鏡よ鏡
今日はあの子のために、ありがとうございました。あら? あなたもしかして、あの子の通ってたジムの? そうそう、あの子からよく聞いていました。わざわざ来てくださって、あの子もよろこんでいると思います。
ええ、ほんと。まさか、あの子の方が先にいってしまうなんて……あの子、健康には人一倍気をつけていたのに。そう、今、あるでしょう? 将来の顔が見れる鏡。あれを見た昔の旦那さんにね、言われたそうなの。「ひどい顔だ」って。そんなこと言うほうがひどいわよね。まあ、その後すぐに離婚して、独り身生活を謳歌していたから、別にかわいそうなんて思わないけど。それからよ、あの子が美容にこだわり始めたの。あなたもやられなかった? 美容グッズとか健康食品とかの押し売り。そうそう、売ってはないけどね、ああいうの大好きで、わたしにもしょっちゅう勧めてきた。人におんなじ物を強要するクセ、最後まで変わらなかった。わたしも同じだけ強情だから、全然取り合わなかったけどね。でもおかげであの子、わたしが言うのもなんだけど、とっても美人だったでしょう。
ああ、あの写真? ええ、ちょうど先月、街で声を掛けられて撮ってもらったやつなの。本当は、右半分にわたしがいるのよ。ちょっと待ってね……ほら、これ。よく撮れているでしょう?「街で見かけた素敵親子」って特集だったみたい。笑っちゃうわよね。
そう、実はね、わたし、彼女と同級生なの。親子じゃなくて、友人。びっくりした? 全然、怒ったりしないわ。だってわたし、彼女が美容にかけていた分の時間を仕事に充てて、少しも後悔してないの。わたしは今の自分の顔が好きだもの。たとえ、老婆って言われようとね。……え? ちがう? 歳じゃないって、どういう……ああ、うん。そう。他の人から見ると、そうなのね。……ええ、確かに似ているわ。ふふ、これじゃあ親子に間違えられても、仕方ないかもね。鏡なんて、もうずいぶんちゃんと見ていなかったから、分からなかったわ。血のつながりなんてまったくないのに、まったく、傍にいると似てくるなんて、誰が言い出したんだか。最後まで、ほんとやっかいね
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