第25話 恋の結末/人類の敗北
「これまで、ほんとにいろいろあったね……」
勇者学園の伝説の木の下で勇子が言った。
この勇者学園には、校舎裏の桜っぽい木の下で愛の告白が成功したら、幸せな将来が約束されるという。
「うむ、確かに……本当に、色々なことが起こったな……」
なんかもう、色々ありすぎて思い出せないくらい、色々なことが……
実はなかったのである。
学園祭から一か月ほどしか経過していないため、そりゃそうだろう。
ちなみに、その一か月の間で、全人類は、目の前の勇子を除いて、全員が俺のファンとなっている。
「楽しかった……」
勇子が遠い目をしながら言う。
「運動会」
俺はその言葉を継いで、言う。
「みんなでカレーを作った……」
「林間学校」
「どきどきした……」
「修学旅行」
「あんまり受けが良くなかった……」
「……学園祭」
最後の言葉は、俺にとって、あまり良い思い出ではなかった。
「本当に、色々なことがあったね」
「そうだな……」
そうだな……と、言いつつ、俺はそうでもないんじゃないかな? と思っていたが、話を合わせていた。
おそらくこれは……告白イベントである。
俺のファンでない人類最後の少女、勇子がとうとう俺に告白する。……そんな流れだ。
ならば俺は、一人のエンターテイナーとして、彼女の告白を大いに盛り上げる!
「ねぇ、魔王。私、これまであなたにずっと言いたくて。……でも、ずっと言えなかったことがあるの」
俺は無言のまま、なんかこう、張り詰めた雰囲気を察した、というような表情で、勇子を見る。
「魔王。あなたが魔族の王でも、もう関係ない。……好きよ。これ以上、この気持ちに嘘は付けないわ」
おおっ! やった! これで、人類総ファン化決定でござるよ♪
「私と、付き合ってほしい」
まっすぐに視線を向けてくる勇子。
これで俺が応じれば、めでたく人類はみんな「おれのことすき」状態になる。やっほー。
「勇子……」
彼女の名を呼ぶ。
びくり、とわずかに肩を震わせる。
そうしてから、上気し、赤面した顔をこちらに向けてきた。
「俺は――」
しかし、俺の返事が勇子へと届くことはなかった。
「て、てぇへんだ!!!!」
なぜなら、唐突に「て、てぇへんだ!!!!」おじさんこと、レベル6の勇者であるテイヘンダー=オジサンが、伝説の木の下に現れたのだ。
慌てた様子のオジサンに、俺は問いかける。
「一体どうした? なにがてぇへんだ!!!! なのだ? 余に教えてくれ、オジサン」
ちなみにこの時、勇子は不機嫌そうにそっぽを向いていた
……耳まで真っ赤になっているのが分かった。
「ま、魔王、良いか、おちちゅいて聞いてくれ……」
全然落ち着いていないオジサンは慌てていたのか、噛んでいた。
オジサン(かわいい)
「三姫臣と【伝説の呪龍(カースドラゴン)】」が、攻め込んできたんだ……」
「何!?」
あの「絶対に本気を出さない三姫臣とハナくそども」が!?
流石の俺も驚きを隠せないでいた。
「このままじゃ、人類は終わりだ……お願いだ、魔王! 人類を、助けてくれ……っ!」
オジサンは、悔しそうに歯噛みしていた。
レベル6の勇者と言えども、本気になった三姫臣とハナを止めることはできないのだろう。
それが、ひどく悔しいのだろう。
「任せておけ――」
なんか知らんうちに本気を出してしまったクソどもに、「めっ!」をするのは、魔王である俺の役目だ。
俺はいまだに照れている勇子と、オジサンを伴い、現場へと急行するのだった。
☆
「ここだ!」
過程を描写するのをすっ飛ばし、現場に着いた俺たち。
そこには……
「あれは……人類最強のデュエリストと名高いバービブ・ベ・ボーボ!? なぜ、ボーボがここに!?」
なんかものすごい髪形をした人間、ボーボが三姫臣とハナの前に立ちふさがっていた。
三姫臣とハナはかなり自信満々な表情を浮かべていた。なんかムカついた。
と、いうよりも、だ。
ボーボは確かに人類最強のデュエリスト、カードゲームはめっぽう強いが、実戦は相当弱い。
三歳児相手に殴り負けるようなうんこだぞ! 死にたいのか!?
