Q12 ロリと二人になったらどうする?



 その後、俺はしばらくの間シュクシャ達に追われながらバイクを走らせ続けた。普段とは違い萌香ちゃんを前に抱えているため、バイクの音につられてきたシュクシャ達が一目散に襲いかかってくるのだ。

 できればあの三人の下に向かいたかったが、シュクシャの寄る波に阻まれて思うように移動することは難しかった。

 何とかシュクシャ達をかわしながら暗い町中を走り続け、奴らを完全に振り切ったころには気づけば郊外の河川敷のような場所へとたどり着いていた。逃げるのに必死だったため、ここまでにどのような道のりを辿って来たかはよく覚えていない。ここから更にやみくもに動き回るよりも、いったんここで朝が来るのを待った方が良いだろう。

 バイクのエンジンを切り、河川敷を跨ぐように建っている高架下まで歩いてゆく。俺が何も言わずとも、萌香ちゃんは黙って後をついてきてくれた。


 「とりあえず、ここで朝が来るのを待とうと思う」

 「は、はい」


 こくこくと頷く萌香ちゃん。

 仲間達とはぐれ、シュクシャに追いかけまわされたあげくによく分からない男と二人きり。そんな状況下で恐怖を感じない訳もないらしく、彼女の体は小刻みに震えて俺とは目を合わせようとしてくれない。


 「えっと、萌香ちゃんでいいんだよな?」


 膝を曲げ、彼女と目線を合わせる様にして話しかける。


 「俺は葉木芝隆二。さっきはナイフを突きつけたりしてごめんな?信じてもらえるか分からないけど、君を傷つけるつもりはなかったんだ」

 「だ、大丈夫です。葉木芝さんが悪いんじゃないってことは分かってますから」

 

 萌香ちゃんはくりくりとした目をこちらに向けたりそらしたりしながらそう答える。口ではこうは言っているものの、やはりまだ俺のことを信用しているわけではないのだろう。


 「隆二でいいよ。怖がらせちゃったお詫びってわけじゃないけど、俺が絶対萌香ちゃんのことを守るから」


 こんな子供に名字でさん呼びさせるのも堅苦しいだろう。

 

 「は、はい。ありがとうございます……」


  反応は微妙だ。まあ、現状で俺に何を言われたところで安心などできないのだろう。


 「萌香ちゃん、朝になったらさっきの三人を探しに行こうかと思うんだけど、三人の行き先に心当たりとかないかな?はぐれた時の為の集合場所とか決めてあったりしない?」


 俺が問いかけると萌香ちゃんの顔は見るからにぱぁっと明るくなった。やはり、早く仲間に会いたいのだろう。

 

 「えっとえっと、さっきの家の他にも、私達にはもう一つ拠点にしてる家があるんです。きっと、みんなはそこに行ったんだと思います」

 「なるほど。それじゃあ、朝になったらその家に行ってみよう」

 「はいっ!」


 わずかだが、萌香ちゃんが微笑む。

 そうと決まれば、彼女には明日に備えて休んでもらった方がいいだろう。布団の代わりになるような物が何もないのは忍びないが、それでも横になって目を閉じていれば多少は身体が休まるはずだ。

 彼女が休んでいる間は俺が見張りをしていればいい。つい先程まで寝ていたばかりなので、朝まで見張りをしていても問題ないはずだ。もし寝落ちして気がづいたら目の前で萌香ちゃんがシュクシャに食べられてましたなんてことになったら目も当てられない。警戒は怠らないようにしなければ。

 そんなわけで、萌香ちゃんには朝まで休んでもらう運びとなった。



 「俺が見張りをしておくから、安心してくれていいよ」

 「で、でもそれは流石に申し訳ないです」

 「大丈夫だよ。子供がそんなことを気遣うもんじゃない」


 俺のその言葉を聞くと、彼女は一瞬ギョッとしたような表情を見せた後、続けてとても難しそうな顔をしてしまった。もしかして、あまり子ども扱いされたくないのだろうか?


 「萌香ちゃんはいくつなんだ?」


 俺が尋ねると、萌香ちゃんは今度は何故か狼狽えたようにきょろきょろと目を動かし始める。どうしてしまったのだろうか?


 「萌香ちゃん?」

 「え、えっと、その……ぃ歳です」

 「ん?」

 「……ゅうよんさいです」

 「え、十四歳だったのか。思ったよりも大きんだな」


 十四歳ということは、中学二年生くらいということか。小学生に違いないと思っていたから、これは驚きだ。

 まあ確かに、胸には中学生どころか大人顔負けのものがついているが……って、いかんいかん。子供相手に何を考えていいるんだ俺は。いくらハーレムを目標に掲げているとはいえ、ロリは流石に対象外である。まあ、そんなことを言ったら高校生の六郷に手を出そうとしたこともアウトだが、あいつならそういう意味での犯罪臭はしないからセーフだ。何ともガバガバな論理であるが、要は気持ちの問題なのである。こんな世界なのだから、高校生くらいからは許してほしいのだ。


 「もう中学生なら、子供なんて言われるのは心外だよな。悪かったよ。でも、俺はついさっきまで寝てたところだから本当に遠慮しなくて大丈夫なんだ。俺のことは気にせず、ゆっくり休んでくれ」


 そう言って彼女の萌香ちゃんの頭を撫でる。

 彼女は何かを言いたそうに口をぱくぱくしていたが、やがてどこか諦めたかのような表情で分かりました、とだけ答えた。

 しまった。思わず頭を撫でてしまったが、これも子ども扱いのように思われてしまっただろうか。実年齢のわりに幼く見える彼女だから、きっとこれまでも必要以上に子ども扱いされてきて気にしているのかもしれない。今後萌香ちゃんと接するときには気をきをつけることにしよう。

