レベルアップ
ペポンと頭上で音が鳴って、レベルアップしたことに気づいた。ようやく30に届いたわたしは、さっそく仕事終わりの人混みをかき分け、解禁されたひとりBarを楽しむ。世の中には、寝て起きてを繰り返すと勝手にレベルアップしてくれるチート世界もあるようだけど、この世界は必死で働いて、戦略的に経験値を稼がないとレベルがあがらないから大変だ。
汗水たらしてレベル上げに勤しむわたしをしり目に、幼なじみは草原に設置したハンモックから動かない。同時期に生まれたのにも関わらず、まだレベル10にも到達していないあいつの前で、さわやかな風を引きちぎるように缶ビールをあおってやった。「うらやましい?」勝ち誇るわたしに、あいつは携帯ゲーム機から顔を上げすらしなかった。「全然。ジュースの方が美味しいし」その口ぶりが本気だから、なぜかわたしが悔しくなる。
どんどんレベルを上げていくわたしとは対照的に、あいつはレベル7からぴくりとも成長しない。差はどんどん広がって、ついにレベル99に達したわたしは、もはやあいつと会うことすらできなくなった。深く暗い城のなかで、広がっていく影響力とは反対に狭くなっていく行動範囲をぐるぐる回りながら、わたしはときおりあいつを思い出す。レベル上げに目の色を変えて、必死で駆けずり回るわたしたちから離れ、ひとりゆうゆうと現状維持を続けるあいつが、情けなくてうらやましくて妬ましい。
やがて、わたしのレベルは上限を迎えた。100になった瞬間、ぱっと視界が白く染まり、気づくと明るい草原の上に座り込んでいた。はて、と思いステータス画面で現在地を確認しようとして腰を抜かす。なんとレベルが1に戻っている!
あぜんとして呆けるわたしに、「おかえり」と声がかかる。振り返った先にいたあいつはにやにや笑うと、ゲーム機を差し出した。「ゲームしようよ」あいつのゲームの知識は経験値カウントされないようで、わたしはレベル7のあいつにボコボコに負けた。ずるいとわめくと「そっちだってレベル上げ楽しんでただろ」なんてしゃあしゃあと言い放つ。「別に楽しんでない」「じゃあなんであんな必死だったんだ」「だって、生きるってそういうことでしょ?」あいつは首をひねった。「おれだって、生きてるけど」
わたしはレベル上げをやめた。いろんな人から指をさされては、死んでいるの同じだなんて言われるけれど、黙っていてほしい。これは実験なのだ。スコアを更新したと、となりのあいつが腕を突き上げる。レベル3のわたしは今のところ、まだ死にそうにない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます