国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい~目指せスローライフ~

第11話 まずはお腹いっぱいに

　無事に都市へと帰った時、すでに日が暮れかけていた。

「ふぅ……何とか間に合いましたね」

「うん、日が暮れる前で良かったよ」

　どこの世界だろうと、夜は危険だ。

　魔物や魔獣は活発になるし、暗闇ではこちらが不利になる。

「それで、どうします？」

「うーん……ちょっと待ってね」

　優先順位は何だ？ 予想外の大物とはいえ、住民全てには行き渡らない。

　仮に行き渡らせたら、一人一口とかになってしまう。

　獣人達に食べさせる？ そうすると、人間の反感買う？

　人間に食べさせたら、その逆が起きるか……。

「そんなに深く考えなくて良いんじゃないですか？」

「えっ？」

「別に税金を使うわけでもなく、人を使うわけでもなく、私達の二人で狩ってきたのですから。それに、実際の公務は明後日からですから。それで文句を言われるのは筋違いですよ」

「なるほど……確かに日付は明後日になってたね」

　どうやら、俺たちは早く来てしまったみたいだし。

　まあ、護衛を置いて勝手に出てきたからだけど。

……兄さん、怒ってるかな？

「ええ、ある意味良かったですね」

「じゃあ、俺の好きに使うとするか」

　というわけで、炊き出しの準備開始です！

　獣人達と人間たちの境目のエリアに来て、大声を張り上げる！

「はーい！ みなさーん！ ちゅうもーく！ 領主からのお知らせですよー！」

「何だ何だ？」

「あれ、オロバンだぞ！？」

「二頭もいる！」

「これから炊き出しの準備をするので、小さいお子さんや、赤ちゃんのいるお母さんがいるところは連れてきてください！ もしくは、起き上がることも出来ない方など！ まずは、そちらが優先です！ 後日、改めて食料を調達するので、他の皆さんは少しだけお待ちください！」

　色々考えたけど、まずはこれに決めた。

　子供や母親、病弱な方はそこまでの量は食べない。

　もし余れば、他の人にもあげる予定だ。

「じ、獣人でもいいのですか！？」

「もちろんです！」

「う、嘘だっ！」

「そ、そうだ！ 俺たちに何をさせる気だ！？」

　うーん……めっちゃ警戒されとる。

「獣人の方々には、元気になり次第、狩りに出てもらいます！」

「や、やっぱり！ そんなこと言って、俺たちを囮に使う気だ！」

「み、みんな！ 騙されるな！」

「——静粛に！！」

　俺の後ろから1歩前に出て、リンが声を上げる。

「私は誇り高き炎狐族のリン！ この方は、貧困に喘いでいた私を助けてくれた！ どうか、一度だけでいいの信じてくれ！」

「ど、どうする……？」

「でも、あの人健康そうだよ？」

「お母さん、お腹減ったよぉ」

　よし、リンのお陰でヘイト値が減ったぞ。

「これは俺とリンが狩りをした獲物です！ 故に、お金はいりません！ 今回は領主からの皆さんへの挨拶だと思ってください！」

「ただし！ 争いなどを起こした人には差し上げません！ きちんとした方のみに差し上げます！」

「獣人の方は、自分の住処の入り口に！ 人族はその反対側に並んでください！ 時間は、今から一時間後です！ 獣人側の誘導には兵士が！ 人族側には冒険者の方がそれぞれ担当します！」

