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校内はひそひそと騒がしかった。
生徒達が周囲を憚るように噂話していた。死んだ女子生徒の話がそこかしこで囁かれていた。
その女子生徒は北館に面したプールに浮いている所を発見された。
警察がすぐに駆け付けてブルーシートと規制線が貼られたが、澄んだプールに浮かぶ女子生徒を多くの生徒が目撃していた。
女子生徒は自殺とされた。
当日の調査でプールの周囲に遺書のようなものは見つからず、なぜか一匹の海月が女子生徒と一緒にプールから引き上げられた。
ブルーシートの端から覗く濡れた白い腕とそのすぐ隣に今にも干からびそうな海月がいたその光景が脳裏にこびりついている。
誰かが、海月がいたんだってと誰かに言った。
誰かが、心中に見えると誰かに言った。
誰かが、心中したんだってと誰かに言った。
くらげは、海月と一緒に心中した女の子になった。
くらげと一緒に水揚げされたあの海月は、あの時はまだ生きていた、と思う。
くらげの魂とか色々、不純物以外は全部、プールに溶けてしまった。多分だけど。
学校が二日の休校になって、生徒がいない間に忘れ物を取りに来たと言ってあの教室に行った。
教室は何も変わらないのに酷く空っぽだった。水槽の水が全部抜けてしまったよう。
もうこの場所は水槽じゃなくなったのだと思った。
教室を何となく眺めて、それからくらげがほぼ私物化していた水槽とか諸々を全部引き取った。
水槽にはもう何もいない。
くらげが元々勝手に置いていたものだからなくなっても誰も何も言わない。気付く人もいないだろう。
休校二日目、俺は何となく水族館に行って、海月の展示を一日中見て、五千円もした大きな海月のぬいぐるみを買った。
平日でも人はそれなりいた。足が麻痺するほど水槽の前でじっとしていた。
本物の海月も別の場所で買った。買える値段だったのに驚いた。
いつの間にか海月も好きになっていたみたいだと気付いた。久しぶりにほんの少し笑った。
それから、家で、引き取った水槽で海月を飼い始めた。
しばらく育ててみようと思う。
好きでいても良いと、思う。
海月が死ぬまでは。
海月が死ぬまでは 朝夜 @asuyoru18
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