第149話 スライムクリエイター

 来た! スライムの能力の進化! この状況を変えるには、ここに賭けるしかない!!


――


 アルクス・セイラント 17歳 男


 レベル53


 スキル


 <スライム>


 『スライムテイマー』……レベル8のスライムを発生させることができる。最大100匹。


 『スライムクリエイター』……スライムの新たなクラスチェンジを創造し、付与する。


 <人間>


――


「スライムクリエイター……?」


 『スライムメーカー』が、新しい能力になっているぞ……? 能力の進化ということは、今までとまったく違う能力ということか?


 俺は改めてスキル欄に目を通す。

 『スライムメーカー』はスライムにクラスチェンジを付与する能力だった。それによって普通のスライムが<鑑定>を使える様になったり、チアのような人型のスライムを召喚することが出来た。


 そのクラスチェンジを創造するということは……今までに召喚できなかったスライムを生み出せるということか!?


「……やってみよう!」


 俺はベヒーモスの方を向くと、深く息を吐いていつものようにスライムを出そうとした。


「出てこい! ジャイアントスライム!!」


 俺の声が草原に響き渡る。……しかし、いつになっても何かが起こることはなかった。


 あれ!? スライムが出てこないぞ!?


 ベヒーモスを蹂躙できるような巨大なスライムを生み出すことができれば、この状況も片付くと思ったのに……なんでだ!?


 もしかして、俺よりも強いスライムは出せないってことなのか?

 思えば、武闘派のシノやトークも、俺より強くはなかった。


 今のは、自分よりも強いスライムを創造しようとしたから駄目だったのか。


 だとすれば……俺よりも強くなってはいけないという制約の下で、ベヒーモスを止められるようなスライムを作り出さないといけないというわけだ。


「アルクス! 早くしないと、街の皆を守れないわよ!」


「守る……そうか! その手があった!」


 ライゼの一言に着想を得た俺は、再び集中をし、これから作り出すスライムをイメージした。


 ……いける! これなら、ベヒーモスを止められるかもしれない!


「創造! スライムガーディアン!」


 俺が宣言をした瞬間、草原に放った一匹のスライムが白い光を放ち、形状を変えていった。

 数秒後、スライムは2メートルの大男になった。


「やった! 成功だ!」


 俺が創造したスライムガーディアンは、真っ黒なトレンチコートを身に纏っており、頭にはシルクハットを被っている。

 肩は鉄板でも仕込んでいるかのように広がっていて、ガタイのよさを感じさせられる。


 さらに特徴的なのは、シルクハットを被っている彼の顔が、スライムのままになっているということだ。スライムと大男という相容れない二つの要素を兼ね備えたガーディアンは、登場するなり空を見上げた。


「スライムガーディアン! よく来てくれたな! ディティールをこんな風に設定した覚えはないけど!」


「――あんたが次の依頼人か」


 ガーディアンは唸るようなハスキーな声で答えると、シルクハットを直した。


「俺はハードボイルドな男だ。ガーディアンとしての仕事を任されたなら、どんな依頼だってこなしてみせる。それがハードボイルドの矜持ってやつだ」


「そ、そうか! それは心強いぞ!」


 声は中年のように低くてカッコいいんだけど、顔がどう見てもスライムだから反応に困る! とにかく、頼れる奴ってことはわかった!


「ガーディアン、あのベヒーモスが街に行くのを止めて欲しい! 時間は1分……いや、30秒でいい!」


「それがあんたの依頼か」


 ガーディアンはやれやれとため息を吐くと、シルクハットを直した。


「いけそうか?」


「さっきも言っただろう。俺はどんな依頼だってこなす。それが俺の『ハードボイルド』だ」


 俺は破顔した。準備に入ろうとしたとき、ガーディアンが俺に手を伸ばす。


「俺は、鉄壁スライムを一匹消費することで、強力なバリアを張ることができる。報酬は前払いだぜ」


 なるほど、ガーディアンはそういう能力を持っているのか。ならばお安い御用だ。

 俺は鉄壁スライムを10匹ほど創造すると、ガーディアンの後ろに並ばされた。


「確かに受け取ったぜ。あとは任せな」


 ガーディアンはそう言うと、右手でシルクハットを押さえながら、颯爽とベヒーモスの方へ走っていった。


 さて……ガーディアンがどの程度の強さなのかはわからないが、きっとなんとかしてくれるはずだ。

 あとは、俺ができることをやるだけだ!


 ガーディアンが行った後、俺は周囲を見渡し、ある物を探した。


「……あった!」


 クレーターの中に光を見つけ、俺はその場に駆け付けた。そこにあったのは――ゼインの魔眼だ。

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