疾患P

 寝ている間にやけどを負う謎の病が世界中で流行り、わたしもその病気にかかる。もっともわたしは兄の作ったゾンビゲームに夢中だったので、宵っ張りが功を制し軽傷ですむ。それでも一緒に遊んでた兄はけろりとしているのだから、理不尽極まりない。わたしは眠るたびに、夢のなかで火箸をもったゾンビに追いかけられては、叩かれたところが起きると水ぶくれになっている。あらゆる病院や、寺や神社やお祓いに行くけれど、効果は一向に現れない。

 兄はそんなわたしの姿を見て医者になった。凄惨で、そのくせやけにリアリティのあるゲームを作る兄が、医者なんかになって大丈夫なのかとわたしは心配する。モザイク姿でワイドショーに出るのだけはいやだ。やけど病は世界的な問題となり、兄はその対策に追われる。眠るとやけどが増えるので、わたしは日夜、兄の作ったゲームをして夜を潰す。兄のゲームは恐ろしくつまらないけど、無駄にやりこみ要素が多いので、暇つぶしにはもってこいだ。皮膚が治ったころ、わたしは気絶するように眠り、また新たなやけどを負う。

 水中就寝も効かなくてがっかりしてるわたしに、兄ができたばかりの完治薬をくれた。薬の効果はめざましく、わたしはなんど眠ってもやけどを負わなくなる。兄は世界中にこの薬を配ると言い残して旅立ち、世界はやけど病から救われる。半年後、兄は骨になって帰ってくる。やけど病に倒れた兄がなぜ薬を使わなかったのか、わたしはあらゆる人に訊ねるも、みんな絶対に口を割ってくれない。

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