第3話 リンは狐の獣人

 城を出た俺は、まずは冒険者ギルドに向かう。


「ところで、護衛は良いんですか? 多分、国王陛下は用意してると思いますけど……」


「まあ、そうだろうね。こっからバーバラまでは三日はかかるし」


 兄貴達は兵士を用意して、送っていくつもりだとは思う。

 でも、俺はそれがめんどくさい。

 どうせ、あーだこーだ言われるし。

 だから、黙って出て行っちゃおう。


「平気だよ。道中には大した魔物は出ないし」


「まあ、そうですけど……」


「何より、リンを嫌な目に合わせたくないし」


 この世界の獣人の立場は厳しい。

 基本的に奴隷階級で、人族に使われることに慣れきっている。

 一部の人からは、人間になれなかった『なりそこない』まで言われている。


「マルス様……ありがとうございます。では、私がお守りしますね。あれ? でも冒険者ギルドに行くんですよね? 登録するんですか?それとも、護衛の依頼ですか?」


「いや、護衛はいらないよ。一応、リンがいるしね」


 俺の身長は多分、170ちょっとくらいだけど……。

 リンも似たような感じだろうな。

 モデルさんみたいな体型で、この世界の女性としては高い部類かな。

 狐の獣人で、頭には二つの耳と、後ろにはカールした尻尾がある。

 容姿は綺麗系で、凛々しい感じだ。


「まあ、私はD級ですしね」


 冒険者ランクは上からS,A,B,C,D,E,F,Gとある。

 依頼事にポイントがあり、それが一定数貯まると試験が受けられる仕組みだ。

 リンは真ん中ということで、それなりの実力者ということだ。

 まだ20歳という若さなので、なかなかである。


「強くなったよね。初めはガリガリで弱かったのに……」


「貴方に助けて頂きましたから。獣人である私を、貴方は救ってくれた。そのご恩をお返しするには、学のない私は強くなるしか方法はありませんでしたし」


「もう、気にしなくていいんだよ?今までも世話になりっぱなしだし、これからは給料も払えないよ?」


「問題ありません。貴方がいる場所が、私のいる場所ですから」


「そっか……ありがとね、リン。これからもよろしく頼むよ」


「はい、お任せを。シルク様の代わりに目を光らせておきます」


「はい?」


「いえいえ……さあ、行きましょう。こっちです、ついてきてください」


 リンの後ろ姿を見ながら、記憶を引っ張りだす。


 確か10歳の時に、奴隷として売られていて……。

 俺が無理を言って買い取ったんだよな。

 生まれて初めて奴隷を見た時で、ものすごい嫌悪感を覚えたんだ。

 この世界では当たり前のことなのに……。

 でも、今ならわかる……俺の魂が拒絶反応を起こしていたのだろうと。

 ……社畜で奴隷のような日々を。




 その後、冒険者ギルドに到着する。


 そのままリンに案内されて、ささっと登録を済ませる。


 ほんの二、三分で終わってしまった……。


「早っ!」


「そんなものですよ。いちいち時間かけてたら仕事になりませんし。わからないことやルールはガイドブックに載ってますし」


「まあ、そうなんだけど……」


 前世の記憶を思い出したからか、こういうイベントには憧れがあるんだけど……。

 新米冒険者に絡むやつとか、頼れる兄貴分とか……色気のあるお姉さんとか。


「さあ、出発しましょう」


「そうだね、早く行かないと強制的に連れていかれちゃうしね」


「あり得ますね、宰相あたりが」


「嫌われてるからなぁ……」


 まあ、無理もない。

 穀潰しが好かれるわけがないもんな。

 宰相が悪いわけではなく、俺が悪いんだし。


 その後王都の出口にて馬を拝借して、辺境都市バーバラに向かうのだった。

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