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 特に意味もない会話を続けていたとき、足音が一つ聞こえてきた。振り向くと小柄な少女が一人こちら側に向かって歩いて来る。


「あれ、由梨ちゃん」


 思わず話し掛けようとするのを咄嗟に腕を掴まれ止められた。男は少しめんどくさそうな顔でよく見ろと言わんばかりにあごをしゃくった。確かによく見ると自分が知っている彼女とは違う。僕の知る彼女は可愛らしい洋服ばかりを着て、髪飾りなどをつけていた。しかし、今はパーカーのフードを深く被り髪も伸ばしたままだ。いつものようにオロオロとした様子は微塵もなく一度きつくこちらを睨み何も言わず目の前を通っていった。変わってしまった様子に驚いていると大きくため息をつき男は腕を放してくれた。その顔には僕に対する呆れがある。


「もしかして」


 振り絞ってきいた声は少しかすれていた。もうあの様子では聞くまでもないこと。それでも認めたくなくはなかった。


「くわれちまったんだろ」


 答えなんて分かっている。 分かっている、彼女はもう優しいあの子じゃないことくらい。 それでも誰かの言葉が聞きたかった。もしかしたら、違う答えが返ってくるのかもしれないって。だからその答えに驚くことはない。ただただ哀しさが増すだけだった。


「前見たときだってコントロールできていなかったろ。あの様子じゃ、くわれることくらい分かってたんだからそこまで哀しむこともないだろ」

「にしても、変わるもんだねー。今まではあんなにビクビクしてたのに、さっきの見たか。ガン飛ばしてきたぜ」

「怖い怖い。あいつの中にいるのって男だろ。性別が違うって稀らしいけどああなるんだな。あれ、三改木もそうじゃなかったっけ」


 その一言でこちらに視線が集まった。別に口に出して言わなくたっていいじゃないか。数人はこちらの気持ちを察したか気まずそうに視線を反らした。こんなことは今更だが珍しそうに見られるのには未だになれない。


 ああ、嫌だな。

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