二章 怨嗟と紅眼、あるいは呪いの少女[十]

『……馬鹿、な』

 口元のマイクを押さえて漏らした呟きは、モニター越しに、信じられないものを見ていた。


 江波恭子の健在を。


 傷一つなくエントランス中央に着地した怪物は、その両腕に二人の隊員を抱えて、不敵に笑っている。

 あるいは、心底楽しそうに。

 自身の敵に対して、賞賛の笑顔を。


「今のは、ほんの少しだけ危なかったわね」


 ——ほんの少し? ほんの少し、だと?

 速すぎて見えなかった。だが、モニターには江波恭子が行った絶技の軌道がスローモーションで描き出されている。

 彼女が取った行動だけを見れば、絶技とは程遠いようにも思える。それはただの跳躍だ。なんのことはない。罠が発動するよりも刹那早く回避しただけのことである。

 弾丸はお互いに着弾地点を見失って交差し、不本意にも壁や床に着弾しただけのこと。

 だがしかし——。

 なにかの不可思議で避けられたわけではない。江波恭子はただの跳躍のみで、特戦三課の虎の子の策を打ち破って見せたのだ。

 江波恭子が疑問視したように、この作戦から実戦投入されたUA-152改は従来のUA-152を大きく上回る性能を有している。それはもはや、改と銘打つには別物とも言える性能に仕上がっていた。

 術式の三重付与が可能となる銃身がそれだ。

 最初に放たれた十六発の弾丸には、炸裂、散布、転移の術式が施されていた。

 散布は、微粒子の呪術合金粉末を炸裂ともに散布させる術式だ。江波恭子は呪術的な干渉を無効化するが、それはあくまでも彼女の肉体に限定された特異体質である。衣服や靴に付着した粉末は、時間をかけて徐々に無効化される可能性はあっても、瞬時にその効果を失うものではない。

 階下の隊員が正確無比に射撃出来たのはそのためだ。

 それは言わば磁力のそれに近い。江波恭子が粉末を浴びた箇所は全身に及ぶが、その脚部に向かって隊員たちの銃身は自動的に向くように設定されている。

 最初の四人の反応速度も、恭子の方向へと向かおうとする銃口の誘導あってのことだった。

 そして転移。

 放たれた十六発の弾丸は、江波恭子が予め定められた座標に移動し、特定の条件を満たせば、高速の直進運動をそのままに恭子の周囲に現出するよう設定されていたのだ。

 それは、UA-152改を使った射撃を行うことであったり。

 術式の付与された鞘からナイフを抜き取ることであったりした。

 さらに、屋上に繋がる階段に配置されていた二人が行った六回の偏差射撃には、反転、加速、炸裂の術式が付与されている。恭子によって落ち落とされた二発を除いても四発。対面の壁に弾頭を埋めながら、術式を付与された弾は、その瞬間を今か今かと待ち侘びていたのだ。

 十六発の弾丸は江波恭子の腕を、脚を、鋭角に、胴体への損傷を最小限にしつつも撃ち抜くために恭子の知覚外から出現し、対面下方からは貫通弾の掃射、さらには恭子の頭上には炸裂の術式を伴った弾丸が返ってくる。

 まさに弾丸の檻だ。

 江波恭子ならば、避けてくるだろう。その、規格外の予測があっての檻。十六発の弾丸によって左右に逃げ道はなく、頭上は炸裂弾。頭上のそれは致命傷になりかねないが故に、江波恭子はその不可避の檻の中で、被弾を前提に最小限のダメージに収まるように立ち回らねばならない。

 はずだった。

 だが、江波恭子は傷一つなく健在である。

 それも、重装備の男二人を両脇に抱えて、だ。

 理屈ではない。

 理論でもない。

 思考する時間など、なかったはずだ。

 だからその回避は、それまでの自身の思考から導き出された危惧、さらに高速の視界で見たもの、敵の狙いや自身の特性を鑑みて生み出された、未来予知の如き危機察知能力による跳躍だった。

