無限増殖駐車場

 気づくと駐車場が増えている。真新しいアスファルトのにおいに顔を上げれば、もうそこに何があったか思い出せない。そんなことを繰り返していたら、ばあちゃんの畑は、四方を駐車場に囲まれてしまっていた。オレは何度も「ここも駐車場にしよう」と言ったけど、ばあちゃんは頑として首を縦にふらなかった。まったく年寄りの執着にはほとほと困る。柵で囲んではいるけれど、車もばあちゃんも大変不便で危ないし、排気ガス臭い畑では、野菜だって元気がない。捕まえる直前で逃げてしまった赤とんぼは、ドリフトする勢いでやってきた隣の駐車場の車にぶつかって砕ける。

 ばあちゃんが死んで土地を譲り受けると、オレはさっそく畑を駐車場にした。仕方ない。土地代はそれなりにかかるし、黙っていても勝手に入ってくる収入というのは魅力的だし。害虫がはびこっていないか確認するために通っていた場所に、オレは今、怪しい車がないか確かめるために通う。草取りをしなくていいのは大変に楽だけど、黒い地面がのっぺり広がるだけの場所は、車のランクとナンバーしか見るものがなくて、つまらないといえばつまらない。

 つまらないくせに、駐車場産業はすぐに暗礁にのりあげた。いまや車移動はオワコンで、オレは駐車場の看板を、無人ドローン基地に書きなおす。ドローンが空を埋め尽くしていたのは数年で、その次は安い転移ポートがあちこちに乱立した。テレポートがこんな早くに実用化されるなんて聞いていない。オレは慌てて、土地の一角にポートを作る。ひとり用のポートはすぐファミリータイプに拡張しなくてはならなかったし、その一年後には安全性が、とか言って禁止された。

ついに人類は電子の世界に体を移して、物体は価値を失う。必然的に、オレの元駐車場に置かれるものも無くなって、オレはアスファルトの上に立ち尽くす。ふと辺りを見回すと、黒い荒野が広がっている。人が減り、開いた土地をみんな駐車場にしちゃったんだから無理もない。そのまま歩いて、オレは転んだ。補修していなかったアスファルトのすき間から、緑の芽が生えている。

 少し割れ目を入れておくだけで、おもしろいように緑は増えた。植物の生命力に任せた無秩序な風景は「アスファルトガーデン」として有名になり、関数制御になれた人々の心をつかむ。プロモーション用の映像を撮っていると、目の前を赤いトンボがよこぎった。オレの腰くらいまで伸びた木々の先に、赤とんぼが等間隔で停まっている。オレはそっと指をのばして、くるくると目の前で回す。触れる直前で逃げたとんぼは、金色の影をのこして、遠い空にすいこまれていく。

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