「おちちゅけ、魔王……奴らが挑んできた戦いは……ただの「殺し合い」ではない」
オジサン(かわいい)
「どういうこと?」
勇子が問いかける。
それに答える声はなかった。
ボーボとクロナの次の行動で、分かったからだ。
「「|決闘(デュエル!!)」」
どうやらカードゲームで勝敗を決するらしい。
この場にボーボがいるのも、納得だ。
「先行は頂いたぜ、ドロー!!
ボーボが先行を頂いた!
クロナは不敵な笑みを絶やさず、ボーボを見ていた。
「俺は「ハンドレス・マジシャン」を攻撃表示で召喚するぜ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ハンドレス・マジシャン
攻撃力 0
守備力 0
怪しげな術を使う、奇妙な魔術師。
油断ならないモンチャーだ!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「「「攻撃力・守備力0のモンチャーカードを攻撃表示で!?」」」
俺と勇子とオジサンが同時に言う。
「一体、何を考えているの?」
勇子が困惑している。
「おそらく、あのモンチャーには強力な効果があるのだろう」
俺は予想した。
そして……
「俺はカードを7枚、場にセットするぜ!」
なんと、ボーボは残りの手札をすべて場に伏せた。
すると……
「この瞬間、「ハンドレス・マジシャン」は真の姿を現すぜ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ハンドレス・マジシャン
攻撃力 500000000000000000000000
守備力 500000000000000000000000
ハンドレス・マジシャンは手札0枚で真の姿を現す!
あらゆる効果を受け付けない、最強モンチャーだ!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「攻撃力 500000000000000000000000、だとぉ!?」
俺も思わず叫んでしまった。
しかも、あらゆる効果を受け付けない、とんでもないチートカード。
……しかし、なんという幸運だ、ボーボの奴。
「ハンドレス・ナイト」を初手で引き、それ以外のカードも場にセットできる魔術カード。
しかも、7枚とも。
「場に伏せカード7枚……これは、とんでもないプレッシャーね」
勇子がボーボの場を見て戦慄する。
「OH~、これがボーボ・ボーイの「手札0戦術(ハンドレスタクティクス)
デース!」
オジサンが急に胡散臭い口調になって、そう言った。
「これで、ターンエンドだ」
勝ち誇った表情で、手番は終わりと告げる
「これは……もう終わりだろう」
ギャラリーから、興ざめと言わんばかりのため息がこぼれる。
それは、そうだろう。
これから、逆転は、難しい。
しかし、クロナの瞳には暗く燃える炎が宿っていた。
「……くくく、ははは……あはははははは!」
そして、嗤う。
ギャラリーは
「あきらめちまったか」
「気でも触れたか?」
「もうおしまいかよ」
などと、好き放題言うが……違う。
これは、勝利を確信したからゆえだと、俺は気づいた。
「まさか……!」
「えっ!?」
俺の呟きに勇子が応じるものの、説明をする余裕が俺にはなかった。
「愚かで無知な人間どもね……」
「何を言っているんだぜ!?」
「いいかぁ、このゲームにはなぁ……必勝法がある!」
〇〇さん!?
「まず、このゲームには……特殊勝利がある」
「……スマンソ神のことか。それを手札にそろえるのが、必勝法? 笑わせてくれる!」
明らかな嘲笑。
そして……鏡合わせのように、クロナも嗤う。
「囀るな、雑魚がっ! ドロー!」
そして、クロナはドローしたカードを確認して……
「くたばりなさい、ボーボ・ボーイ! 【スマンソ神のミギチクビ】【スマンソ神のヒダリチクビ】【スマンソ神のちん○】【スマンソ神のチクビとちん○以外】の四枚のカードが手札にある時、ターンプレイヤーは決闘に勝利する!」
そういって開示した四枚の手札は……【スマンソ神】だった!
「なっ! 右手を光らせずに【スマンソ神】を!?」
「できらぁっ!」
威勢の良いクロナの言葉。
「神の怒りを食らいなさい、クソ雑魚ボーボ・ボーイ! 【スマンソ・スンマセン・ヒップイフレイム!】」
【スマンソ神】とかいう小汚いおっさんが、ボーボ・ボーイに向かって屁をこいた。
「ぐ、ごっあ……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!!」
そして、人類最強のデュエリスト・ボーボのライフポイントは0になったのだった――。
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