第6話 地獄の三姫臣

~~感動の『ごちそうさま』から10時間後




 ぴんぽーん!


 と、魔王城のインターホンが鳴った。




「はーい」




 クロナがエプロンで手をふきながら返事をする。


 そして、一階の玄関の魔王城の扉を開いた。




「まーおーうくーん! あーそびーましょー!」




「あら、魔王様! お友達が来られましたよー」




 クロナが二階にいる俺に、一階から声を掛けてきた。




「はーい! ……む、おかしいな? この世界に転生したばかりの俺に、友達など……はっ! クロナ、退け!! これは罠だ!」




 よく考えたら転生する前の世界でもヒキニート無職童貞のウフフニート! な俺に友などおらん!


 くそ、思い出させるなぁぁあ!!!!




「えぇっ!?」




「っち、感づかれたか……しかし、もう遅い! 喰らえ!」




 そう、俺の友達と偽り、魔王城のインターホンを押したのは、何を隠そう俺たち魔人を殺しに来た勇者の一人だったのだ!




 すっかりお母さんモードになったクロナは、勇者の振り下ろす剣に反応できていない……ことはなかった。


 普通に勇者に反撃をくらわしてぶっ殺していた。




 あーもう。玄関が血で汚れちゃったよう……。




「屑どもめ……まさか、魔王様の友と騙るとは。言語道断です!」




 そう言って、勇者の首を千切ってからそれを外に投げ捨てた。




 外には、どうやら他にも勇者がいたようで、「うぎゃー、くそ忌々しい魔人どもめ、ぶっ殺してやるー!」という物騒な声が聞こえてきた。




「ふむ。どうやら勇者共が来たようである。……先ほど授けた策に従い、行動を開始する。アオイ、用意を」




 アオイは俺の言葉に無言で頷き、そして、この魔王城を中心にドーム状の結界を発動。


 ……この間確認したステータスによれば、総合的な能力は三人娘の中で最も劣るものの、魔法の能力、特に結界魔法に関しては他の二人を上回るほどの適性が有る。




「うむ、よいぞ。それでは、次。[クロナとアカリ]よ。……派手に暴れて来い!」




「はっ……御心のままに。《我が君よマイ・マスター》」




 クロナが跪き、俺の声に応えた。


 ……なんかいつもとキャラが違う。




 おそらく、テンションが上がっているのだろう。


 後で恥ずかしくなって「あー!」ってなるやつに、違いないだろう。




 そんなクロナを白い目で見るアカリとアオイ。


 彼女らは魔王城with結界の中から一歩外に出た。




 そして、彼女らの姿を見た勇者共……肉眼で確認できるだけでも数千を超える勇者がうようよいる。


 陣形も隊列もあったもんじゃないが……あまりにも多数。




 普通に考えて、無理ゲーであるが。


 ぼっこぼこのウンコの助にやられる未来が、良ーく見えるぞい!


 でもでもそんなの嫌だヤダ!


 というわけで、今日もお仕事がんばるフォイ!




 さて、彼女たち[地獄の三姫臣]が、どの程度の実力か、とくと見させてもらおうか。




「出たな……[地獄の三姫臣]! 今こそ、貴様らの年貢の納め時だ!」




「だがしかし。っち、なんてパワーだよ……」




「それだけじゃねぇ、この殺気。……北の拠点を守護する[ケツゲ]の殺意が、児戯にも感じられるぜ」




「これ終わったら飲みに行こうぜ、ウェーイ☆」




「それに、見なよあれを! 顔小っちゃーい! スタイルもすごーい! モデルさんかな?」




「あ、あの背中の翼みたいなアクセ? も、マジ可愛くなーい?」




「やあーん、ホント。素敵~!!」




「これ終わったら飲みに行こうぜ……ウェーイ☆」




 ビビってる


 こいつらほんとに


 ビビってる




 それだけじゃなかった、気付いた勇者もいるようだが、[地獄の三姫臣]は抜群のルックスなのだ。


 モデルや芸能人すら霞むほどの抜群のルックス、略してバックス……いや、スタバだ。




 戦いの最中だというのに、見惚れているものまでいる始末。




 だがそれも


 やれやれ全く


 仕方ない。




 というわけだ。


 残る疑問は、あの背中の翼って、アクセサリーなのかな? それとも本物なのかな?


 ……という事だけである。




 だがそれは、今はどうでも良い。


 とにかく[三姫臣]の実力を見極めるのでアール!




