第7話 喧嘩する程仲が良い
説明しよう!
一万の勇者連合に相対するは、俺を含めた魔人4人。
本来ならあまりの多勢に無勢。故に勝ち目はナッシング。
だがしかし、俺が織田信長大先生から拝借した作戦は、以降戦争のスタンダードの戦略となる作戦であった。
あ、そうそうその作戦の説明であるのだ。
その作戦とは、結界専用の一人、攻撃チームの[クロナ&アカリ]と俺の計3チームに分ける。
攻撃と休息を[クロナ&アカリ]ペアと俺とでローテーションさせる!
とりあえず隙を生じぬ二段構え!
つまり相手は死ぬ!
……たまには、こういう説明も俺は良いと思うのだ。
風情があって良いものだな、うむ。
「こいつが……魔王っ!?」
「太古の昔、人類を破滅へとあと一歩のところまで追いやったという、あの……!!」
「やばっ、めっちゃイケメンなんですけど……」
「さっきの娘たちのカレシかな?」
「うっわ、それまじ美男美女過ぎじゃね?」
「素敵~! あ~、私もイケメンの彼氏欲しいなぁ」
「何言ってんのよ、あんた小田君とこの間付き合ったばかりじゃない。なに、もう飽きちゃったの?」
「飽きたっていうか~、彼、けっこうワイルドなのよねー」
「えー、何言ってんのよ。あんた『ワイルドなところが素敵!』って言ってたじゃないの!」
「そうだけど……実際付き合ってみたら、ワイルドとは名ばかりのただの小汚い浮浪者だったのよね、彼……」
「あ……そうなの? へー、大変じゃん」
「うん。流石に、主食が雑草なのは、ちょっと……ね。ワイルドって言葉でお茶を濁すのは難しいよ」
「だが、可笑しいぞ……魔王といえば先程の[三姫臣]よりも格上のはずなのに、奴からは何も脅威を感じられない?」
「へっ、伝説が一人歩きして、実際はただの雑魚でしたってオチか!?」
「太古の魔王つっても、今を生きる勇者たる俺たちにとっちゃただの化石だぜ」
「はっ、違いねぇ!」
「ビビってねぇで、行くぞ!」
「お、行く? ちょっと早いけど飲みに行く? ウェーイ!」
モブ共がよっこらわっしょい騒いでるぞ。
俺は「やれやれだぜ……」と呟きつつ首を左右に振ってやれやれ系主人公アピールをして見せる。
もちろんこの時、本当にやれやれ……って感じの表情をすることも忘れない。
俺は今世界一やれやれしていると言って過言では「やれやれ、全く……」ない。
「御託は良い、勇ましき者。いと小さき者ども。我の首を欲するならば……」
俺は台詞にためを作る。
大物っぽさの演出のためだ。
分かるかなー、これ。
ま、こいつら程度には、分からないかもなー。
「さっさとかかってくるが良い」
俺はマントを勢いつけて翻した。
「!!!」
そして俺はフリチンを晒したのだ!
も、もー! エッチな風さんなんだからっ!
「「「っ!!! やべえぞこいつ、フルチンだ! フルチン魔王だ!!」」
「いいや、余はフルチン魔王ではない。……裸マント魔王だ! それが、余の本質だ。愚弄してくれるなよ、小さき者ども。勇ましき者どもよ」
「「「はーい、裸マント魔王、ごめんなさーい!!!」」」
元気いっぱいの勇者たちの謝罪の言葉。気持ちの良い謝罪であり、
「べ、別に本気で怒ってるわけじゃないし……分かってくれたら、それでいいんだからねっ、勘違いしないでよねっ!」
俺は爽やかに、彼らを許すことにした。
そして、戦いは唐突に始まる。
「【余の命に従えオーダー】自害しろ、勇者共」
というか俺が唐突に一方的に【最上位命令グランドオーダー】を発動させた。
そして、その一言の効果は劇的であった。
一瞬で1,000人近い数の勇者たちが、自らの命を手にした武器で、或は自慢の魔法で絶ったのだ。
……うわ、ネタで言っただけなのにマジで自害したぜこいつら。……ヒクわー。
引いたまま、俺はすかさず次の言葉をハッスルハッスル。
「【余の命に従え】ステータス、オープン」
ビショビショキュルルン!
というSEがあちこちから聞こえてくる☆
……うむ、なるほど。大体わかった。
先程の【最上位命令】で自害しなかったのは、全員がレベル5以上か、幸運の値が高いかのどちらかだ。
おそらく、攻撃性のある俺の【最上位命令】には、よくJRPGにあるような設定で、【ボスキャラには一撃死技が効かない】のと同じような縛りがあるのだろう。
だが、ステータスは、勇者全員分の丸見え丸見えうひょひょひょひょい!
