感染性ルックス

 人のまねをするクセがやめられない。気づくと、その子の口癖とかしぐさとか、お気に入りの色とか音楽とか、とにかくすぐに感染ってしまう。自分に自信がないから、誰かと同じだと安心するのだ。だってそれ、あの子もしてたから、だから間違ってないでしょう? 無意識のわたしはそういう理屈で、手当たり次第にみんなをまねてしまうけど、真似されたほうはたまったもんじゃない。だから、本当に困る。どんなに気を付けても、気づけばせっかく仲良くなったのに、「まねっこ」「パクリ」とすぐ嫌われてしまう。でも、あの子だけはちがった。

 クラスで一番目立つ彼女は、うつくしかった。顔だちもそうだし、勉強も運動もできて、自分の意見を持ってオトナみたいに落ち着いていて、なんというか彼女だけ制服の色が濃い感じ。誰かのまねばかりのわたしとは正反対の彼女と、どうして仲良くなれたのかは分からない。とにかく休み時間に一番に話しかける仲になると、わたしの無意識はさっそく彼女を喰らい始めた。短かった髪を彼女みたいに伸ばし始め、彼女のスマホカバーと同じ色のシャーペンを買い、スカートの丈をのばして、彼女のお気に入りの本を読み始めた。またでたよ、あきれと嘲笑の視線を感じても、彼女だけは平然としていた。「いやじゃないの?」同じ色のアイシャドーを使った目元がそっくりになっていることに気づいた日、わたしは耐えきれずに彼女に言った。「まねされて、いやじゃないの?」

 全然? と不思議そうに答える彼女は、むちゃくちゃ自分に自信があるか、あるいは極度のナルシストなんだろうなって思った。だから、わたしはそれから遠慮なく彼女になった。同じ服を買い、同じものを飲み、同じ感想を語った。お手本があるってとっても楽だ。そのお手本が学校一の憧れなんだから、言うことない。わたしのまねはだんだんと精度を増して、彼女が傍にいなくても、平凡なはずのわたしをそれなりに見せられるようになっていった。SNSのフォロワーもなぜだか増えて、特に彼女と双子コーデすると爆発的にウケるから、わたしと彼女はよくおそろいをアップした。やっぱり彼女はすばらしい。その事実は疑いようもなく、だからわたしは、彼女が突然おしゃれも流行も家族も未来も全部捨てて海外に行くと決めたとき、迷わず同じように後を追った。

「ほんとはね、私も怖かったの」照明の落ちた飛行機の中で、彼女がこっそり教えてくれた。「ずっと普通のフリしてたけど、けど一人でも私と同じ誰かがいれば、安心すると思ったの」彼女はこれから捨てる肉体をブランケットに包みながらほほ笑んだ。同じ色に染まった指先を、わたしはにぎる。これから蛇になるわたしと彼女は、もう互いの手をにぎることはできない。ちょっとさみしいけれど、腕も足もないシンプルな体は、きっととても楽だろう。「おんなじだね」わたしは笑う。夜が終わり、鏡のようにわたしたちを写していた窓の向こうで、朝日が昇った。

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