「何故、助けた……」

 しかし、戦いは終わってはいない。ジュース1は健在である。両脇に男二人を抱えている時点で恭子の逃げ道は前後と頭上、あるいはその場にしゃがみ込むしかないのだ。隊員たちが恭子に銃口を向けながらも柱の影から顔を出し、リーダー格と思しき男が声を掛ける。

 その発言は、本来有り得ぬものだ。戦場においては標的に声をかける時間があれば撃つことの方が正しい行為であるのだから。

「何故って。陸に誰も殺すなと命じられたからよ」

 その返答に、見えぬ動揺が拡がる。

「だが、お前が殺すわけではない。彼らを殺すのは、彼らを殺すかもしれなかった弾は、私たちのものだ」

「まあ、そうかもね。実際私が助けていなくても、彼らは致命傷を負いはすれ、死ななかったかもしれない。でも」


「私を狙った弾が彼らを殺すかもしれないのなら、それは私が殺したも同然だわ」


「馬鹿な……。お前は、お前たちは、いったい何人殺したと思っている? 今更、今更我々の仲間を救うような真似をして……っ!」

「否定はしない。でも、今は今よ。開き直っていると言うなら、それも否定はしない。それでも私は誰も殺さない。私は私のために、陸の命令には絶対に逆らわない」

「命令だと? ならば、かの暴君が我々を殺せと命じていたら、お前は躊躇いなく我々を殺すというのか?」

「当然でしょう? あなたたちが、私たちを追い詰めるために、かつて森を焼き払ったように、ね。あなたたちも、私たちを殺すために手段を選ばなかった。森に生きる多くの命を顧みず、焼き払ったように、ね」

 男が奥歯を噛むように口を紡ぐ。

「私たちが戦った、命をかけて戦った理由を理解してとは言わない。私たちは立ち位置が違っただけ。方向性が違っただけ。見ていた先が致命的にズレていただけ。でもお互い狂ってる、そうでしょ?」

 覚悟を見誤っていたわと、恭子は呟いた。

 仲間の命を犠牲するかもしれない道を選んでも、彼らは恭子の沈黙を望んだ。

 だから助けたとは言葉にせず——。

「貴様と我々を一緒にするなっ!」

 男は激昂し、引き金を引いた。その弾の軌道は恭子の右眼を抉り、頭部を破壊する致死のそれだ。

 逃げ場は下か上か、あるいは前後か。二人を手放しつつ、出鱈目な速度で左右という逃げ道も考慮に入れるべきであり、しかし、柱の影から覗くいくつもの銃口は包囲網を完成させている。

 詰みだ。江波恭子は二人の男を救った時点で詰んでいる。

 だが、恭子はあろうことか。


 


 弾丸は江波恭子の右眼の、文字通りの眼前で停止していた。

「非殺傷の術式、ね」

 結果は、江波恭子の髪をわずかにそよがせただけだった。

 停止した弾は重力に従って落下する。が、その前に恭子が額で小突いて前に落とした。

 貫通、非殺傷。あと一つ術式が付与されていたならば、それを額で小突いて遠くに落とすのは当然のことだった。

 この時点で、恭子はまだ、銃身に三重術式付与の性能があることを確信はしていない。

 それでも念のためだ。

 これには、ジュース1のすべての人員が息を呑む。

「イカれてやがる……」

 銃身に非殺傷の術式が付与されていると推察していたとして、避けない選択肢を選ぶ理由があるだろうか。


 勝とうとすることは間違いではなくとも。

 勝ち筋があるかどうかは別の話であるように。

 しかし、江波恭子という存在は。

 そんな死線だけを潜り抜けて来たのだ。


 ジュース1の面々はどうあっても勝てぬであろう怪物を前に、完敗した。しかし——。

『……なんだ、これは』

 金ヶ崎の動揺を伴った声に、銃口を恭子に向けながら意識を覚醒させる。

 その異変に恭子は眉根を詰めつつも、気づいた。

 由香理と大地を両肩を担いだ陸が、恭子の横に降り立つ。

「気づいたか」

「えぇ、陸。でもこれは……」

「行け」

 恭子は返答の代わりに両脇に抱えた二人を手放し、風になる。

 その速度は、もはや隊員たちの視界にすら軌跡を残さない。呪術合金性の粉末を追尾するように銃口が恭子を追うが、それをなんとか腕力で捩じ伏せて、彼らの銃口は陸に向かった。

