第3話 ゴールド・ツィン・デレお嬢様
レズ疑惑急上昇中のメイドさんに着替えを(強制的に)手伝ってもらい、僕は着替えました。メイド服でした。
「どうしてメイド服なんですか!?」
「とてもお似合いですよ♪」
可愛らしくウィンクをして、取り合ってはくださいませんでした。世の中は理不尽です。力なき者は強き者に従うしかない定めなのですね。
普通の男の子なら、スカートがスースーして気になるとか、女性の下着に着用することに抵抗があるでしょう。ただ、僕は違います。『や~ん! やっぱり瑞樹ちゃんはかわいい服が似合う~♪ 次はメイド服かしら~』と姉や妹たちに着せ替え人形にされていたのです。経験の厚みが違います。……死にたくなりました。
そんなこんなで食堂に案内され、豪華な朝食を食べました。オムレツやソーセージにパン。一つひとつは珍しくありませんでしたが、味は絶品です。ゼラチンの冷製コンソメスープとか初めて食べました。
ただ、異世界と言っても変わった食事は出ないんだなと安心と、少しばかりの残念な気持ちでした。食べ終わってからそんなことをミアさんに聞いてみたら、
『……? 異世界料理、ですか? うふふ。お気付きではなかったのですね。さきほど、瑞樹様がお飲みになったスープは、スライムを潰して味漬けを加えたマッシュスライムと呼ばれる料理でございますよ?』
トイレに駆け込みました。蓋を開けたらスライムと対面しました。汚物処理だそうです。もう、なにも信じられそうにありません。
■■
「それでは、これより当家のお嬢様方にご挨拶をしていただきます」
「僕、メイド服なんですけど」
「かわいいです♪」
このメイドさんは、可愛いと言えば許されると思っているのでしょうか。修学旅行で班分けの際、男女共に僕を取り合って『可愛いは犯罪!』と黒板に書かれて一人部屋になったのを思い出しました。僕のトラウマは限りを知りません。トラウマノートはインクで真っ黒です。
そうして案内されたお部屋。
両開きの大きな扉を想像していましたが、ノブがある普通のドアでした。よくよく考えれば、普通に生活する上で、大きい扉は邪魔だと思い至りました。普通が一番です。
「ちなみにこのドアですが、職人に特注して作っていただいた一点物ですので、傷を付けてはいけませんよ? ドア一つで人一人分の一生ぐらいは買えますので」
扉に触れなくなりました。
「お嬢様。ミアでございます」
というわけで、ミアさんにお願いしました。召喚された時、顔だけは合わせているとはいえ、ほぼ初対面みたいなものです。知らない男(性転換済み)がいきなり訪れてくるのは恐ろしいですから。……ほんと、怖い。
『勝手に入って! 今、ちょっと手が離せないの!』
扉越しに返答が返ってきました。
気の強さを感じさせる声です。強い女性は苦手です。『さぁ! 私と一夜を過ごそうではないか!』と裸で突撃してきた先輩を思い出しました。ちなみに、気の弱い女性も苦手です。
「失礼いたします」
ミアさんが扉を開けました。
許可をもらったからといって、僕のことを伝えなくてよかったのでしょうか?
