第7話 到着です……あれ?


 その後、魔物や魔獣を倒しつつ……途中の村々に泊まりつつ……。


 三日かけて無事にバーバラへと到着する。


 全体を高い塀で囲まれた都市のようで、後ろ側には森が広がっている。


 あれが、魔の森と言われるやつだろう。


 凶悪な魔物や魔獣がうようよいるって噂だ。


 ちなみにこの国と隣国の上には、森が広がっている。


 人類未踏の地と言われ、奥には邪神がいるとかなんとか……。


 多分、それが俺が助けた子が倒すべき相手なのだろう。


 まあ、俺には関係ないよね……ないよね? フラグにならないよね?





「待て! お前たちは何者だ!?」


 入り口には兵士達がいて、ピリピリしている。


「この方を誰だと思ってる!」


「リン、喧嘩腰はダメだよ。えっとすみません、マルスと申します」


 王家の証である短剣を見せる。


「こ、これは! 失礼いたしました!」


「おい! すぐに守備隊長を呼んでくれ!」


「なんでこんなに早いんだ!」


「えっと……待ってた方が良いかな?」


「出来れば、そのままお待ち頂けると……」


「わかった。じゃあ、大人しく待ってるね」




 五分ほど待っていると……。


「お、おまたせしました!」


 息を切らして、鎧を着た体格の良いおじさんが走ってきた。

 多分四十歳くらいで、なかなか厳つい人だ。


「いえいえ、平気ですよー」


「マ、マルス様ですね? お話は伺っております。私の名前は、ヨルと申します。案内するので、付いてきてください」


「わかりました。案内をお願いします」


「え、ええ……話と大分違うぞ?」


 ……聞こえてますよー。

 いや、俺が悪いんだけどね……。

 普通の対応をしてるだけで、印象が上がるとか……詐欺みたいで嫌だなぁ。




 都市の中に入ると……。


「ここが、辺境都市バーバラかぁ」


 通りには店が立ち並び、人々が行き交っている。

 でも……どうにも、活気がないなぁ。

 全体的に元気がない気がする……やっぱり、王都とは違うよね。


「さて、ひとまず着きましたね」


「お腹減ったなぁ。みんなも、そんな感じに見えるね」


「はは……申し訳ありません。なにぶん、貧しい地なもので」


「いえいえ、こちらこそすみません」


「噂には聞いてましたけど……酷いですね」


「ところで、その奴隷は……」


「ヨルさん、この子は奴隷じゃない。首輪ないでしょ? 彼女は、俺の専属護衛兼メイドだ」


「はっ? し、しかし……獣人なのに」


「俺が変わり者なのは、知ってるでしょ?」


「え、ええ……」


「そういうわけなんでよろしくね。対等に扱ってほしい」


「やはり……いや、しかし……わかりました」


 何やらブツブツ言っているが……まあ、納得できないんだろうね。


 うーん……社畜だった身としては、どうにかしてあげたいなぁ。




 視線を感じつつ、奥にある領主の館に到着し……。


 部屋へと案内され……領主と対面するはずだったんだけど?


「あれ? 領主さんは?」


「マルス様が領主だと伺っておりますが……」


「えっ?」


「初耳ですね」


「こちらがその通知となります」


 通知をみると、領主の名前が俺になっている。


「ほんとだ……兄さんの判子が押してある」


 どうやら俺は、領主になったらしい。


 ……どうしよう? 俺のスローライフへの道のりは遠そうです。






 ◇◇◇◇◇



 ~国王視点~




 ふぅ……まあ、こうなるよな。


 執務室で作業をしていたら、二人が怒鳴り込んできた。


「おい、兄貴。本当に良かったのか!?」


「私の可愛いマルスを返して!」


「落ち着け、二人とも」


 目の前には弟であり、騎士でもあるライルと……。

 妹であり、宮廷魔導師であるライラがいる。


「あいつをあんな僻地に飛ばすなんて!」


「そうよ! 可哀想じゃない!」


「俺とて、迷ったさ。父上と母上が残した、可愛い末っ子だ」


 両親は、あいつが三歳の時に亡くなっている。

 別にそれ自体は珍しいことじゃない。

 たまたま死んだのが、国王と王妃だったということだ。


「だったら!」


「どうして!?」


「俺達が甘やかし過ぎたからだ」


「うっ……そいつは」


「でも、あの子には……」


「わかってる、気持ちは同じだ。両親をほとんど覚えていないマルスを、俺たちは親代わりのように可愛がってきた。そのせいで、穀潰しと言われてしまうほどに」


「でも、あいつは頭も良いし、意外と人気あるぜ?」


「そうよ! それに優しい子だわ!」


「ああ、知ってるさ。しかし、俺たちのせいであいつの未来を閉ざすわけにはいかない。このままここにいたら、俺たちは甘やかしてしまう。もう、成人したのだから自立しないといけない」


 そう……穀潰しなどと言われてはいるが。

 下の者に偉そうにしないし、上の者に媚びたりもしない。

 あくまでも自然体で接するため、意外と人気は高い……一部を除いて。


「そうか……そうかもな」


「むぅ……悔しいけど、兄さんの言う通りね」


「それに、もうすぐで婚約破棄されるところだったんだぞ?」


「シルク嬢だな?」


「なるほど……あちらで領主として手柄を立てれば……」


「そういうことだ。この貴族社会において、あんな良い子はいない」


「わかった。じゃあ、静かに見守るとするぜ」


「そうね、あの子が妹になったら嬉しいもの」


 ふぅ……どうにか説得できたか。


 この二人には内緒で進めていたからなぁ。


 だが、俺はそんなに心配していない。


 リンは護衛としても秘書としても優秀だ、きっと力になってくれるだろう。


 それに……最後にあった時、あいつの目はいつもと違っていた。


 もしかしたら……何か、やってくれるかもしれないな。

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