第174話 研究所へ【SIDE:ゴーレム】

「ついたぞ。ここがお前が暮らしていた街――ヘイルエイクだ」


 馬で走ること、約一時間。俺たちの眼前には、壁に囲まれた大きな町が広がっていた。

 ――ここだ。間違いない。俺が生まれた街。少し前まで、俺はここで暮らしていた。


 ヘイルエイクという単語も、よく考えれば何度か聞いたことがあった。


「研究所の場所は俺が知っている。だが、お前の顔は知れているし、向こうはお前をさがすために躍起だ。そんな相手の懐に潜るわけだが、覚悟はあるのか?」


「つまらないことを聞くな」


 俺は自分のことを知りたい。そのためなら、どんな危険だって怖くない。

 俺の問いかけを聞いて、ヴィットはため息をこぼす。


「……しゃーねーな。俺もやるだけやってみるか。まずはこれを着てくれ」



「マシュー様直属部隊の隊長。ヴィット・バルアートだ。奴隷の子どもを連れてきたから、ここを通してくれ」


 やってきたのは、街の目立たないところに立っている建物。

 あまり大きい建物でもないのに、門番の男が二人、入り口で見張りをしている。その事実が、ここがその研究所だというヴィットの言葉を裏付けている。


「ヴィット……? 名前は聞いたことあるが、ここに来たことなんてあったか?」


「前に一度だけな。とにかく通してくれないか」


「まあ、通すことはできるだろうが……しかし、そのガキはなんだ?」


 門番は俺を指さし、怪訝そうな顔をした。

 俺は女物の服を着せられており、その上からぼろ布を被っている。


『お前、顔はいいんだし、女装すれば門番もお前が女だと勘違いするはずだ!』


 などとヴィットは言っていたが、そんな都合よく話が進むわけがないと思うが。


「そいつ、女か? なんでお前が女のガキなんか連れてくるんだ?」


 嘘だろ? まさか女で通ってるのか?


「奴隷のガキを見つけたんだよ。とりあえずそこを通してくれないか?」


「……まあ、わかった。とりあえず部外者ではないようだからな。中に担当がいるから、そっちに話を通してくれ」


 意外にもすんなりと、門番の男たちは扉を開けてくれた。

 ヴィットは「どうも」と言うと、俺の手を引いて中に足を踏み入れる。


「……待て」


 建物の中に入った時、背後から門番の男たちが声をかけてきた。


「一応、そのガキの顔を見ておきたい。その布を外せ」


 途端、ヴィットの顔が凍りつく。


「……見せなきゃダメか?」


「ダメだ。早くしろ」


 ヴィットは俺の頭にかかった布に手をかけるとーー、


「悪いな! 邪魔するぜ!」


 バサッと音を立てて、門番の二人の顔に投げつけた!


「走るぞ! こっちだ!」


「お前……弱いくせにやり方が強引だな」


「うるせえ! これしか思いつかなかったんだよ!」


 俺たちは走り、廊下の角を曲がる。体力はまだ余裕だったが、ヴィットに合わせないといけないので、やや遅い。


「見ろ! あのガキ、ゴーレムだぞ!!」


「誰か! あの二人組を止めろ!」


 面倒なことに、さっきの二人がデカい声を出して仲間を呼んでいる。

 声は狭い廊下を反響し、行先にも聴こえているだろう。途端、進行方向でバタバタと足音が鳴った。


「ゴーレムだと!?」


「おいお前ら! 止まれ!」


 前方に現れたのは、武器を手にした研究所の職員と思われる男たちだ。武器を構え、こちらを威嚇している。


「<身体強化ブロンズ>」


 しかし、こちらも「はいそうですか」と止まるわけにはいかない。俺は<身体強化ブロンズ>を発動し、体に力を込める。


 飛びかかって、顔面に飛び蹴り。次いで、地面に着地し、他の研究員に狙いを定める。


 ーーなるほど。体が軽い。これまでとは比べものにならないほどだ。これが、スキルの強化ということか!


「うわあああああああ!」


 驚いたことに、スキルの強化によって<身体強化ブロンズ>の発動時間も伸びているようで、俺はあっさりと研究員たちを蹴りで伸ばすことができた。


 再び静かになった廊下を、俺たちは走る。


「で、どこに向かえばいいんだ?」


「ここは一見して普通の建物だが、研究所は地下なんだ! つまり、俺たちは地下に続く階段を降りて、その先を目指す必要がある!」


 ヴィットは既に息を切らしながら、吐息混じりで説明した。


「……で、その階段はどこにあるんだ?」


「いや、知らない!」


「さっき1回ここに来たことがあるって言ってただろう」


「奥まで行ったわけじゃないんだよ! というわけで、後は任せた!」


 そう言って前方を指すヴィット。そこには、研究員たちの第二陣が構えていた。


 まさか、地下への隠し通路を見つけるまで研究員たちを倒し続けないといけないんじゃないだろうな!? 人は殺さないと決めた以上、ただでさえ経験値が惜しいのに!


「お前……さては役に立たないな!」


「う、うるせえな! これでも元隊長だったんだぞ!?」


 俺は<身体強化ブロンズ>を発動し、研究員を薙ぎ倒した。

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