第142話 魔眼を取り出せ

 ワープした先は、ダンジョンの入口。ゲートをくぐって外に出ると、そこには攻略班のメンバーが全員集まっていた。


「アルクスさん、ご無事でよかったですぅ。攻略班は全員、無事に脱出できました……」


 ルリカさんが既に点呼を取っておいてくれたらしい。俺はひとまず、入口付近にある岩に座って一息つくことにした。


「……で、これからどうするのよ? アンタ、ローラのことを助けるって言ったって、何もわからないわよ?」


「いや、手掛かりは掴んだ。ローラが暴走してるのは、やっぱりあの宝石が原因だ」


 ローラが自我を失ってしまったのは、ゼインの魔眼というアイテムのせいだ。

 アイテムの効果は、『身体能力と魔力を増幅させる』と書いてあった。おそらく、その増幅量に彼女のキャパシティが耐えられず、暴走を引き起こしたのだろう。


「つまり、俺たちの作戦は、あの宝石をローラから取り出すことだ」


「だから、その方法がわからないから困ってるんでしょうが! 取り出すって言ったって、具体的にどうするのよ?」


「それについて、少しだけ引っかかることがあるんだ」


 俺は、全員にさっき起こったことを話した。


 ローラは、俺の呼びかけに応じなかった。それは彼女が自我を失っているためだ。

 しかし、一度だけローラが自我を取り戻したことがあった。こっちが攻撃をした時だ。


 彼女は確かに俺の名前を呼んだ。そして、ほんの一瞬だが動きを止めたんだ。


 きっと、何か理由があるはずだ。そこには、ゼインの魔眼を取り外すための方法が隠されているような気がする。


「なるほど……動きを止めたとしたら、何が原因なんでしょうねぇ」


「たまたまなんじゃないの? アンタが何回も呼ぶから、そのうちの一回に引っかかったってだけで」


 ライゼはそう言うが、俺はそれだけじゃないような気がする。何か、因果があると思うんだ。


「まあ、可能性を挙げるとするなら……『身体接触』ね」


「どういう意味だ?」


「一回目。アンタがローラの名前を呼んだときは、アンタはローラの体に触ってなかったのよ。ただし、二回目は蹴りを入れていた。そうでしょ?」


 確かに、それなら辻褄が合う。だが、それだと一つ見落としていることがあるのだ。


「だったらゲルダはどうなんだ? ローラはゲルダの足を掴んで武器にしてたけど、特に変化はなかったぞ?」


「……いつもの私なら即刻否定するような考えなんだけどね。もしかしたら、ローラの思い入れに関係しているんじゃないかしら?」


 ライゼの言葉に思わずハッとする。

 最後にローラがゲルダと会話をしていた時、彼女はゲルダのやり方は嫌いだと言っていた。すなわち、ゲルダはローラの信頼を得ていなかったんだ。


「だとすれば、ローラからゼインの緋眼を取り出す方法は、ローラに信頼されている人間が、彼女に触れることってことか……?」


「あくまで憶測だけどね。だけど、これに賭けてみる以外はないわ」


 そうと決まれば、これからどうするかだ。


 幸い、ローラと関係が深い人は多い。攻略班は全員、彼女に信頼されていると言っても過言ではないだろう。


「よし、ダンジョンからローラをワープでここに引っ張り上げてこよう。それで、皆でローラと戦うんだ!」


「だったら、北の草原エリアに移動しましょう。ここでローラさんが暴れたら、ダンジョンごと崩れちゃいますぅ!」


 ルリカさんの言う通りだ。場所は北の草原エリアが最適だろう。

 ローラがあのまま暴走を続けた場合、おそらく階段を昇って49層のモンスターと戦い始めてしまうだろう。そうなれば、彼女の命が危ない。


 時間がないこの状況では、ルリカさんの提案が一番現実的だ。北の草原エリアで、ローラを迎え撃つ!


「皆は先に草原エリアに移動していてくれ! 俺は先にやることがある!」


「ちょっと! 何をするつもりなの!?」


「オルティアに行くんだ。ローラに関係がある人を連れてくる!」


 俺はささっと説明だけすると、ワープスライムを召喚してオルティアに飛んだ。



 冒険者ギルドの中に入る。周りを見渡すと、目的の人物は見つかった。


「エレノア!」


「あれ、アルクスさんじゃないですか! 攻略は終わったんですか!?」


 クエストの掲示板を見ていた茶髪の少女・エレノアに声をかけると、俺はすぐに事情を説明した。


「……ということなんだ」


「わかりました。アルクスさんのお願いだったらどんなことでもします! 北の草原エリアですね!」


 話を聞いたエレノアは、返事をするのが早いか、ダッシュでギルドの外に出て行ってしまった。どうせだったらワープさせたんだけど。


「……さてと」


 ローラの親友であるエレノアに話を付けた。あとは……


「……シエラさん」


 ギルドの受付に行き、俺は真剣なまなざしで見つめた。

 シエラさんは、これから俺が言うことを悟ったのか、覚悟したような目で俺に目線を合わせた。


「ローラがピンチなんです。あいつを助けられるのは、シエラさんだと思います。お願いです、あいつのところに行ってくれませんか」


 問いかけると、シエラさんは前と同じように目を伏せ、黙り込んでしまった。


「……できないよ。アル君がやってあげて」


「でも、ローラを救うためには、彼女が信頼している人が必要なんです。それはきっと、シエラさんだと思います」


「そんなわけない。私がローラに顔を合わせる資格なんてないよ。だから……アル君にお願いしたいの」


 今は何を言っても通じないらしい。俺はシエラさんの言葉を聞き終えると、彼女に背を向けてギルドの入口へ歩き出した。


「……場所は北の草原エリアです。俺は信じてますから」


 それだけ言い残し、俺はギルドの外へ出た。シエラさんが来てくれることを信じて。

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