【最上位命令】は、効果範囲と引き換えに、攻撃性が高まるのかもしれない。
そう思い、目の前の困惑しているそれなりに美形なビキニアーマーをきている勇者(♂)に対して「【余の命に従え】自害せよ」と命じてみる。
そいつはレベル6の強者だが、ビキニアーマーを脱ぎ捨てた後、それに頭をぶつけてあっけなく死んだ。
……なるほど、よく分かった。
やはり、攻撃性と効果範囲は引き換えであるのだ。
つまり、全員に自害を促すのは可能だ。
でもでも大変だ。喉が枯れちゃう。
声優志望の俺としては、それは見過ごすことのできないデメリットだ。
うそうそ、声優志望ではない。ニートだからさ。
ただ、声優になって女性声優さんと仲良くなりたいと妄想したことはある。
うそうそ、これもうそ。
俺はどちらかというとジュニアアイドルと仲良くなりたい。切実に、だ。
「言葉一つで……こんなにも死をはこびらせるのか!?」
「なんて奴だ、これが魔王! ちなみに、はこびらせるではなく蔓延らせるのまちがいじゃないか?」
「え……? そうなの? ちょっと、お前辞書持ってる?どっちが正しんだろ。……いや、別に俺自分の言葉に自信がないとか、そういうわけじゃないけどさ。ただそういう風に、ちょっとしたいちゃもんつけられると、なんというかさ、ざわつくんだよね。な、お前も分かるだろ!?」
オーディエンスのみんなが、ざわ……ざわと、騒いでいる。
「そういえば、勇ましき者たち。小さき者たちよ。そなたらは先程『何も脅威を感じない』と言っていたな……」
「それは勇者のミギチクビ君が言っただけでーす! 僕たちは言ってませーん!」
「わ、ばかノドチンコ君てめぇ! 魔王先生にはぜったいゆーなって、言ったじゃん俺!」
ノドチンコ君とミギチクビ君が醜い争いをしていたけど、俺はそれでいいと思った。
喧嘩するほど仲が良い、ということだ。
「……うん、うん。ミギチクビ君も、ノドチンコ君も。そろそろ落ち着こうか」
「で、でも魔王先生……」
二人が怯えたような目でこちらをみる。
俺は、べ、別にどうでも良いんだからね!
でも、仲良しの二人がずっと喧嘩なのは……だめだめなんだからねっ!
「先生、怒っていません。でも、2人が喧嘩をすると悲しいです。……だから、ね。仲直りしましょう?」
ミギチンコ君とノドチクビ君は、とうとう泣きました。でも、それは悲しい涙ではありません。
「「うわーん、ごめんよ、ごめんよー!」」
2人とも、自分が悪かった。
そう思っているのでしょう。
だから、2人は互いに寄り添いながら、涙を流し続けているのです。
「ぐすん、ぐすん……。魔王先生、ごめんなさい。そして、ありがとう」
「僕達、分かったんだ。争いは何も生み出さない。ただ終わることのない憎しみの連鎖が、呪いのように残るだけだって」
「うん、よく分かったね、2人とも。じゃあ、先生がさっき、何を言おうとしたか。……分かるかな?」
「ぜーんぜん分かりませーん(笑)! ウェーイ☆」
「【余の命に従え】自害せよ、ミギチクビ、ノドチンコ」
結果、2人は仲良く自害した。
「何も脅威を感じない、のではなく。存在としての格が違い過ぎて、【何も脅威を感じられない】とは、誰一人思わなかったか?」
とりあえず俺は、魔王先生のやり取りのところをカットして、ギャラリーに対して言葉を放つ。
「っく、そういうことかよ……っ!」
絶望が広まる勇者たち。
そうか、本当に感じ取れてなかったんだ……ふーん。
え? べ、別に、寂しくなんてねーし。
「ふむ、今更分かったか。……だが、もう遅いぞ?」
俺はもったいつけてから、言う。
「【余の命に従え】来たれ、雷よ!」
俺が叫んだ瞬間、空が暗雲に覆われる。
そしてたちまち、勇者たち目掛けて雷が落ちる。
「「「おんぎゃほわー!!!!」」」
雷に巻き込まれて、多くの勇者が黒焦げになって死んだ。
それを見て、俺は内心ほっとしていた。
【最上位命令】が、生き物にだけ作用する力じゃなくて、本当に良かった。
もしも今、雷が落ちてこなければ。
俺はなんかテンション上がって「来たれ、雷よ!」とか言っちゃう危ない人認定を喰らうところだった。
ふぅーやれやれ。
全く、やれやれ。
今ので500人くらいの勇者が死んだ。
流石に、雷すら操る俺に残りの勇者もビビってるどうせちびってる。
「退け。そうすれば、見逃してやる」
俺はそう提案した。
だって俺。そもそも積極的に人を殺したいわけではない。
案外ノリノリで人を殺していた魔王に見えるのは、多分何かの勘違いだ。
フフフ、勘違い、人間誰にも起こりうる。
「おい、退けば見逃してくれるってよ」
「お、おい! てめぇまさか退くつもりかよ? ここまで来て!?」
「あり得ねぇよ。……魔人をぶち殺せるチャンスなのに……」
「でもさー、これ無理じゃね? 殺せなくね?」
「確かに。無理無理」
「じゃ、飲みに行く? ウェーイ☆」
「確かに。一仕事の後の一杯ウェーイ☆」
「じゃ、みんなで……」
「「「飲みに行こうぜ! ウェーイ☆」」」
こうして、魔王城を侵攻しにきた勇者たちは、飲み会に行ったのであった――。
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