第176話 無限パワーアップ【SIDE:ゴーレム】

「えっ、ま、ま、まさか……」


「そのまさかだ。覚悟しろよ」


 俺はワカメ男の腕を掴むと、思い切り拳を振り上げた。


「<銀色の爆裂シルバー>!」


「あぎゃあああああああああああああああああ!!」


 爆発がワカメ男の体を巻き込み、激しい光を放つ。黒い煙がプスプスと音を鳴らして男の体から上がる。


 この男は、何度でも殺すことができる。つまり、経験値が稼ぎ放題ということだ。

 対人戦は、命を奪えないために経験値を得ることができなかった。しかし、こいつの場合は別だ。


――


? 男 16歳

レベル1


スキル

<ゴーレム>

経験値残量:3572

<身体強化ブロンズ>……使用経験値10。1分間、自身の攻撃力を高める。(+1)

<銀色の爆裂シルバー>……使用経験値50。爆発を纏ったパンチを繰り出すことができる。

<黄金の衝撃波ゴールド>……使用経験値200。遠距離への衝撃波の発生。

<壊れない双璧ダイヤモンド>……使用経験値500。両腕の硬度を上げ、盾とする。

<比類なき豪傑ミスリル>……使用経験値1000。強烈な連撃を放つ。

<最硬にて最強アダマンタイト>……使用経験値3000。5分間、自身の硬度を高め、身体能力を高める。


――


 ここまでに3回奴を倒したことを考えると、使った経験値の分を考慮しても、だいたい1回につき1000くらいの経験値が入ってきている。

 これは思ったよりも効率がいいな。さて、奴の心が折れるまで、思う存分経験値を稼がせてもらうか。


「<銀色の爆裂シルバー>!」


 再度の爆発とともに、ワカメ男の体が吹っ飛んだ。これで4回目。


――


 <ゴーレム>の能力が強化されました。


――


 おっと、どうやら能力の強化もおまけについてくるようだ。これは美味しいな。


「ば、化け物! 君には人の心がないのかっ!?」


「化け物なんだからあるわけないだろ」


「ああああああああああああああああ!!」


――


 <ゴーレム>の能力が強化されました。


――


――


 <ゴーレム>の能力が強化されました。


――


――


 <ゴーレム>の能力が強化されました。


――


――


 <ゴーレム>の能力が強化されました。


――


 どれくらい時間が経っただろうか。もう数えきれないほどの爆発の果てに、地下のこの廊下では、すすり泣く声だけが響いていた。


「う、うううううううううう……もう嫌だ、誰か助けてくれよお……」


 ワカメ男がモップのように床に寝そべっているのを見て、俺は自分のステータスを確認することにした。


――


? 男 16歳

レベル1


スキル

<ゴーレム>

経験値残量:73572

<身体強化ブロンズ>……使用経験値10。1分間、自身の攻撃力を高める。(+1→3)

<銀色の爆裂シルバー>……使用経験値50。爆発を纏ったパンチを繰り出すことができる。

<黄金の衝撃波ゴールド>……使用経験値200。遠距離への衝撃波の発生。

<壊れない双璧ダイヤモンド>……使用経験値500。両腕の硬度を上げ、盾とする。(3分間自動回復効果を獲得する。)

<比類なき豪傑ミスリル>……使用経験値1000。強烈な連撃を放つ。

<最硬にて最強アダマンタイト>……使用経験値3000。5分間、(自身の硬度を高め、身体能力を高める。)→身体能力を高め、自動で行動できるようになる。


――


 能力の強化も何度かあったし、経験値も増えた。期待していた以上の成果だ。


「こ、この人でなし!! なんでそんな簡単に人を殺せるんだ!? 人の心がないのか!?」


「都合のいいときだけ人扱いしたり、化け物呼ばわりしたり、忙しいな。ところで……」


 俺はワカメ男の頭を掴み、威圧的に持ち上げた。男は『ヒッ』と小さな悲鳴を上げる。


「まだやるか? 俺は別に構わないが」


「わ、わかった! ここは通すから、もうボクに攻撃しないでくれ! 痛いのは嫌なんだ!」


「そうか、ならいい」


 俺はワカメ男から手を離すと、廊下の先に進む。


「卑怯者! お前みたいな奴は、近いうちに地獄を見るぞ!!」


 ワカメ男の負け惜しみが廊下を反響する中、俺とヴィットはさらに奥へと進んでいく。


「お前……結構エグいことするんだな」


「知らん。あいつから吹っ掛けてきたことだろ。第一、なんでお前はそんな覚悟で俺について来てるんだ」


「わかんねえよ。なんとなく、お前のことを放っておけねえっていうか……ついていった方がいい気がするんだよ」


 最初は、道案内だけさせてどこかに放ってしまおうかと思っていた。

 しかし、ヴィットは思った以上に俺についてこようとするし、俺自身もそんなこいつを頼りにしている節があった。


 不思議だ。これまで他人に対してそんな感情を抱いたことなんてこれまでなかった。きっと、俺の中にも変化が生まれているのだろう。


「……ついたぞ。きっとここだ」


 考えごとをしていたら、思ったよりも早く、目的地に着くことができた。

 廊下の先に、大きな鉄の扉がそびえたっている。廊下に備えられた粗末な灯りの光を浴びて、暗く重たい影を伸ばしている。


 この扉の先に、研究対象の子どもがいる。いったい、どんな姿なんだろう。


 少し前の俺のように、言葉も交わすことも出来ないだろうか。……いや、考えても仕方がないか。


 俺は<身体強化ブロンズ>を発動し、扉を破壊し、その先の景色に目を見張った。

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