第143話 作戦開始
北の草原エリアに集合した俺たちは、改めてローラ救出のための作戦を話し合った。メンバーは俺とライゼ、ローラを除いた攻略班とエレノアだ。
「オレがダンジョンにワープして、ローラをこの場所に連れてくる。あとはアルクス、お前に任せるぜ」
<ワープ>のスキルが使える仲間が言う。
「ダンジョンの中にワープすることってできるのか?」
「一応は可能だ。ただ、ダンジョンは時間を経るごとにその形を変える。今ならまだそんなに時間が経ってないから間に合うだろう。ただ……」
その後の言葉が何かは想像に容易い。それに、時間が経てばローラの体が消耗し、モンスターに倒されてしまうかもしれない。
「アルクスさん、準備はいいですかぁ……?」
ルリカさんは、神妙な面持ちで俺に問いかけた。
レベル差からして、彼女の攻撃をまともに受けられるのは俺だけだろう。この作戦が成功するかの鍵は、俺にかかっている。
だからこそ、もし仲間に危害が及ぶようなことがあれば、ローラを殺す判断をしないといけないかもしれない。ルリカさんが聞いているのは、そういう準備だ。
俺は、いつもより深くそれに頷いた。ローラは絶対に助けるという、俺なりの覚悟の表れだ。
ルリカさんは俺の反応を見るなり、ワープ持ちのメンバーに声をかけ、ローラの回収を頼んだ。彼と、ルリカさんを含めた数名のメンバーの姿がその場から消える。
それからしばらく、俺たちは沈黙しながらその場に待機した。これからのことを考えると、とても落ち着くことが出来ない。
変化が起こったのは、彼らがダンジョンに戻ってから10分ほど経ってからだった。
「……来た!」
草原の真ん中に、突如としてゲートが出現する。俺たちは一気にそこに体を向け、身構えた。
ゲートから押し出されるようにして現れたのは、ローラだった。尻餅をつく形で草原に来ると、野生動物のように素早く体勢を立て直した。
「アルクスさん! 連れてきました!」
続いて、ゲートからルリカさんたちがやってくる。どうやら、上手いことやってくれたようだ。
俺は剣を引き抜き、ローラを見やった。実に20分ぶりの再会だが、彼女の見た目は前と変化している。
変わったのは、手に持っているもの。左手にはゲルダの足、右手には彼女が投げ捨てたはずの剣が握られている。俺たちが消えた後で見つけ出したのだろう。
「皆は俺の援護を頼む! 隙があったらローラに接触を試みてくれ!」
俺は緋華を握りしめ、いきり立つローラに肉薄する。彼女は俺の存在を目視すると、身構えた。
彼女の剣を弾き飛ばそうとした瞬間、ローラが取った行動は意外だった。左手に持ったゲルダの足を手放し、俺に向かって投げつけてきたのだ。
「――ッ! しまった!」
ゲルダの牛のような体が、俺にぶつかってきた。それによって剣の構えが崩され、一瞬動きが遅れる。
そして、その一瞬は大きな隙となる。
ローラが高く飛び上がり、剣を振り下ろしてくる。無防備な俺の顔に、彼女の影が落ちる。
「<クォーター・フィスト>!!」
その時、俺とローラの間に割り込んできたのはエレノアだった。彼女は拳で剣を受け止めると、その衝撃を受け止め、俺とゲルダを巻き込んで後方へ吹っ飛ばされた。
三人が草原を転がる。結果的に、俺はローラの攻撃を正面から受けることを免れ、かつ彼女との距離を取ることが出来たのだ。
「助かった! エレノア!」
「褒めてもらえて光栄です! でも、四分の一にしてこの威力って……アルクスさん、大丈夫ですか!?」
「俺なら大丈夫だ! エレノアは
再び立ち上がり、俺はローラに向かって行く。状況だけ見れば、ローラは武器を一つ失っている! 有利になってるのはこっちだ!
「ローラ! 目を覚ませ!」
剣と剣が交じり合う。初めてローラに会った時と同じだ。ゼインの緋眼によって強化されたローラの剣は、あの時と同じように、速く、重い。
「アルクス下がって!」
ライゼの声を聞くと、俺は素早く鍔迫り合いを止めて後退した。途端、ローラの足元に青色の魔法陣が出現する。
「<
魔法が発動すると、ローラの足元に直径二メートルほどの氷の柱が生えてくる。
それはあっという間に彼女の背丈を超えてしまったが、氷が彼女を捉えることはなかった。
ローラは即座に危険を感じ取ったのか、咄嗟に下がって氷を躱してしまったのだ。
なんて反射神経だ。いや、野生の勘とでも言うべきだろうか。とにかく、魔法は外れてしまったのだ。
「だったら――これでどうだ!」
俺は雷魔法を全身に纏い、宙に浮いているローラの方へ走り出す。彼女が着地する瞬間、足をダンと踏みしめ、雷を彼女に向かって放った。
これを避けることはできない。ダメージを最小限にするには、俺から距離を取る必要があるから、そこから一気に畳みかける!
雷魔法がローラに到達する瞬間、彼女は意外な行動をとった。後退するかと思いきや、むしろ迫ってきたのだ。
その選択をすれば、ダメージを受けるのはローラだ。しかし、彼女は自分が傷つくことよりも、俺に攻撃することを優先したのだ。
とても人間が考えることじゃない。その異常な戦法に、俺は驚かずにはいられなかった。
ローラは雷を浴びながら、剣を強く握りしめる。白いオーラが剣を纏い、一気に膨れ上がっていく。
「皆! 伏せろ!」
あの構えは、<
俺は<
俺とローラの剣が交わる。その刹那、激しい突風が草原に吹き荒れた。
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