「くっ、上手く詰められないっ」
扉の先では、大きいブラの内側に必死で詰め物を入れている金髪の美少女がおりました。
昔からよく言われます。『お前はいつも気付くのが一歩遅いよな』と。その通りでぐうの音もでません。ぐう。
「ちょっとミア! パット詰めるの手伝って……よ…………」
彼女もこちらに気が付きました。手からパットが落ちました。二枚重ねでした。
ピンクの可愛らしい下着だけを身に付けている金髪美少女さん。しかも、胸回りはスカスカで、内側見えそうで困ってしまいます。
「こちら、ゴールド・ツィン・デレお嬢様でございます」
「誰が金髪ツインテールツンデレよ!」
「大変失礼致しました。虚構築きし清らかなまな板でございました」
「虚構じゃないから! ちゃんとあるから! 現実だから!」
「お嬢様。私の胸に触れてくださいませ」
「? なんでよ、もう」
ぐにっ。
「次に、ご自身の胸に触れてください」
「だからなによ」
ぺた。
「ね?」
「終いにゃ泣くわよ!?」
とても見ていられません。涙で視界が霞んでしまいます。
僕はそっと扉を閉じました。
「閉じんじゃないわよ!?」
怒られました。
「なに開けてんのよ!? まだ着替えてないでしょう! このヘンタイ!!」
世界は理不尽で溢れていました。
■■
「では、改めて紹介させていただきます。こちら、ホウオウイン家のご令嬢、クロトお嬢様でございます。お気軽にパットお嬢様とお呼び下さい」
「パットお嬢様」
「ぶっ殺すわよ!」
殺されそうです。
そんなわけで、ホウオウイン家のご息女であるクロトさんとご対面です。気になる点は色々とありますが、もっとも気になるのは、
「なんでホウオウインなのですか?」
「家名を頂く際、異世界の格好良い名前がいいと、ホウオウイン家の初代ご当主様がお決めになられました」
初代ご当主様はこじらせていたらしい。
「危うく私の名前は
「ご先祖様だけではなく、現ご当主様も患っているんですね……。ところで、ここは本当に異世界ですか?」
現実疑惑急上昇です。異世界でキラキラネーム問題に遭遇するとは思いませんでした。
「ぴかちゅーお嬢様に関しましてはこのぐらいで」
「ぴかちゅー呼ぶな!」
「こちら、昨夜ご当主様が異世界より召喚されました、お嬢様方の婚約者候補、瑞樹様でございます」
「
「ふん……知ってるわよ。ところで、なんでメイド服着てるの?」
「教えてください」
「聞いたの私なんだけど!?」
異世界不思議発見。
「……っ、想像以上にふざけた奴ね。ふん! まあいいわ。言っておくけど、私はあんたと結婚だなんて認めないから! 家の決まり事だからって、なんで見ず知らずの男と結婚しなくちゃ……あんた、男だっけ?」
「心は男です。身体は女です」
「……? ふぅん」
ふにっ。
「きゃぁああああっ!?」
「私よりおっきいじゃないふざけんじゃないわよ!?」
おっぱいを揉まれて怒鳴られました。理不尽です。横暴です。電車で股間を触られて『こんな可愛い子にチ〇コが生えているわけがない!』と怒られるぐらい理不尽です。その方は、次の駅で警察官に連れていかれました。僕は婦警さんに『怖かったね? もう大丈夫だから安心してね? お嬢ちゃん』と慰められました。頬を伝う涙の量が増えました。
「と、とにかく! 私はぜっっっったいにこんな奴と結婚なんてしないから! あんたも、その気になるんじゃないわよ!?」
「はい! 絶対なりません!」
むしろ望むところです。
異世界に召喚されて結婚だなんて言われても実感が湧きませんし、困ってしまいます。僕は結婚だなんてまだまだ考えられません。もし、結婚するのであればお互いが好きになってから、何回かデートをして、手を繋いで、観覧車が天辺まで至った時に『好きです』って告白して花火がどーん。そこから恋人になってゆくゆくは結婚という順序を辿っていくべきだと思うんです。
この話を幼馴染にしたら『瑞樹君は乙女よね』と微笑まれました。乙女違います
「誰がなんと言おうとも、僕はクロトさんと結婚なんてしませんから! 断固拒否です! 例え世界が崩壊して全人類が僕とクロトさんだけになっても、絶対に結婚なんてしません!!」
「なんでそんな酷いこと言うのよ!? バカぁっ!!」
「なんで半泣き!?」
互いに望んだ通りに対応をしたというのに、手の平を返されてしまいました。なぜなのでしょうか。告白を断って『もう嫌い! 追い掛けてこないで!』と教室から去って行った女の子を見送ったら『なんで追いかけてこないのよ!?』と問い詰められた記憶が蘇ります。追いかけるなって言ったじゃないですか。
「瑞樹様。心身共に女の子だというのに、乙女心がわかっておりませんね」
「心は男の子です」
「嫌よ嫌よも好きのうち。嫌いは好きの裏返し。これが金髪ツインテールまな板族に伝わる伝家の宝刀『ツンデレ』というものです。またの名をお家芸とも」
「いやぁああああっ!? なんで結婚してくれないのぉおおおおおっ!?」
「ここって秋葉原ですか?」
現実疑惑は時を追うごとに増大中。
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