【書籍化決定】最速進化のスライム無双 追放された俺の外れスキル<スライム>は超効率的にレベルアップするチートだったので、100倍速で鍛えて世界最強に成り上がる。【WEB版】
第172話 二つの迷走【SIDE:ゴーレム】
第172話 二つの迷走【SIDE:ゴーレム】
不可解なことが起きた。俺は馬上で揺れながら、ステータスを確認し続けていた。
――
? 男 16歳
レベル1
スキル
<ゴーレム>
経験値残量:860
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――
<ゴーレム>の能力が強化されたというアナウンスと共に、俺のスキルが変化したのだ。
「おい。スキルの能力が強化されることなんてあるのか」
「し、知らない。俺はそんな話は聞いたことはないが……」
俺の後ろを走る元隊長が恐る恐る聞いてくる。どうやら嘘はついていないようだ。
こんなことは初めてだ。スキルが強化? これは普通に起こることなんだろうか?
その現象の正体がわからない反面、何が起こっているかはすぐに理解できた。俺のスキルが強くなったのだ。
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当然だが、これは俺にとって嬉しいことだった。<
――おそらく、あのアルクスという男も、このスキルの強化を繰り返してきたんだろう。だとすれば、あれだけの強さを持っているのも理解ができる。
まあ、それも本人に聞けばわかることか。今はそれよりも、やることがある。
「……おい」
「な、なんだ?」
俺が再び元隊長に声をかけると、彼はビクッと肩を震わせ、ひきつった笑みを浮かべた。
「……殺さないことは約束するから、ちゃんと答えろ」
「し、しかし……いや、わかった。恐れるのはやめよう」
「お前の名前はなんだ?」
「私はヴィットだ」
男が当たり前のように答えるのを見て、俺は少し不思議に思った。
「……なぜだ」
「なぜだ、とはどういうことだ?」
「なぜお前はヴィットという名前なんだ」
ヴィットは困惑する。こんなことを聞かれたのは初めてなのだろう。
「それは――父が私をそう名付けたからだ。名前というのはそういうものだ」
「……ということは、俺にも名前があるのか?」
そこまで言ったところで、ヴィットはようやく合点がいったという表情をした。
俺には名前がない。『ゴーレム』というのは通称だ。
自分自身を知るために、名前を知ることは大切だ。だが、その糸口がまるで見つからないのだ。
ヴィットは眉をひそめて唸った後、まるで絞り出すようにして答えた。
「……ある可能性はある。お前の家族が、お前に名前を付けているかもしれないからな。だが――」
その家族を見つけるのが至難の業ということだろう。
「じゃあ、お前でいい。俺に名前を付けてくれ」
「私か!?」
突然のことにヴィットは驚いたのか、目を丸くして気恥ずかしそうにする。
「……いや、私には無理だ」
「なぜだ」
「名前っていうのはこう――なんて言うんだろうな。特別なものなんだよ。そうやすやすと付けるものじゃなくてな。だから、お前も大事な人に付けてもらった方がいい」
俺にその感覚はわからなかった。別に、名前なんて誰が付けても同じだろう。そう感じた。
しかし、彼の言葉に強烈な違和感があったのも事実だった。俺はこの不思議な感覚に無力化され、ただ押し黙った。
「ところで……ゴーレム。お前はどうしてツンベルグ領を目指すんだ?」
「決まっているだろ。マシューが俺を使って何をしようとしていたのかを知るため――」
そこまで言いかけて、俺は気づいた。
そうだ、こいつは元々マシューの手下なんだから、こいつに聞けばいいじゃないか、と。
「おい答えろ。俺は何のためにマシューに飼われていたんだ?」
ヴィットは一瞬視線を逸らし、黙秘しようとしたが、俺に殺されるかもしれないと思ったようで、ため息を吐いて喋り始めた。
「……わからない。私はただ、お前の監視をするように言われていただけだからな」
「使えないな」
「使えないって言うんじゃないよ。……そうだ、私は詳しくは知らないが、マシュー様はお前と同じように、奴隷の子どもを何人も集めていた」
それは俺も過去に見たことがある。マシューは子どもたちの選別の中で俺を見出したのだ。
「あれは、お前のような特別な子どもを選ぶためにやっていたというが――お前以外に、もう一人選ばれた子どもがいたらしい」
「俺以外の――特別な子ども?」
初耳だ。そんな奴がいるのか。
特別、ということは、おそらくそいつも特別なスキルを持っているのだろう。だとしたら、俺のスキルの正体を知るのに、役立つかもしれない。
やはり、真実に近づくためにはツンベルグ領に行く必要があるようだ。
「おいヴィット。目的地に着いたら、その特別な子どもがいるところまで案内しろ。ついでにこの馬を速く走らせる方法も教えろ」
「あーもう、注文が多いな! こっちはおっさんなんだよ、酷使すんな!」
ヴィットは大きくため息を吐き、面倒そうに馬を鞭打った。
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