モンタージュ写真

 なんらかの呪いで顔が消えた。仕方なくお面で復元しようとしたけど、呪いはご丁寧に、写真や動画からもわたしの顔を消していったから、参考になるものがなにもない。しょうがないから、わたしは親や友人や先生や親戚にお願いして、モンタージュ写真を作ることにする。「どうせならさ、あのアイドルみたいにしようよ」こんな事態だってのに、アイドルオタクの親友がウキウキしながら寄ってきたから、わたしは彼女からは証言を取らないよう、職人さんに固く言い含める。

 そうして集まった十数人分のわたしの顔をうまい具合に合成して、わたしは顔を取り戻した。できあがったお面をかぶって鏡を見つめる。「こんなんだっけ?」真っ先に首をひねったのは、ひとり仲間外れにされて不満げな親友だった。残念ながらわたしはアイドルではないので、こんなもんだろうと頭では思うけれど、確かに違和感はぬぐえない。目はこんなに大きくなかった気がするし、鼻はここまで団子じゃなかったような気がする。周囲の反応もまちまちで、「元通り」と喜ぶ人もいれば、「なんか違う」と戸惑う人もいる。わたしは可能な限り記憶の自分に似せようと、目の形や鼻の高さやくちびるの厚さをこねくり回すけれど、なかなかこれだ! と思えない。年単位で微調整を重ねていたら、ついに親からも「分かんなくなった」と匙を投げられた。いやいや、さすがにひどくない? 謝られたってなかなか怒りは消えないけれど、「自分だってわかってないじゃん」と指摘されると言葉に詰まる。顔迷子になったわたしは、なるべく自分の顔を見なくて済むように、常に眼鏡にマスクで、ほとんど外出もしなくなる。

 そんなとき、例のアイドルオタクがニヤニヤしながら訪ねてきた。「あんたの顔、作ってきたよ」じゃーん、と取り出されたお面は彼女の好きなアイドルの顔じゃなく、そこらへんにいそうな一般人の顔で安心したけど、やっぱりどうにもしっくりこない。「なんか、違くない?」わたしが首を傾げても、彼女は満足そうな笑みを崩さない。「違くない。前と同じだけかわいい。おかえり」そう言って嬉しそうにわたしの髪を撫でるから、まあ、しばらくはこの顔でいてやってもいいかもしれない。

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