回想六話 汞の手足、そして圽身。
~王城3階、空中テラス~
外を見渡せる窓...正方形の穴と言うべきか、そこ一つ一つに整然と大筒が並べられている。
ただ口径に微かに残る白煙のみ、一向に発射される気配は無かった。
「さっきから何発も大砲を発射しているというのに、何故敵陣は無傷なんだ!」
大砲一つにつき三人ほどの兵が立ち並んでいる。
「不具合か...どうしても弾が敵陣に辿り着く前に破裂してしまう。」
どうやら自分達が役を担う大砲が何故か効力を持たなくなっていることに対し口々に喚いている様子である。
そこへ部隊長だろうか、一人の男が兵達の後方を闊歩し、叱咤する。
「構わず放て!俺達にはひた向きに弾を発射し続けるほか道はない!
──こうでもしないと、全員が粛清される...」
ドカン!と炸裂音が立て続けに15発程鳴り響く。大砲の数は王軍が如何に財政面において余裕を持っていたかを示す。
「よし!これなら届くかもしれない...」
「角度、方向はどれも完璧に近い、が...」
兵達は活気を取り戻し始めた。
...が、やはり弾はある地点を境に急速に速度を落とし、空中で爆発した。
「クソ...やはり駄目か...」
「もう沢山だ...俺はもう戦場に出るからな!こんなところで頓挫したまま粛清を待つのはごめんだ!」
一人の兵が階段へ続く扉に向かう。
「ま、待て!俺に一つ心当たりがある...今の弾の動き...何者かの妨害を受けている可能性が高いと見た。ならば私がここの隊長としてそいつを殺しにいく。」
男は扉へ向かおうとした兵に近づいた。
「ンなモン信用出来ねぇ、お前は好きにすればいいだろ、俺も好きにさせてもらう。」
兵士は扉に手をかけ、開く。
「...ん?」
扉の向こうには可愛らしい女の子が立っていた。
「あっ...ザ、ザギさん...!何の用で...」
隊長の男が即座に話しかける。
「ゲッ...五角天かよ...」
扉の前の一人の兵がこの台詞を言い終わる前に、ザギに胸ぐらを掴まれたのは必然。
が、大砲の周りに散在する兵は心なしかザギの姿を見て悦んでいるように見えた。
「ハーイ♪、尖兵の皆さーん、大砲が使い物にならないでしょぉ?」
「ぐっ...」
兵士はザギに胸ぐらを掴まれたまま動けない。
「実は私ィ、邪魔してる奴を知ってるの。顔も、能力も、場所もね♪」
ザギは笑いながら言った。
「左様で御座いますか...」
「砲撃部隊隊長ブライ、あんたは行かなくてもいいのよ?ここで尖兵達と一緒に戦争が終わるのを待っててね☆
私が...確実に殺してあ・げ・る。」
(結局粛清されるのか俺達は...)
「あんたは今すぐに殺してもいいのよ?無礼なお兄ちゃん♪」
ザギは胸ぐらを掴む腕を兵の首元まで運んだが、すぐにパッと放した。
「グッ...ハァハァ...」
「まぁいいや、許してあーげよ。『モロク』に対するイライラの方が上だし♪」
「失礼ながら、モロクとは...弾の妨害をしているという者でしょうか...?」
「そそ、詳しくは分からないけど敵陣近くの空気に小細工をして壁を作っているみたいね。しかも気体から成るから崩壊は無し。」
「......何故敵の能力をそこまで知り尽くしておられるのですか?」
「口が過ぎるよブライ君。」
「も、申し訳御座いません!」
「あ~あ、時間がもうないや、いつものように君達の『下の世話』、してあげようと思ったけど無理みたい♪」
活気を取り戻した兵があからさまにヘコむ。
「じゃあねーバイバーイ♪」
✝️
(やーん、思いっきり出遅れたじゃーん!)
王城から飛び出したザギは城下町や草原で繰り広げられる戦い、塁塁と積み重なる死屍にこう思いつつも興奮が収まりきらない様子だ。
「モロクは眼前左上の崖に居る。やっとこの時が...!」
ザギの靴が見る間にスパイクに変形し、大腿が膨れ上がる。
そして途轍もない、いや、轍さえ残さぬ程の速度で戦場を駆け抜ける。
(モロク~、たぁっぷり可愛がってあげる♥️)
✝️
王城内部、エントランス。
正面突破を成し遂げたアンジェラはエントランスの物陰に身を潜め、恐らく自分を攻撃しに来るであろう五角天への不意討ちを図っていた。
...途端に空気が張り詰める。
(来た...)
中央部2階へ続く階段をコツコツと降りてくる何者かをアンジェラは目に収めた。
(女か...持っているのは、銃剣か...?)
踊場まで階段を降りきったその銃剣を持つ女は、白く輝く髪をたくし上げ、伸びをした。
(五角天に間違いはなさそうだ。確実に仕留めるにはまず狙うのは足か...)
アンジェラが剣を水平に持ち、狙いを定める。
...しかし不意を突かれたのはアンジェラであった。
踊場の右手に身を潜めていたアンジェラに対し、女──イェルミは右に銃剣を持ちつつ伸びをし、銃口をアンジェラの方へ向け...
アンジェラは造次顛沛、飛び出す...。
踊場少し上の階段脇手摺に飛び乗りイェルミ目掛け剣戟を放とうとした瞬間にその眉間へ銃弾が飛んだ。
(危なッ!)
四肢切断へ向けて剣の角度を確定させていた為にアンジェラの銃弾の避け方は首を傾けるというシンプルなものになった。
イェルミは銃弾を放つ反動そのまま、後ろへ踊場から1階床へと手摺を飛び越え身を擲つ。
アンジェラは剣の角度を少し下へずらし、再度イェルミの四肢切断へのプランを終了させる。そして手摺を蹴り、下へ落ちるイェルミに向けて飛び込む。
しかしアンジェラが放った剣戟は全て空振り。イェルミは片手で地面に着地、すぐに体勢を立て直した。
アンジェラも同様体勢を立て直し...
二点間距離にして20m。
(不意討ちが失敗した...やはり一筋縄ではいかないか。)
イェルミが口を開く。
「私は貴方達革命軍を完全に舐めきっていたようだ...
今の剣の腕、敵ながら遖。
私は貴方をただの革命軍幹部としてではなく、されど革命軍幹部として対峙させて...」
バキィ!と金属同士が激しく打ち当たった。
「ほう...話す余裕も与えぬか...」
(今の20mの詰め寄りは本当に姿が見えなかった...気を抜くと負ける...)
「戦闘アニメみたいに一騎討ち中はベラベラと喋らないものだろう...」
アンジェラは少し笑みを浮かべた。
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