第145話 ピンチと再会
作戦開始から十分。草原に響き渡る金属音。一帯を支配するような緊張感。
状況は、あまりよくなかった。
「頼むローラ! もうやめてくれ!!」
俺はまた、ローラが放った斬撃を弾き返し、叫んだ。
ローラの凶暴性は収まるどころか、傷つくほどに激しさを増している。まるで獣そのものだ。
<人間>の効果で、戦い続けるほどに俺の動きはよくなっていく。既にローラの攻撃は見切っているし、その気になれば仕留めることだってできるだろう。
しかし――そうはいかない。
何と言っても相手はローラだ。下手に攻撃をすれば、彼女の命が危ない。
かと言って、野放しにすれば他の仲間に被害が及ぶ。それだけは避けなければいけない。
仲間も、ローラも傷つけない。そのために今俺ができることは――ローラの攻撃を受けながら、なるべく隙を作り出すことだけ。
だけど、それじゃ解決にはならない!
「くそっ!」
ローラが横なぎに払った剣を、逆回転の斬撃で弾く。威力はほぼ同じだが、躊躇しない分、彼女の方が次の一撃が速い。
そして、ワンテンポ遅れた状態で対応しようとすれば――
刹那、俺の肩をローラの刃がかすめる。氷を当てられたような金属の冷たさが伝わってきて、俺は痛みで顔をゆがめた。
同時に、顔の血の気が退くのを感じる。俺は今の一瞬で緋華を落としてしまったのだ。
マズい! これじゃ次の攻撃を受けられない! まずは剣を取らないと――!
「アルクスさん、下がってください!」
その時、後ろから影が前に出るのがわかった。短剣を手にしたルリカさんだ。
彼女は不意を突いて俺の体を引っ張って下げると、ローラの白い腕に短剣で傷をつけた。
「モンスター用の毒を塗布した刃です! これでしばらくは動けなくなるはず――」
一瞬の攻撃。しかし、ルリカさんはローラの蹴りを食らって一気に後方へ吹っ飛ばされてしまった。
「俺たちも行くぞ!」
ルリカさんに次いで、今度は攻略班の前衛部隊が走り出した。俺の動きが止まったのを見て、一斉に突撃したのだろう。
「うあああああ、ああああああああああああああああ!!」
ルリカさんの毒が聞いているのか、ローラは獣のような叫びを上げながら、剣を乱暴に振り回している。
彼女が剣を振り終えるたびに、前衛部隊のメンバーが一人吹っ飛ばされる。
「ローラ! 頼む、戻ってきてくれ!」
「俺たちのことを忘れたのか!?」
ローラが先ほどまでと違って苦しそうにうめいている。あれは、俺が蹴りを食らわせた時と様子が一緒だ。
ローラ自身も戦っているんだ。だけど、あのアイテムの呪縛から逃れることが出来ないでいる。
何か、俺に出来ることはないのか……!? ローラを助けられるような、打開策は――
「アル君!」
その時、後ろで声が聞こえた。聞きなれた声で俺の名を呼んだ女性は、後衛部隊に割って入り、こっちへ走ってくる。
「シエラさん!? それに、フランも!」
それは、ローラの姉妹である二人だった。二人ともかなり急いできたのか、息が切れている。
「アル君、後は任せて。私がなんとかするから」
「今行くのは駄目です! せめてローラの動きがもっと鈍くなってから……」
「ごめん。わがままかもしれないけど――私にやらせてほしいんだ」
そう言ったシエラさんの目は、これまで見た中で一番真っすぐだった。さっきまで俯いていた彼女とはまるで別人だ。
そんな彼女の気迫に飲まれたためだろうか。シエラさんになら任せられると、俺は本気で思った。たった一瞬の出来事だが、そう感じるのには充分だった。
「シエラさん、これを使ってください」
俺は〈収納〉を発動すると、三本の剣を取り出した。それは、イレーナにもらった魔剣だった。これなら、シエラさんでも扱うことができる。
「ありがとう。行ってくるね」
シエラさんは二本の剣を腰に、一本を手に持って前に歩き始めた。
一方、彼女が進む先ではローラが次々と前衛部隊を薙ぎ払っていた。毒が効いてきているのか、かなり動きが悪くなってる。
最後の一人が吹っ飛ばされた後、ローラの前に立っていたのはシエラさんだけだった。
シエラさんとローラが相対する。二人の目に宿った生気は対照的だが、互いに闘志を燃やしていることはわかった。草原一帯に、先ほどまでとは少し違った類の緊張感が走る。
「ごめんね、ローラ。これまで逃げてばかりで。……辛かったよね」
シエラさんは大きく息を吐くと、剣の柄をグッと握りしめ、切っ先をローラに向けた。
「ーーもう、逃げないから」
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