　俺が人族に、リンが獣人に語りかける。

「お、おおぉぉ——！！」

「か、母ちゃんを連れて来なきゃ！」

「あ、慌てるな！ さっきの聞いたろ！？」

「じ、時間はまだある！」

　集まった人々が、急ぎ足で去っていく。

「よし、ひとまずよしとしよう」

「ですね」

「リンがいてくれて良かったよ、ありがとね」

「い、いえ……」

　尻尾がフリフリしてる……触ったら怒られるかな？

　うーん……以前はよく触ってたけど、記憶を取り戻したから触り辛い。

　気を取り直して、準備を始める。

「ヨルさん、指揮をお願いしますねー」

「ええ！ お任せください！ こんな心踊る仕事は久々です！」

　俺たちが作業を行っている間、雑務をこなしてくれるようだ。

　ウンウン、使える人がいて良かったよ。

　これから、そういう人材も探さないとね。

　そう……俺が楽をするために！

「えっと、オロバンの解体は任せても良いかな？」

「ええ、私がやります。ふふ、腕が鳴りますね」

　包丁を持ってご機嫌な様子……ちょっと怖い。

　でも、リンも嬉しいのかも。

　王都では、獣人を見ても手出しが出来なかったから。

　高位貴族や大商人には流石に、俺でも手が出せないし。

　でも、ここなら俺の自由が利く。

「えっと、俺は……まずは土台を作る」

　土魔法で、丸い円を描く。

　そしたら、中央に枯葉や木材を置く。

　その上に網をしいて、でかい鍋を置く。

「これで、よし……お願いします！」

「はい！」

　領主の館で雇っている料理人たちが切ってくれた野菜を入れていく。

　ジャガイモ、人参、玉ねぎ、キノコ類などだ。

　これらは比較的に作りやすいから、量が多いらしい。

　一応、穀物類もあるけど……うん、その問題は後にしよう。

　今は、硬いパンで我慢我慢。

「よし、そしたら……水よ」

　俺が出す水は、飲める水だったのが良かった。

　天然水みたいに美味しくて、少し甘い。

　これは、俺の魔力濃度が高いかららしい。

「これで……火よ」

　点火をしたら、塩胡椒をして放置する。

　野菜やキノコは、水から煮た方が出汁が出て美味しいからね。

　肉と味噌は、最後の仕上げにいれる。

「マルス様、できましたよ」

「おっ、ありがとね」

　後ろを振り返ると、オロバンの部位が並んでいた。

　まずは、骨の部分を鍋に追加しておく。

「えっと、モモ肉は鍋に合うから鍋でしょ……ロースやバラは焼いて……スネも鍋だな。あとでヒレは揚げ物にして……肩肉や首肉は硬いから叩いてミンチにして……」

「ま、マルス様？ いつの間に料理の知識を？」

「本で見たから」

　うん、もうこの一点張りで良いや。

　説明しても、訳がわからんだろうし。

　独身で孤児の俺は、当時は料理をしていたから、今なら色々できるはず。

　……彼女もいないし、童貞だったし。

「はぁ……」

「ほら、リンも手伝って。どんどん焼いていこー！」

「はいはい、わかりましたよ」

　用意した簡易的なコンロにて、下味をした肉を焼いていく。

　すると……香ばしい香りが辺りに充満していく。

「お、お母さん！ 美味しそう！」

「本当にもらえるの！？」

「食べても良いの！？」

　どうやら、匂いにつられて集まってきたか。

「はーい！ 小さいお子さんはこちらに！ すぐに焼けますからねー！」

　彼らを見てると、昔の自分を見ているみたいだ。

　俺も、前世では食べるものにも困っていた。

　やせ細り、ろくなもんじゃなかった。

幸い、オロバンはタンパク質も高いし、優しい味わいだ。

栄養も豊富で、これなら元気が出るだろう。

「……よし、良いかな。はい、どうぞ」

　犬の獣人の子に、器を差し出す。

「……僕に？」

「ああ、そうだよ。ゆっくり食べてね。まだまだあるから」

「あ、ありがとう！ ハフハフ……うぅー……美味しいよぉ」

「ぁぁ……良かった……ありがとうございます！」

「いえいえ、すぐにスープも出来ますからね」

　ある程度したら、仕上げに肉と味噌を入れて……完成だ。

「母ちゃん！ こっちだぜ！」

「待っておくれ……あら、良い匂い」

　次々と人々がやってくる。

「皆さん！ 完成しました！ 順番に並んでください！」

「オォォォ——！！」

　人々が押し寄せてくるが……。

「ヤローども！ しっかり警備しろ！」

「たんまりと金もらってんだぞ！」

「おうよ！ 任せとけ！」

　事前に依頼しておいた冒険者たちが、人々を押し留めてくれる。

「はい、どうぞ」

「マルス様、私がよそいますよ」

「うん、お願いするね」

　俺が肉を焼き、リンがスープを配る。

「美味しい！」

「ハフハフ……あったかいねっ！」

「ぁぁ……そうだね」

　そうして……あっという間に肉とスープがなくなる。

「お兄ちゃん！ありがとう！」

「美味しかったです！」

「こ、こら！ 王子様なんだよ！？」

「いえいえ、気にしないでください。君たち、お腹いっぱいになったかな？」

「「うんっ！！」」

　人族が去っていくと……恐る恐る獣人たちが近づいてくる。

「あ、あのぅ……」

「うん？ どうしたのかな？」

「お、美味しかったです……」

「あ、ありがとうございます……」

「そっか、なら良かった。また、作るから食べにくると良いよ」

「お、お金ないです……」

「今は先行投資だから気にしないで良いよ」

「えっ？」

「うーん……まあ、君たちが元気になった時、働いてくれたら嬉しいです」

「が、頑張ります！」

「お、俺も！」

「わ、わたしも！」

「じゃあ、それまで沢山食べないとね」

　そして、笑顔で帰っていく……。

「ふぅ……」

「どうやら、第一段階は成功ですね」

「リンもお疲れ様。まあ、まずは点数稼ぎをしないとね」

「ふふ、照れてるんですか？」

「い、いや……あんまり慣れてないから」

　前世を含めて、人に感謝されるような人生じゃなかった。

　感謝されるって……良いもんだね。

「私は、ずっと感謝していますから」

「うん……ありがとう」

　ある意味、ここからが俺の第二の人生の始まりなのかもしれない。

　よーし！ 快適なスローライフを目指して頑張るとしますか！