第4話 魔物と魔獣

 馬に乗って、街道を行く。


 もちろん、俺が後ろだ……別にやらしい意味はないよ?


 単純に、俺が馬に乗れないだけです。


 どうやら、俺の生活は……。

 起きる→飯→寝る→飯→本を読む→おやつを食べる→寝る→飯→風呂→寝る。

 ……とまあ、このような感じだったようだ。

 我ながらひどい……まさしく惰眠をむさぼるニート生活。




「さて、この街道は騎士団達のおかげで大した魔物は出現しませんが……」


「うん、わかってるよ。ゴブリンやブルズくらいは出るよね」


「ええ、そうです。私は馬に集中しますし……逃げる方向で行きますか?」


「いや——俺がやるよ」


「え?……それはどういう意味で?」


「まあ、見ててよ。俺も——少しやる気を出すからさ」


「——ッ!!や、やはり、そうだったのですね?」


「え?」


「今まで頑なに使わなかったのは……感服するばかりですね。では、見せて頂きます」


 ん?どういう意味だろう?

 ……まあ、良いか。

 勝手に勘違いしてくれてるみたいだし。

 ただ、面倒だから使ってなかっただけなんだけど……。

 俺は別に『実は強い系にも、何かやっちゃいました?』系になるつもりもないし。





 街道を走り続けること、数時間……。


「む?いましたね」


「ギャキャ!」


「グギャ!」


 醜い身体に、落ち窪んだ顔。

 緑色の皮膚……うん、ゴブリンだね。


「ロックブラスト——続けてウインドカッター」


「え?」


「グギャ!?」


「キキャー!?」


 一体は石の玉で胴体に穴が開いて、もう一体は真っ二つになり……地に伏せる。

 そして身体が消え去り、小さな石になる。

 これが、

 正確には生き物ではなく、黒い邪気が実体化した姿だと言われている。

 多分、その辺が天使が魔物は殺しても良いって意味なんだと思う。


「連続詠唱……?それに違う属性の魔法を……何より、威力が……」


 リンが驚いているのには、ちゃんと訳がある。

 魔法は扱いが難しいので、熟練した達人以外は連続では撃てない。

 火、水、風、地の四属性があるが、人族なら魔法を使えることは珍しくない。

 しかし魔物を倒すほどの魔法を行使するには、魔力とそれを扱える才能が必要となる。

 威力についても、下級魔法で一撃なので驚いたのだろう。

 これが、チートってやつか。


「まあ、こんな感じだから」


「なるほど、これは隠しておいて正解ですね。こんな力があることが知れ渡っていたら……いやはや、恐れ入りました」


「はい?」


 何か勘違いされてる?


「いえ、何も言わないでください。やはり、私の恩人は立派な人間ということがわかりました。シルク様も、きっと気づいていたのでしょう」


「……助かるよ」


 どうしよう……今まで怠けすぎたせいで、色々勘違いされてるよ。


「では、魔石を取ってきますね」


 リンは馬から降りて、作業を行っている。


「それにしても……」


 魔物かぁ……殺したけど、全然忌避感はないなぁ。

 もちろん見た目の問題もあるけど……。

 おそらく、マルスとしての人格が強いんだろうな。

 前世の記憶は、あくまでも記憶があるだけみたいな感じ?

 まあ、この世界で生きていく上では楽かもね。




 再び進んでいると……。


「マルス様! ブルズです!」


「おっ、あれがそうなんだね」


 実物を見るのは初めてだな。

 猪に似た魔獣で、その突進となんでも食べる雑食性から危険視されている。

 見つけたら殺すのが義務であり、庶民の美味しい味方である。

 ちなみに……

 区別は実に簡単で、魔獣は魔石にならない。

 魔物は魔石になる。

 魔物は人類の敵であり、魔獣は敵でも味方でもない。

 友であり、敵でもあり……食材でもある。

 つまり——食材確保じゃー!


「リン! 今日の飯だ!」


「はい、今度は私が行きます。 魔法ではもったいないですから」


「うん、お手並み拝見といこうかな」


 別に魔力はまだまだ余裕があるけど、ここは任せるしよう。

 威力の加減を間違えたら、美味しい部分もぶっ飛んでしまうかもしれないし。


「ええ——シッ!」


 居合いのように鞘に手を置き……地を這うように駆け出す!


「ブルル!」


 それを見て、敵も同時に駆け出して……。


「ブルァ!」

「なんのっ!」


 リンとブルズが交差して……鮮血が舞う——ブルズの首から。


「おおっ! カッコいい!」


 リンの戦うところなんか、初めて見るけど……。

 刀っぽい武器といい、居合いといい、カッコいいよなぁ。


「そ、そうですか……あ、ありがとうございます」


 おや? 頬をかいて照れてますね?

 どうやら、リンはクーデレさんなのかも?

 ……だんだんと、前世の感覚が戻ってきた気がする。


「うんうん、しっかり首だけ切れてるし。それにしても、魔獣に魔物かぁ」


 そう……この世界には、前の世界でいうところの普通の動物はいない。

 いるのは、魔獣という生き物だ。

 でっかい昆虫だったり、強い草食獣や肉食獣、人を丸呑みできる魚など……。

 元々そういう生物しかいなかったのか、世界に適応したのかはわからないけど。



「それで、どうします?」


「うん? あー、そっか」


 この世界には、みんな大好きアイテムボックスはないようだ。

 空間魔法とか、そういうのもないらしい。

 ……あれ? 意外とチートでもない?


「暗くなってきたし……お腹減ったなぁ」


「ふふ、そうですね。じゃあ、ご飯にしますか」


 よーし! レッツクッキング! 流行りの異世界飯だ!

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