 その判断力と胆力は——。


 賞賛に値するもの以外の何者でもなかった。


 かつての暴君が、目の前に存在している。それだけで脚が笑い出してもおかしくはない。

 だが、陸は気軽に、出来るだけ気軽に響くように努めながらも、現状を彼らに認識させた。

「金ヶ崎が、危ない」

 そして。

「誰か、彼を頼めるか?」

 そう言った先で、肩に担がれた青年が顔を上げて、言った。

「よう、お荷物だ……。よろしく、頼むぜ」

 と。


   ◆


 散発する銃撃音の響く場所こそ目的地。

 疾駆する。山道を馬鹿正直に下る暇はない。木々の間を針のように鋭い角度で疾走するその速度は、先の攻防で見せた速度とは桁違いのものだった。

 実際、あの戦いではあの速度が限界だった。あれ以上の速さでは、いかな恭子が自身の肉体を完璧に制御していようとも慣性を殺しきれない。殴打する相手の内臓の破裂は間逃れず、下手をすれば恭子の腕は人体を容易に貫通しただろう。

 肉体制御は完全にだ。その一挙手一投足が芸術と言って差し支えがない。その制御をもってして、恭子は不殺を貫いた。

 しかし、弾丸の檻からの脱出は恭子をして肝を冷やしたのだ。男二人を抱えての離脱。些かの本気を出さざるを得なかったが、あまりに速すぎると男たちの肉体の中身が撹拌される。

 そんな速度にあって自身の肉体が壊れないことを、恭子は考慮に入れていなかった。


 それはだと、思考の外に置いている。

 それがいかに異常なことであるかを考えない。

 考えてはいけないものだと、誰に教えられずとも理解している。

 あるいは陸から、『その先に行くな』と告げられたことが確信を突いていることに、気づいていた。


 陸はあえて、恭子を表立った戦闘に参加させなかった。

 恭子の戦闘データが極端に少ないことが、その事実を如実に表している。

 大地が敵にとってわかりやすい脅威だったならば。

 それは、恭子を切り札として最後まで使い潰すために必要なことだった。

 でなければ、恭子のは、瞬く間に広まったことだろう。


 人として不才であっても。

 人の範疇を超えた天才ではない、とは限らない。


 視界が開けた。

 法面のりめんに挟まれた道路。対面に着地し、アスファルトに降り立つ。

 金ヶ崎の真横だ。

「聞いている。宮本陸が寄越したそうだな」

「話が早くて助かるわ。……で、アレ、どうするの?」

「応援を要請した。あれは、我々の装備では太刀打ち出来ない」

 金ヶ崎を始めとし、本来は後方支援のオペレーターである二人も武装して、その銃口をソレに向けている、

 恭子もまた、ソレに視線を固定して動かせなかった。


 ——なに、アレ。


 ソレは人の形をしている。動きは鈍く、今にも崩れ落ちそうなほどに脆い。着衣はなく、おそらく元は男であり、皮膚はヘドロのような沼地を思わせる濁った緑色をしていて、表面は沸騰したように泡を立てながら燻っている。

