国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい~目指せスローライフ~

第6話 村々の様子とこの世界について

　食べ終わる頃には、完全に日が暮れていた。

「ふぅ……美味しかった」

「ええ、大満足ですね。しかし、残りましたね」

　流石に二人で食い切れる量じゃなかったからなぁ。

「この近くの村まで一時間くらいかな？」

「ええ、大体そのくらいかと」

「じゃあ、そこの人達にあげちゃおうかな」

「いいのですか？ ギルドに持っていけばお金になりますよ？」

「うん、良いよ。これくらいなら。それに、基本的に食糧難だしね」

「ええ、そうですね……私は幸せ者です。マルス様のおかげで、飢えから脱することが出来ましたから。同族のみんなは……未だ貧しい日々を過ごしています」

「まあ、人間もそこまで余裕があるわけじゃないしね。貧しい人はいっぱいいて、格差は広がるばかりだし。もっと食料があれば、少しはマシになるんだけど。別に、人間が獣人を嫌っているわけでもないし」

　もちろん、一部にはどうしようもない人間もいるけど……。

　基本的には自分が辛いから、余裕がないから、自分より下を作ってるんだと思う。

「ええ、我々もそれはわかっています。余裕がないから、我々に押し付けていることは……感情論は別として」

「うん、許されることではないよね」

　それに、確か戦争はないけど……貧しい隣国とは常に緊張状態にある。

　一応、下にある国とは友好的けど……この世界は元々食料自給率が低い。

　理由は至極簡単なことで、食料である魔獣を魔物が殺してしまうからだ。

　もちろん、魔獣が勝つ場合もあるけど。

　なので魔物を殺すことは必須で、魔獣を飼いならすことも必須だ。

　今乗ってる馬だって、元々は魔獣の一種で、それを人用に飼育した結果らしい。

　……俺はだらだらしたいし、のんびり過ごしたい……そんな人間だ。

　……でも、よくいる偉そうなクズになりたくない。

　俺ものんびり過ごし、尚且つみんなものんびりできれば……。

　その後、近くの村に到着し……。

「はい、これを皆さんで召し上がってください」

「お、おおぉぉ——！ あ、ありがとうございます！」

「みんな！ 飯だぞ！」

「マルス様！ありがとう！」

「誰だよ！ 穀潰しなんて言ってたのは！」

「お、おい！」

　ウンウン、ここまで広がってるって相当だな。

　それにしても……痩せてるなぁ。

　やっぱり、どこの村もこんな感じかな。

「いえ、良いんですよー。実際にそうですから」

「まあ、否定はできないですね」

　俺たちがいては気を使われるので、端っこにある木造の空き家を借りることにする。

　ちなみに、お礼に野菜をもらうことができた。

　野菜は珍しくもないし、土地的に育てるのは難しくない。

　ただ肉を得るためには、戦える人がいないといけないからなぁ。

「さて、さっさと寝ようか」

「ええ、朝早くに出て行きましょう」

「うん、見送りは面倒だしね」

　外から聞こえる歓喜の声を聞きながら、毛布に包まる。

　不思議と心地よく……すぐに眠気がやってくる。

　やっぱり……偽善でも、良いことしたら気持ちいいもんだね。

　そして、夜が明けて……。

「ふぁぁ……よく寝た」

　リンの姿が見えないので、外に出てみると……。

　すでにリンは起きていて、ピシッとしている。

　俺より後に寝て、俺より先に起きる……まさしく、出来る女性である。

　騎士服ようなもの脱いで、村人のように布の服に着替えている。

「マルス様、おはようございます。すぐにスープが出来ますからね」

「うん、ありがとう」

　昨日とっておいた骨と、少しの肉、村人からもらった野菜を煮込んでいるようだ。

　まだ寒い薄暗い中、暖かい火と、スープの優しい香りが五感を刺激する。

「流石に冷えるね」

「まあ、今は時期的に寒いですから」

　この世界にも季節感はある。

　ただ、四季ではなく、寒い時期、暑い時期、真ん中の時期って感じだ。

　一年は360日で、12ヶ月を30日で区切られている……これはわかりやすくて助かる。

　一から四が暑い時期、四から八が真ん中の時期、八から十二が寒い時期だ。

「今は、十一月になったばかりかぁ」

「これからもっと冷えますね。さあ、出来ましたよ」

「おっ、ありがとう。というか、起こしてくれれば火をつけたのに」

「平気ですよ、魔石がありますから」

　えっと……魔石は魔物からとれる。

　人族は、それが魔力を込められることがわかったから……。

　それぞれの属性を込めて、色々なことに有効活用することにしたんだ。

　魔法を込めたアイテムって感じかな？

　ただ、あまりに込めると割れてしまう。

　オーガクラスなら、多少の無理は効くらしいけどね。

「でも、一度無くなったら使い捨てだし……」

「平気ですよ、昨日手に入れましたから」

「……そっか、うん、ありがとね」

「わざわざ起こすなんて考えられないです」

「じゃあ、これからもお願いするね」

「ええ、お任せください」

それでは、いただきます……ズズ……ほぅ、あったまる」

野菜の旨味と塩加減、骨の出汁が口の中で一体化してる。

「ハフハフ………うん、肉も美味しい」

ホロホロになった肉は口当たりが良く、口の中で溶けていく。

そして……あっという間になくなってしまった。

「ふふ、良かったです。おかわりいりますか？」

「いや、自分で……うん、お願い」

「ええ、もちろんです」

　これはリンがしたいからしてること……。

　その気になれば逃げられるし……。

　だから、俺が気を使う方が、リンにとっては良くない……。

　よし……大分、前世の俺と今の俺の帳尻合わせが出来てきた。

　そうだ、今の俺はマルスだ。

　傲慢になってはいけないが、この世界に慣れていかないと。