いじめられ当番

 ある日登校すると、クラス全員から無視された。ランドセルを机に降ろして、ため息を吐く。どうやら今週は、わたしがいじめられ当番らしい。昨日の夜のアニメについて、あんなにチャットした友達も、ウソみたいに素知らぬ顔で知らんぷりしてくるから、少しムカつく。

 そういう「役」だとは分かっていても、やっぱり無視されたりウワサされるのはつらい。仮病を使って早退しようかとも考えたけど、当番の間はそれも許されないから、じっと我慢するしかない。授業を終えて校門を出て、思わずためいきをついた瞬間に、わたしは友達に腕をとられる。「なんで今日に限って当番になっちゃうの」拗ねたようにそう言って、続けざまにテレビの感想をしゃべり始めた彼女だって、ちゃっかりわたしのこと、影で悪く言っていたくせに。おもしろくない気分は胸にかくして、わたしは笑った。こんなことでいちいち怒っていたら、次いじめ当番が回ってきたとき、どんな悪口を流されるか分かったもんじゃない。わたしたちは常に、定期的に襲い来る災厄をできる限り軽いものにするために、人にやさしく行動する。

 そのくせ火種というものはどこにでもあって、帰り道でわたしと友達が親しくしていたというタレコミはあっという間に彼女をつまはじきにした。「当番の子以外への無視は禁じられています」評価者の先生が教卓に手をついてクラス中を睨みつけると、やがて重くるしい空気に耐えかねた誰かが泣き出した。「私だって、無視なんかしたくないのに」とぐずる彼女の厚意はありがたかったから、「正直あんまりしゃべったことないよね?」とは言えなかった。先生は簡単に騙されて、「このクラスがみんな優しい子でよかった」と涙ぐんでいる。泣き落としであっさり解散となったクラス会の帰り道、たまたま見かけたあの子にとりあえずお礼を言うと、彼女は振り向きもせず「急ぐから」と駆けていった。

 週が変わり、次の当番は、涙を使った彼女だった。案の定、彼女は当番になるや否や、すさまじく声を上げた。だれかのスカートが腕をかすめただけでギャン泣きし、喚き、被害を訴え、苦しいつらい帰りたいと訴えた。あんまり辛そうだから、と見かねた先生自ら、早退を勧める始末だ。去年同じクラスだった子曰く、いつものことらしい。「やばいよね、あの子」いじめる側も先生も、誰もが顔を曇らせて空っぽになった彼女の席を見つめていた。「大げさすぎじゃない?」正気か、という顔をしながらも、誰もがみんな怯えていた。あんなに嫌がるなんて、次、自分が当番になったとき、一体どんな仕返しをされるのか。そんな思いに震えていたみんなはうつむいていたから、彼女が涙ながらに出て行く最中、推しのライブ映像をスマホで見ていたことは、わたししか知らない。

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