第5話 最高のスパイス

「恐れ入ります、チンチラの……いえ、フルチンでフリチンの魔王様。その策というのは、一体……?」


 オレノ フリチンヲ チラチラ ミル クロナ ガ トイカケタノダ。


「ふむ。では説明しようか。その策とは! かくかくしかじか」


「「「!!!」」」


「かくかく、しかじか……なるほど。ふざけていないで、もう一度ちゃんと説明していただけますでしょうか?」


「っく、やはりかくかくしかじかだけで説明するのは無理だったか……良い、それでは、今度こそ親切丁寧に説明をしてやろう。心してきけっ!」


「っは!」


 俺は、今度は三人娘に説明を、それはもう丁寧にしてやった。


 親切丁寧な説明が終わった。

 どうやら、とても驚いているようだ。


「なるほど……まさか、そのような策があるとは。……魔王様は、軍師としての才能もおありなのですね」


「さすがは、魔王様ね」


「魔王様、すっげー」


 三人娘が、口々に俺をほめそやす。

 ……俺は、過去の戦からその兵法を取込んでいるだけに過ぎない。

 本当にすごいのは、歴史上の偉人たちだ。


 ……などと野暮は言わない。なぜなら、ほめられると嬉しいからだ。

 褒められると、伸びるタイプなのだ。

 一番伸びるのは鼻だ。ぐんぐん伸びる。とっても伸びる。伸びすぎて天狗みたいになる。


「うむ。それでは、作戦は頭に入ったな? では、勇者たちがここに攻め入るまでに各自集中力を高め、戦いに備えるのだ!」


「御意」


 三人娘が頷いた。


 ……一万の軍勢を迎え撃つのは、我等4人のみ。

 転生直後にこんな大きなイベントがあるなど思いもしなかったが、まぁ良い。


 折角大きな力を手に入れたのだ。

 思う存分、暴れてしまおう!


~~数分後


 腹が減っては戦が出来ぬ!

 そう思い、俺は料理を作ることにした。


 と、いっても。

 俺にはこの異世界風の料理を作ることが出来ない。

 現代日本風の料理を作るしか、できないんでぃべらんめぃ!


 なら、現代日本の料理で、できるだけ異世界人の舌にも合うような料理が良いな。

 何故ならば! 地獄の三姫臣にも食わせてやりたいからだ。


 ……カレーライスにしよう。

 俺は、そう決めた。


 では、材料の用意だ。

 まず、【創造(クリエイト)】を使って、神戸ビーフとカレーのスパイスと諸々の野菜と米、ミネラルウォーターを創りだした。


 おっと、調理器具も忘れてはいけないな。


 俺は神戸ビーフを一口大に切る。

 野菜も家庭の授業で習うような、お手本のような切りかたをする。

 そして、フライパンに油をしき、温めてから、一度にそれらを炒める。


 おっと、この時の火は、俺の炎属性の魔法だ。抜群の火力であるぞ。

 そして、いい感じになった肉と野菜。

 とりあえず、その具材とミネラルウォーターを寸胴鍋に投入し、火にかける。

 

 それと並行して、今度はご飯を炊く用意だ。

 米を洗う、そして土鍋に投入。水も投入。俺は豆乳をのむ。

 そして火にかける。

 遠赤外線がどうのこうので、土鍋で炊いたご飯は抜群にうまいのだ。


 よし、これで暫くは米が炊き上がるのを待つ間、もう一つの鍋の灰汁を取り続けるだけの作業だ!

 これは単純な作業だが、重要な作業だ。

 ここで丁寧に灰汁を取れたか否かで、完成度が全く変わってくる。


「よし……」


 俺は集中する。

 そして、お玉をとってから、【創造】を発動させ、完成したカレーライスを作り出したのだ。


 完成したカレーの味見をする。これは、現代日本のカレーの有名店にも全く劣らない味だ……!  


 いやはや、最高の隠し味は『愛情』とは、よくいったものである。


 完成したカレーの味が有名店にも劣らないのは当然だろう。なぜなら俺は、【創造(クリエイト)】によって、現代日本のカレーの有名店の味を再現したのだからな! その上『愛情』は最高の隠し味なのだ!


「魔王様? このとても芳しい匂いは……?」


 カレーの良い匂いに導かれたのか、クロナが顔を出してきた。


「うむ、よくぞ来た。他の2人も呼ぶが良い。腹が減っては戦は出来ぬ。余が作った料理で。ほどほどに腹を膨らますが良い」


「……!! まさか、魔王様の手料理を……この身に余る光栄です!」


 そう言ってから、クロナは残りの二人を呼び出した。

 その間に、俺は手際よく食卓にカレーライスと、簡単に【創造】したサラダを並べる。

 食卓に着いた三人娘は、瞳をキラキラ輝かせながら、手を合わせて言う。


「「「いただきます」」」


 そして、俺の作ったカレーを食べ始めた。


「「「!!! 美味しい!!!」」」


「こんなにも美味しい料理があったなんて……まるで、魔王様はプロの料理人みたいです!」


「流石は、魔王様ね!」


「魔王様、すっげー!」


「よせ。止すのだ、お前たち。俺はただ、カレーを作っただけなのだ。そこまで言われるようなことではない。ないのだ。ちなみに、信じられないかもしれないが。余はプロの料理人にあらず。魔王なのだ。プロの魔王なのだ。プロの料理人でも、プロのカレーボーイ(カウボーイのような発音)でも、ましてやプロのマジシャンでもないのだ。ゆめゆめ忘れるでないぞ」


 俺はやや照れくさい気持ちになったが、それはそれ。

 あまり甘い顔をしていてもあれだ。

 ……嘘だ。あれではないのだ。


「「「ごちそうさまでした!!!!」」」


 三人娘はカレーライスをぺろりと平らげ、皆で元気よくご馳走様をした。

 しかし、中々ご馳走様、と言う声が揃わず、相応の練習をした。


 そして、見事綺麗に声を合わせて『ごちそうさまでした!!!!」と言えるようになった。

 感動の物語が、ここにはあった。


「ふぅ、それにしてもまさか魔王様に料理の才能まであったなんて。知略謀略に長け、戦闘力も我等魔族随一。その上あまりにも広大な懐に、美味しい料理を作れまでするなんて……この大陸全土の生きとし生ける全ての者の価値よりも、魔王様一人の方がはるかに尊いです!」


「よせ。余はそのような大したものではない。料理も余が「なんかいけるかも?」と思って作っただけだ。大袈裟なのだ、クロナよ」


「いいえ、大げさではありません!」


「大袈裟なのだよ、クロナ」


「やれやれ、全く……完全なる魔王様の、唯一の欠点、と言えるかもしれませんね。その低すぎる自己評価は。いえ、そういう謙虚なところも、私は素敵だと思っておりますが!」


「流石、魔王様ね」


「魔王様、すっげー」


「全く、やれやれ。余はそんなに大した奴ではない」


 この後俺は褒めちぎられるのだが、その度に「全くやれやれ」と言って彼女らがほめ過ぎだとアピールしておいたのだった――。


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