親友オーディション
才色兼備なあの子の親友をオーディションで決めることになり、わたしも気合を入れて参戦する。なんだけど、頬を張って控室に入った瞬間テニス部の部長ににらまれて、わたしは自分がいかに場違いなのか気づいた。頭にハチマキを巻いて現れた陸上部エースや、ピカピカに磨かれたフルートを携えた吹奏楽部のなかで、帰宅部のわたしは初めっからだいぶ気後れしていたけれど、みんなの前に現れたあの子の笑みを見て、なんとか心を奮い立たせる。
一週間の合宿形式のオーディションで、武器をもたないわたしは、何とか彼女に近づこうとがんばった。食事の時間にはすすんで彼女の配膳を代わり、みんなが風呂に行っている間に布団をひいて、湯たんぽだって用意した。「あれはないよね」三日目に、ささやき声を聞いてしまった。「友達って言うより、パシリじゃん」
手を止めて周りを見てみると、みんな意外とゆるかった。「将来、いい経験になるかと思って」と参加した人もいれば、「彼女と一緒ならいじめられることもなさそうだし」と参加した人もいたし、「ただのブログネタ」と言い切る人もいた。はじめにガン飛ばしてきたテニス部だけは、声をかけても答えてくれなかったけれど、ともかくみんな、そんな感じらしい。なんだか力が抜けてしまってぼうっとしていると、彼女が声を掛けてくれた。「大丈夫?」小首をかしげる姿は天使みたいに純粋で、こんな不器用なわたしにも平等に接してくれるところが本当にすてきだ。みんなにバカにされたって、やっぱりわたしは彼女の一番の親友になりたかった。
選ばれたのは陸上部だった。うれしそうに名札を交換する彼女たちを、わたしはくちびるを噛んで見守った。とぼとぼと帰っていると、いつのまにか隣に影があった。「なんか食べて帰らない?」ラケットバッグをゆらす彼女は、明後日の方向を向いたまま早口でそう言った。
クラス一の才色兼備と陸上部のエースは、ひと月後にはしゃべらなくなっていた。「思ってたのと違う」とは双方の見解らしかった。友情ってむずかしい、と頬杖つくわたしのトレイから、最後のチキンナゲットがかっさらわれる。「本当にねえ」悪びれなく人のナゲットを食べる目の前の彼女が憎らしくて、わたしはラケットバッグを小さく蹴った。
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