第171話 俺はいったい誰なんだ【SIDE:ゴーレム】

 自分とはどこにいるんだろうか? それは、至極当たり前な問いのようで、俺の人生の本質をよく表していた。

 俺はゴーレム。それ以上でも、それ以下でもない。


 物心ついた頃から、俺はずっと一人だった。両親の顔も覚えていない。

 飼い主になった男からつけられた名前は『ゴーレム』。俺は生まれてからこれまでの人生を、怪物として生きてきた。


 しかし、そんな俺に転機が訪れたのはつい最近。

 飼い主を殺し、自由の身になったのだ。


 逃亡している身ではあるが、生まれて初めて手に入れた自由。それを得てしばらく経った今、俺は思うことがある。


 自由とは、面倒なものだ。


 以前は、やるべきことは全て上からの命令で決まっていた。マシューに言われた通りに人を殺せば食料は出てくるし、粗末だったが寝床は確保できた。

 だが、今はそうではない。何をすべきなのかを全て自分で決めなければいけない。もちろん、俺にそんな脳があるはずがない。


 自由とは面倒だ。しかし、全く不自由がいいかと言えばそれもまた違うと感じた。

 飼い主の命令にだけ従い、自分の考えを持たずに生きるということには、意味がない。俺にはそう感じるのだ。


「……わけわかんなくなってきたな。もうどうでもいいか」


 現在、俺は森の中で生活をしていた。マシューの馬車を破壊した後、身をひそめるためだ。

 そして、いくつかわかったこともある。


「ステータスオープン」


――


? 男 16歳

レベル1


スキル

<ゴーレム>

経験値残量:920

<身体強化ブロンズ>……使用経験値10。1分間、自身の攻撃力を高める。

<銀色の爆裂シルバー>……使用経験値50。爆発を纏ったパンチを繰り出すことができる。

<黄金の衝撃波ゴールド>……使用経験値200。遠距離への衝撃波の発生。

<壊れない双璧ダイヤモンド>……使用経験値500。両腕の硬度を上げ、盾とする。

<比類なき豪傑ミスリル>……使用経験値1000。強烈な連撃を放つ。

<最硬にて最強アダマンタイト>……使用経験値3000。5分間、自身の硬度を高め、身体能力を高める。


――


 まずは、わかっていることから。

 俺の持つスキル<ゴーレム>は、経験値を使用して技を使うことができる能力だ。


 技は大きく分けて、攻撃系と防御系に分かれている。例えば、<銀色の爆裂シルバー>は爆発を起こす攻撃系。反対に、<壊れない双璧ダイヤモンド>は体の硬度を上げる防御系。

 どちらの系統も敵を倒すのに十分の強さがあるので、上手く使い分けることが求められる。……もっとも、俺にそんなことができるとは思わないが。


 次に、新しくわかったこと。

 経験値は、人間を殺すだけではなく、モンスターを倒すことでも獲得することが出来る。


 俺の前に立ちふさがった――アルクスという男が言っていたことは事実だったのだ。半信半疑だったが、それは間違いないとわかった。


 同時に、この事実は俺の道を大きく開いた。

 能力を使うために、人間を殺さなくてもいいというのは、俺にとって革新的だった。


 モンスターを倒すことは、人間を殺すよりもはるかに心が痛まない。それに、死んだモンスターの肉は、食べることも出来る。


 モンスターを倒し、食料を確保する。そうして、俺はここしばらくを森の中で過ごしてきた。


 しかし、そんな生活にも限界を感じてきてはいた。

 一人の時に考えるのだ。自分はいったい何者なのか、と。


 自分は、何のためにマシューに飼われていたのだろうか? おそらく、その答えはこの<ゴーレム>というスキルにあるのだろう。

 だが、何が<ゴーレム>に利用価値を感じさせていたのかがわからなかった。


 それを突き詰めれば、きっと俺は自分の生きる意味や存在意義を見つけられるのだろう。


「……考えるのは得意じゃない。ひとまず、動いてみるか」


 俺は知りたい。<ゴーレム>とはどんなスキルなのかを。自分が何を為すべきなのかを。家族のことを。自分自身のことを。


 そのためには、自分がいた街に戻ることが一番だろう。行き先は決まった。


 俺は感覚を頼りに、マシューとともに暮らしていた場所・ツンベルグ領を目指し、歩き始めた。

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