 そうしたやり取りの後、萌香ちゃんは身体を少しでも休めるために横になった。俺はそんな彼女を横目にしながら辺りの警戒を行う。しばらくの間そうしていたが、やがてもそもそと動いた萌香ちゃんの開いた目がこちらのことを捉えているのに気が付いた。


 「眠れないのか?」

 「ご、ごめんなさい」

 「謝る必要なんてないよ。眠れるまで少し話でもしてようか?」


 俺はどんな話題が良いかと少しだけ考えてから口を開く・


 「あの三人のことを教えてくれないか?」

 「三人のこと、ですか?」

 「ああ。さっき一緒にいた奴ら、仲間なんだろ?」


 これまでの反応から見ても、萌香ちゃんが一番明るくなるのはきっと彼らの話題だろう。彼女はこくりと頷いてから答える。


 「みんなとは、こうなる前からの仲良しグループなんです」


 どうやら、萌香ちゃんたちは世界が崩壊する前からの付き合いらしい。まあ、昨日の仲良さげな雰囲気から見るにそうだろうとは思っていたがな。


 「えっと、まずみんなのリーダー的立ち位置なのは一樹いつき君ですね。いつも冷静で、世界がこうなってからも私達を導いてくれんです。すっごく頼りになるんですよ」

 「あの黒髪の男か?」

 「そうです。きっと、一樹くんがいなかったら私達は今頃とっくに死んじゃってたと思います」


 なるほど。

 確かに、思い返してみればあの男が率先して指示をだしていたし、常に冷静さを保っている様子だったからな。


 「啓吾君は、ちょっとやんちゃですけど根は真面目ないい人ですね。いつも意地悪してきますけど、本当に困った時は助けてくれるんです」


 啓吾とやらは確かあの金髪のことだっただろう。

 あいつは俺に殴りかかってきたこともあって、正直あまりいい印象ではない。俺の個人的なトラウマであるチャラ男でもあるしな。

 っていうか、この四人ってどういう関係性なんだ?一人のロリに三人の男達という組み合わせには、違和感を覚えざるを得ない。


 「最後の一人はしーちゃんなんですけど」


 そこまで言ったところで、萌香ちゃんははっとした様子で押し黙ってしまった。


 「……どうかしたのか?」


 どうしてしまったのだろうか。

 そんな疑問を覚えていると、ぐぅーという可愛らしい音が萌香ちゃんのお腹から聞こえてくる。


 「あ、あの、ごめんなさいっ、長い間何も食べていなくてっ」


 萌香ちゃんは顔を赤くして慌てた様子で謝罪してきた。

 別に謝る必要などないというのに、自分のお腹を鳴らして何故か逆切れしてきた六郷にも見習ってほしいものだ。


 「明日、道中で何か食べ物を探そうか」


 携帯食が少しだけ入っていたリュックは先程の家に置いてきてしまったため、現状では萌香ちゃんにあげられる食料がない。彼女には申し訳ないが、明日までは我慢してもらうしかないだろう。


 「そうしてもらえるなら助かります……あのっ、私もう寝ますねっ」


 お腹が鳴ったのが恥ずかしかったのか、萌香ちゃんは話を切り上げるようにして目を閉じてしまった。まあ、眠れるならそれに越したことはない。


 「おう、おやすみ」


そうして、自らの体を丸め込むように小さくなって目を閉じている萌香ちゃんを横目に、俺は朝日が昇ってくるのを待つのであった。







 その後、何事もなく無事に朝を迎えた俺は再び萌香ちゃんを乗せてバイクを走らせ始めた。

 昨夜は咄嗟のことだったので萌香ちゃんを前に抱えるような座組をとっていたが、今は彼女には後ろに座ってもらっている。遠慮がちに俺の肩にちょこんと手を置いている様子が何とも愛らしい。

 そんな彼女を後ろに乗せて、俺はなるべくシュクシャと接近しないように気をつけながら町中を進んで行く。今現在走っているのは、俺も萌香ちゃんも見知らぬ土地勘のない場所だ。必死に昨日のことを思い出しながら、恐らくこちらの方だろうという大体の方角を予想して走っているのである。

 さて、無事に見慣れた土地へと戻ることができるのかという心配も勿論ではあるが、今はそれよりも早急に解決すべき問題がある。萌香ちゃんが非常に空腹であるということだ。


 「どこか食べ物が手に入りそうなところはないかな」


 辺りの景色を注視しつつバイクを運転する。

 今朝萌香ちゃんから聞いた話によると、なんと丸二日ほど碌なものを口にしていないらしい。それほどまでに萌香ちゃん達四人は食糧問題に頭を悩ませていたようだ。昨日は決死の探索も虚しく食料を手に入れることができずに、最後の一つであるインスタント麺を分け合って食べようとしていたら、いつの間にか侵入していたおれに食べられてしまっていということらしい。萌香ちゃんの口からその話を聞いた時は改めて申し訳ない気持ちになった。

 そんな罪悪感も相まって、俺は一刻も早く彼女のために食料をみつけてあげなくてはと決意していた。


 「……お?」


 そんな折、俺の目にあるものが飛び込んでくる。それは、町中にぽつんと佇む小さなスーパーマーケットだった。

 

 「あそこなら食料が手に入るかもしれないな」


 できればコンビニエンスストアなどの、より小さく安全確保がしやすいお店の方が良かったが、せっかく見つけることができたのだから一度あそこに立ち寄ってみることにしよう。

 背中の萌香ちゃんに食料を探す旨を伝えて、スーパーマーケットへと進路をとるのだった。

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