赤信号少女
信号を一度で渡れたためしがない。わたしと目の合った信号はぜんぶ、ヤバって感じで点滅をはじめる。別に不幸体質までとは言わないけど、その分、どこかでいいことが起きてるわけでもない。せめて宝くじくらい当たってもいいのに。はじらう乙女みたいに赤く染まった信号の前で、わたしは諦めをもって佇む。「赤は止まれ、黄色も止まれ」という小学校の先生の教えは、どうあげつらっても否定できないほど正論だ。だから遠足のとき、一人横断歩道の対岸に残されても、高校受験に遅刻しそうでも、インターハイ予選の決勝で負けてやけくそになっても、わたしは赤信号を守り続けた。
いい大人になってもそれは変わらなくて、だから友達はみんな、わたしの運転をとても嫌がる。好きでひっかかってるわけじゃないのに、とふくれながら、わたしは車で遠ざかる彼女たちに手を振って、家に向かって歩き出す。山間にある試合会場へ送迎してくれた彼女たちに、悪気がないことは明白だ。それでも、敗北を突きつけられた今だけは、すこしぐらい卑屈になってもいいだろう。
夜の住宅街は静かで、歩いている人はだれもいない。暗闇を際立たせる、人工的な青い光が見えてくる。マンションの正面にあるちいさな横断歩道は、まるでそうするのが決まりみたいに、目が合ったとたん点滅し始める。わたしの人生、いつもこう。期待だけみせて、近づくと拒否される。血のように赤い信号の前を横切る車は一台もいない。右見て、左見て、右。三回繰り返したあと、わたしはそっと白線をこえた。
わたしは今日も赤信号が変わるのを待っている。急いでいるときはやっぱりイラっとするけど、これまでみたいなのど奥に張り付くような悲観はもう感じない。誰も横切らない横断歩道をわたしはじっと眺める。どんなに真っ赤な光が阻んでも、白黒の道は消えずにずっと、向こう側にのびている。
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