誕生日
八川克也
誕生日
今日は私の二十一歳の誕生日だ。
正直、この歳になると誕生日などどうでも良い。と言いつつ、祝ってもらえるのは、それはそれで嬉しい。
一人暮らしになってから、なかなか家族で集まる機会もないから、その意味でも楽しみだ。食事は外で食べることになったから、少しだけ化粧もして、外出用の気に入った服を選ぶ。
まあ、家族に会うだけなのだからそんなにたいそうなことは必要はないのだけれど、少しウキウキしているのは否めない。
あとは迎えに来てもらって車で出かけるのを待つだけだ。
することがないのでテレビをつける。昼前の天気予報をやっていた。
『今日の天気はこのまま晴れ、最高気温は12度、平年並みでしょう。風は北北東1メートル……』
車で移動するけど、念のためコートとマフラーを出す。このマフラーも、家族にプレゼントしてもらったものだ。
小さかった頃の誕生日のことをふと思い出す。
たまのことだったから、ホントに好きなものを買ってもらえた。私に甘かった、と言うより、皆んなそうじゃないかと思う。
誕生日は本当に楽しみだった。遠足の前日のように、私は布団の中でウキウキとしていたことを思い出す。今でも少し、その気持ちは残っている。
反面、歳を取ることには何の感慨も湧かなかった。誕生日が特別なせいだろう、自分が今何歳か、ふと分からなくなることもあった。
そろそろ時間だ。
私は部屋の中からアパートの前の駐車場を見る。
私の部屋のために契約された駐車スペースをしばらくぼーっと眺める。風が枯葉を散らす中、家族の乗った青いファミリーワゴンが入ってきた。
「来たね」
私はひとりごちて立ち上がると、玄関に向かう。
靴を履いてドアを開けると、小さな子供が満面の笑みで声をかけてくれた。
「おばあちゃん、お誕生日おめでとう」
「おめでとう!」
孫二人。
「おお、よく来たねぇ」
「母さん、お待たせ」
立派な格好をした息子が運転席から、嫁が助手席から降りてくる。
「悪いね、わざわざ。私もとうとう二十一歳だからねえ」
私の言葉に息子が笑う。
「恒例の冗談を聞くと安心するよ。八十四歳の誕生日、おめでとう!」
今日は二月二十九日、私の誕生日。
四年に一度しかない誕生日だ。今年で二十一回を数え、その結果、八十四歳になった。
誕生日は特別だった。法律上、三月一日には歳を取る。でも、閏年でなければ私の誕生日はやってこない。だから誕生日は特別だった。
「おばあちゃん、これ」
「私も! これ!」
一人はハンカチか何か、小さなプレゼントボックスだ。もう一人は巻いた画用紙、多分私の似顔絵だろう。
「おーおー、ありがとうね」
私は笑顔で受け取る。
「ああそうだ、後で墓地にも行ってくれるかい」
「もちろん」
前々回の誕生日までは夫と祝っていた。だけど先に逝ってしまって、前回から息子たちが祝ってくれるようになったのだ。
でも、今日、無事に誕生日を迎えたことだけは、夫にも伝えておきたいのだ。
「そうだ、ねえ、あっちの世界だと誕生日が来た分だけ歳を取る、って仕組みになってないかね」
「ん?」
「そうしたら、私は二十一歳だからね。じいさんも喜ぶだろうし」
「都合良すぎでしょ!」
息子は笑う。
「さ、行こう、乗って」
「ばあちゃん、後ろ! 僕の隣」
「ズルい、僕の隣!」
「ハイハイ、真ん中に乗るから」
二十一回目の誕生日も、孫に囲まれ楽しく過ごせそうだ。
《了》
誕生日 八川克也 @yatukawa
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