「罪なき我が同胞を虐殺した人間カス共よ……。人間カスらしく喚き散らしながら命を散らす覚悟はできているか? ……できていなくても関係ない、わね」




 そう言って、瞬時に魔法を発動。


 周辺にいた数十人の勇者が蒸発して消え去った。


 おそらく、焔系の魔法を発動。




 あまりの高熱に、一瞬にして人体が蒸発したのだろう。


 俺じゃなきゃ見逃しちまうね。




「こんなにうじゃうじゃ、うっとおしいぞ。……だけど、ちょっとだけ楽しみだぞ。だって、こーんなにたくさん……」




 今度はアカリだ。


 周辺に輝く魔法陣が出現。


 慌てふためいた勇者たちが防御魔法を発動させるのだが。




「殺せちゃうんだもんっ!」




 とても可愛らしい幼女スマイルを浮かべたアカリが、地面から大量の杭を召喚。


 それに防御魔法ごと貫かれた数十人の勇者たちが苦しみに呻き、そして死に至った。




 俺じゃなくても見逃す奴はいない虐殺で、普通にビビりました! 




「ふふ……、気ー持ちいいなぁ」




 恍惚とした表情で言うアカリ。




 それにしても、意外だった。




 まさかアカリが「全自動『魔王様、すっげー!』BOT」を卒業したと思いきや、まさかこんなシリアルキラーにジョブチェンジするなんて、な。




 ……普通に喋れるんだったら、まじでちゃんと俺と言葉を交わしてくれないかな。


 某ネズミさんみたいに声優さんが「自分の種族名」だけで喜怒哀楽を表現できるのならば問題は無いが、声優さんではないアカリでは……「魔王様、すっげー!」だけで、喜怒哀楽の表現はできないじゃん?




 というわけで、後で説教することを俺は心に誓った。




 2人は頑張って、勇者たちをぶち殺していったのだったが、徐々に押され始める。




 数の暴力は圧倒的であった。


 三姫臣が大技を連発し、面白おかしく勇者どもをぶっ殺したのだが、それでも数は4,000も減っていないだろう。


 ……いや、二人で4,000近く減らすって普通に考えてヤバくね?


 俺はそう思った。




 とりあえず、俺は二人を呼び戻す。




「良い。余が出る」




 俺の言葉に、即座に反応する[三姫臣]


 アオイは結界を即座に、一部解除。


 そして、結界内部に二人が戻ったのを確認し、再び完全なる結界を展開した。




「……申し訳ございません、魔王様。奴らを殺しきること、叶いませんでした」




 三人娘はしょぼぼ~んとしていたが。俺は彼女らの頭を、お~よちよち! と撫でる。




「後は、余に任せるが良い」




 うひょー! と、俺は魔王城with結界からうひょーと飛びだうひょー!!!




 俺がどこぞの虫やろうのようにウヒョウヒョ言っていると、




「……な、なにぃ!?」




 勇者連合から、驚きの声が上がった。




 それはそうだろう。


(驚きの声のタイミング、微妙に遅くね、と思ったのは、ちょっとだけ秘密にしておきたい)




 なぜならば、これまで自分たちが必死になり、多数の犠牲を出しながらも体力、魔力を削った[三姫臣]が回復に努めるために退き、未だ気力・体力ともに十分の俺が目の前に現れたのだ。


 つまりは……勇者たちにとっての悪夢、というわけだ。




 そう、俺がとった作戦とは、織田信長公が長篠の戦にて用いたかの有名な作戦。


 三段鉄砲から着想を得た作戦だ。




 まず、アオイの結界による絶対防御フィールドを作る。


 そして、俺一人とクロナとアカリによるローテションを組む。


 一方が戦いしている際、片方は休息に努める。


 そして戦いをしている者が負傷、疲労、目の疲れ、明日への希望を失った際は結界に避難。


 気力・体力の回復をしているその間、もう片方が勇者をぼっこぼこのくそみそうんこたれにする、という。




 隙を生じぬ二段構えの攻防一体の完璧な作戦なのである。




 とりあえず絶望した表情でガビーン! ってなってる勇者連合に、俺はこう、威厳というか王っぽさをね、分かりやすいように態度に表しながら言っちゃうぞーっと!




「さて、勇者共よ。……第二ラウンドの始まりだ。存分に、楽しませてくれたまえ」




 俺というラスボスとの強制エンカウント、ご愁傷さまです勇者様。チーン。


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