ツッコミ募集


「ツッコミがおらんのや」とあいつは言った。「だから、こんなボケた世界になる」六畳一間のちゃぶ台の上で嘆いたあいつは、その勢いのままツッコミを増やすべく、セミナーを開いたり動画をアップしたりライブでネタに仕込んだりと、精力的に駆け回った。いや必死か。ボケ担当のおれがツッコんでみたけど、本職には響かない。

 あいつの頑張りもむなしく、世界はボケであふれていく。なんかすまんなあ、と一番身近なボケ代表として謝ると、あいつは力なく手を振った。「おれ、ツッコミになるわ」せめて一人でも、と思って告げると、本当に久しぶりに、あいつはちょっとだけ笑った。「おまえはほんと、最高のボケやな」

 あいつは宇宙のかなたへ行ってしまった。ツッコミに向いた宇宙人と友達になって、地球にツッコミに来てもらうそうだ。「おまえがボケてどないすんねん」もくもく煙をあげて遠ざかるスペースシャトルを見つめながら、おれは下手くそにツッコんだ。


 記録をインストールし終わった客人は、うっすら閉じていたまぶたを開けると、「なんでやねん!」と笑った。「勝手に日9の最終回すんなや」と不思議なイントネーションでしゃべる宇宙人は、俺のひいひいひいおじいちゃんと知り合いだったらしい。「なあ、マンザイって知っとるか?」銀ピカの宇宙人に見覚えはないはずなのに、なぜだか懐かしくなりながら俺はうなづく。「希望でしょ?」

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