 そして、ソレが歩いて来たであろう道のりは、腐っていた。

 すべてが例外なく。

 アスファルトもコンクリートの法面もガードレールも、草木さえも。

 ドロドロに泡を噴きながら腐っている。まさに地獄絵図。あるいは、地獄はまだ魂が存在を許されているだけまともとさえ言えた。

 およそ、ソレの半径十五メートル以内は、生命はおろか無機物でさえ形を保てぬ不浄と化している。

 じりじりと近づいてくるソレに眼球はない。唇も鼻も耳も爛れ落ちた虚ろだ。

 そして、ただ向かって来る。こちらはその歩幅に合わせて少しずつ後退せざるを得ない状態だ。

「一応聞こえてはいたけれど、発砲はしたのよね?」

「あぁ、浄化のとっておきを、な。だが、奴の範囲内に弾が入った瞬間、腐って溶け落ちた」

「でしょうね」

「お前はアレをどう見る。……いや、あんなモノを見たことはあるか?」

「固定化され、物理法則になった瘴気。信じられないほどの呪いの塊。歩く殺生石ね。似たような物を見たことはあるけれど。アレほどのものが自立してるなんて、ちょっと笑い話だわ」


 ——嘘ね。

 私は、あれ以上のモノを知っている、と。


 近づけば死ぬ。遠距離攻撃は通用しない。動きは愚鈍だが、止められないのならばやがて人の明かりの灯る場所まで辿り着く。

 あれは倒すモノではない。祓うモノでさえない。封印が必要な、第一級の災害だ。

「確かに笑い話だ。だが、笑っている場合でもない。江波恭子、お前はアレを倒せるか?」

 その問いに、恭子は感嘆した。

 ——確かに優秀ね。

 すでに思考を切り替えている。その上で自身の立場や価値観から生まれぬ意見をこちらに問うているのだ。

「私にはないけれど、方法ならあるわ……。その方法を選択するかどうかはまた別の話だけれど」

 含みのある言い方にはなってしまったが、それは致し方のないことだった。その選択は、あまりにも身勝手が過ぎる。

「そうか……。だが、方法があるとわかっただけで僥倖だ。正直、少し肩の荷が下りる」

 倒すモノではないソレを倒す方法が、ある。

 たった一つだけ——。

 じりじりと距離を詰められる。ソレが急に加速することは、その今にも崩れ落ちそうなほどの身体からは有り得ないと判断出来るが、遠距離攻撃の手段がないとも限らない。

 警戒は最大限だ。

 陸に指示されて最短距離で現場に到着したはいいものの、打てる手がない。

 後方、およそ百メートル先には宇曽利山通運の大型トラックが停車しているが、それも徐々に後退を始めていた。

 やがて背後に動きが生じる。隠れ家に繋がる山道の入り口から、陸たちを連れ立ったジュース1が現れた。

 その瞬間。


 黒。


 眼球のない眼窩に、なにも光を宿さぬ暗闇に、ソレがかつて人であったことを示すかのような怨嗟の黒が——。


 ——来るっ!


 判断は一瞬。恭子は金ヶ崎とオペレーター二人の襟元を後ろから引っ張り、後方に飛び退いた。

 飛沫さえ致死。触れればその部分から全身が腐り落ちるだろう。ソレがゴボリと吐き出した液は、あるいは汁は、おそらく彼が人であった頃に人体を構成していた内臓の成れの果てである。

 吐き出された吐瀉物は、先程まで恭子たちが立っていた地面にぶちまけられ、同時に周囲が腐り、崩れた。

 流石と言うべきか。恭子に引っ張られた三人は着地と同時に体制を立て直しつつ、少しペースを上げて再び後退を開始する。

「ぐっ。……すまない、命拾いをした」

 だが、そんな金ヶ崎の礼は恭子に届いてはいない。


 ——嘘、でしょ。


 四人が後退した分、ソレの、あるかないかもわからない視界は開けた。ソレは、彼を知覚するのに恭子たちが邪魔だったからこそ攻撃を仕掛けて来たのだ。


 その、虚ろなる眼窩は——。

 確かに、宮本陸だけを見据えていた。


 有り得ない。

 ソレは、式神、あるいは使い魔なのだと恭子は確信する。

 本来、式神と呼ばれるモノは、強力な力を有する従者である。

 だが、ソレは式神の範疇を大きく超えているモノだ。あんなモノを横に置いて戦うなど正気ではないし、あまりにも遅すぎる。戦闘に向いているとは到底思えない。一度きりの爆弾だったとしても、あまりにもコストが高すぎる。街ごと吹き飛ばすなら話は別だが、運搬が不可能ではないにしろ困難である以上、現実的な運用とは言い難い。

