っていると……。
「マルス様、遅くなってすみません」
「ううん、まだまだ余裕があるから平気だよー」
さっきから、ズカンズカンと音がするけど……。
ずっと、頭突きをしているのだろうね。
少し可哀想だけど……これも、俺達が生きるためだ。
「平気だとは思ってましたが……恐ろしい魔力量ですね」
「まあ、今のところ限界はわからないけど……あれ? レオは?」
「俺ならここにいます」
「うおっ!? す、凄いね……」
まるで米俵を担ぐように、バイスン二頭を担いでいる。
なるほど……レオの役割はこれもあるのか。
「何を言うのですか。マルス様の魔法に比べれば、大したことじゃないぜ」
「そんなことないよ。俺には、そんなことできないもん。適材適所ってやつだね」
「えっと……?」
「まあまあ、ひとまず帰りましょう」
「うん、そうだね。じゃあ、レオは二人を連れて先に行って」
「わかりやした」
二人を逃す時間を稼いだら……。
「リン、準備はいい?」
「いつでも」
「じゃあ、やめるよー」
魔法を送らなくなった瞬間……ズガガガガという音がする。
「バルルルッ!!」
「フシュルルル!」
そして……怒り狂った彼らが、目の前にいます。
「そりゃー、そうだよね」
「いきます!」
「ひゃぁ!?」
む、胸が当たってるよ!? というか、女子みたいな声出たよっ!
リンに抱きかかえられ、俺達はバイスンの群れから逃げ……。
どうにか、振り切ることに成功する。
「ここまでくれば平気ですね。彼らも人里には近寄らないですから」
「ふぅ……怖かったぁ〜」
「ふふ、なかなかスリルがありましたね」
そして、皆と合流して森の外へと出る。
「マルス様、さっきの話ですが……」
「うん? ああ、適材適所ってやつね。いや、リンがこの面子を選んだ理由がわかったからさ。シロは匂いに敏感で食材とかを集めるのに適してるし、血の匂いである程度相手の状態がわかる。ラビの耳は気配や音に敏感で、敵が来るのを事前にわかったり、様子も何となくわかる。レオは力持ちだから獲物を運べるし、単純に前衛としても優秀だ」
「ぼ、僕、役に立てました……?」
「わ、わたしも……?」
「お、俺もですかい?」
「うん、もちろんさ。俺には出来ないことだからね。みんな、ありがとう。リン、よくやってくれたね」
つまりはレオが前衛、ラビとシロで斥候や採取、後衛が俺、中衛兼全体の指揮をとるのがリンという感じかな。
ゲームでもそうだけど、パーティーバランスって大事だよねっ!
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