第151話 目覚めると

「…………んん」


 気が付くと、そこはベッドの上だった。俺の視界を見覚えがある天井が覆う。


 意識が少しずつはっきりしてきた。そして、自分がなぜそこにいるかも思い出せてきた。俺は、ベヒーモス相手に<スライジング・バースト>を撃って――


「アル君……? アル君!」


 起きあがろうとした次の瞬間、俺の全身を柔らかいものが包み込んだ。あまりにもいきなりの事態に、俺は獲物に捕らえられた小動物のように暴れてしまう。


「――って、シエラさん!?」


「よかった、やっと起きたんだね。ずっと寝てたから心配しちゃったよ」


「ずっとって……俺はあれからどのくらい寝てたんですか?」


「1週間くらい?」


「前もあったな、こんなこと……」


 体力が尽きて気を失った後は、俺はしばらく気を失ってしまう。そしてシエラさんに起こされるのもお決まりになってしまった。


 ここは病院の一室だ。おそらく、ベヒーモスを倒して気を失った俺は、この病室に担ぎ込まれたんだろう。


「先生は安静にしていれば大丈夫って言ってたけど……本当に、心配だったんだから」


「ごめんなさい。俺はいつも、シエラさんに迷惑をかけっぱなしですね」


「ううん。私がしたいから勝手に世話を焼いてるだけだよ。私だって、アル君からたくさん貰ってるんだから」


「あー、あー、ゴホンゴホン。お取込み中悪いけど、私もいるから」


 シエラさんに微笑みかけられてどぎまぎしていると、彼女の背後で椅子に座っていたライゼが咳ばらいをして話を遮った。


「なんだ、ライゼもいたのか」


「失礼な奴ね。こんなに可愛い女の子が看病に来てあげたんだから、少しくらい感謝してもいい気がするけど?」


「そうだ、俺が気を失った後、何があったんだ? ベヒーモスは? ゼインの魔眼は?」


「無視するんじゃない!!」


 ライゼは鬼のような形相で俺を締め上げた後、俺が気を失った後のことを話してくれた。


 俺が<スライジング・バースト>を撃ったことで、ベヒーモスは絶命。その場に倒れた後は、動かなくなったらしい。ここまでは記憶通り。


 俺が気を失った数分後、救援を呼びに行ったルリカさんが、ワープで王国から帰ってくる。

 彼女は王国の騎士団を連れてきてくれたので、草原には騎士団の約20人が現れた。


 しかし、ベヒーモスは既に俺が倒してしまったわけで――ルリカさんを含め、救援に来た人たちは大いに驚いたらしい。


 それから、ベヒーモスの死体は騎士団の命令で数日かけて解体され、今では完全に撤去されたそうだ。

 ベヒーモスがあそこまで巨大な状態になるまで成長した原因は未だわかっていないが――問題が解決した今ではどうでもいいことだろう。


 ゼインの魔眼は、俺が気を失った後で、ライゼが摘出してくれたらしい。その後、王国が保管してくれている。

 援軍に来た騎士団にゼインの魔眼について聞いてみたが、詳細を知っている人はおらず、全く未知のアイテムという扱いになるらしい。


 効果の強さは身をもって実感したが、使い方を間違えれば危険なことが起こりかねない。しばらくは触れる機会はなさそうだ。


 こうして、俺は一週間眠り続け、今に至る――


「――というわけ」


「なるほど、なんていうか、一件落着って感じだな」


「そうね。ゲルダの謀略で街が壊されるかもしれない状況だったのに、犠牲になったのがゲルダだけっていうのは奇跡的ね。言いたくないけど、アンタがいなかったらこうはならなかったわ」


 そうか……今回は、皆を守ることができたのか。


 ダンが暴走した時は、たくさんの人を犠牲にしてしまった。俺はようやく、手に入れた力を上手く使えるようになってきたということだろうか。


 だけど、それもこれも皆のおかげだ。

 ベヒーモスを前にしたとき、シエラさんが声をかけてくれなかったら、俺はきっと諦めていただろう。ローラを助けられたのも、皆が手を貸してくれたからだ。


「――二人とも、本当にありがとう。助かったよ」


「はい、どういたしまして」


「ま、当然よ。私はアンタの相棒だからね」


 笑顔で返すシエラさんと、照れくさそうに腕を組んで答えるライゼ。二人のそんな反応を見て、俺は嬉しくなった。


「じゃあ、俺はもうしばらく安静にしていればいいのか?」


「安静にするのはもちろんだけど、しばらくではないわね。ひとまず、今日の夕方まで」


「夕方?」


 俺が首を傾げると、ライゼが人差し指を立て、快活に笑う。


「今日は、攻略班の慰労会よ! うちでやるから、アンタも来なさい!」

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