 一方、使い魔は。

 基本的に索敵や情報伝達を主とする使い捨てだ。低コストで量産が可能、失っても惜しくない使い切りであることが多い。

 もちろん、その両者の特性を兼ね備えた強力な魔を操る式神使いも存在はするが——。

 あれは使い魔だ。

 しかも、宮本陸を知覚するためだけに造られた——。

 固定化され、物理現象として世界を蝕む呪いである。

 異常だ。

 あまりにも異常だ。

 形振り構わず、という言葉が、人を快楽で殺しておいて自身の死は肯定出来ないというほどに、生温い。

 この怨嗟の創造者は、いったいどれほど陸を——。

 陸が犯したことの総量から見れば、恨まれるなんてことは当たり前だ。恭子は陸の味方ではあるが、そこを違えるつもりは毛頭ない。

 だが、そんな恭子からしてもソレは、

 こんなモノを造りあげられるのならばそのリソースをもっと有効活用出来るはずであり、ただ鈍重なだけの、しかし簡単には壊すことも出来なければ封ずることも難しいほどの怨嗟の凝縮を造ったところで意味があるとは到底思えない。

 あるいはソレは彫刻だ。ただ一点の妄執によって彫り整えられた、曇りなき芸術品のような——。


 磨き抜かれた果てに腐れ落ちる、怨嗟の塊。


 後退する四人に、陸が並ぶ。

 由香理を預けられた大地は、法面にへたり込んで肩で息をしていた。

「暴君か……。元は必要か?」

「なんでもいい……。それよりも……」

「アレの狙いは、どうやら君らしいぞ」

 金ヶ崎も気づいていた。

「ああ……。わかっている……」

「江波恭子は、アレを倒す方法があると言った。それは本当か?」

「ああ、あるさ。だがそれにはあと一人、足りない」

「…………? 陸?」

 恭子の思い浮かべていた方法にはかすりもしない言葉が陸の口から漏れるのを、彼女は聞いた。

 その動揺に金ヶ崎は気づかない振りをする。

 方法が二つもあるのならば、それは僥倖を通り越して幸運だ。

 恭子の動揺は無理もない。

 おそらくはソレさえをも殺し切るだろう彼女の存在は、記憶に新しすぎた。だから、陸の考えに追いつけない。

 いや、恭子にとって陸の案は、完全に思案の外だった。その方法だけは、彼女ではどうあっても導き出せない。

 だから恭子の案とはつまり。


 蒐集の鬼眼。


 しかし、石楠花由香理をこの場で叩き起こせたとして、その力を特戦三課の面々に見せるのは危険がすぎる。石楠花由香理の命を国に売ることに等しい行いだ。

 そう遠くない未来に同じ結末を迎えるとしても。

 それが今である必要はないと恭子は考え、あえてその方法を口にはしなかった。

「だが、それもたった今、足りた」

 陸がそう告げたわけが背後に現れる。

 ぬらりと。あるいは最初から、そこにはそういうものが佇んでいたとでもいうように。

 老獪という言葉さえをも斜に着こなすが如く。

 邪悪な嗤いを口元に湛えた外道が、漆黒の着物に身を包み、番傘を携えて立っていた。


「えぇ、えぇ、陸様。アレを放置するなどと、そんなご無体、私は許容しましょうが、陸様が許すはずもなし。あれは祓うモノでもなく、ましてましてや、封ずるモノでもなし。アレは、ここにて倒すモノなれば」


 嗤う。嗤っている。

 ソレの眼窩がくらい虚ろで、自身の臓腑さえ溶かす血反吐ならば。

 外道のそれは、邪な悪を湛えて踏み躙った、他者の血で出来ていた。

 その名を、百舌文隆。

 またの名を。


 外道の策士、という。。

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