第137話 ルリカが見たローラ
中に入ってからは、前回と大きく変わらない。
俺がダンジョン内にスライムを解き放ち、階段を見つけ次第、メンバーに報告をする。
25層くらいになるまでは、ほとんどやることはない。さすがにこの戦法は初めてだったらしく、メンバーたちは驚きを隠せない様子だった。
前回1時間半くらいかかった25層までの攻略は、1時間に満たないほどの時間で終わってしまった。その要因は、俺のレベルがあがったこともあるが、大きいのは攻略班のメンバーが階段探しを手伝ってくれたからだ。
最初の難所であるミノタウロスは、遠距離攻撃を得意とするメンバーの集中砲火であっさり倒すことができた。
そのあっけなさに肩透かしを食らっている反面、俺は彼らの頼もしさを実感していた。これなら50層攻略だっていけるはずだ。
26層で休憩となり、キノコにもたれかかって休んでいると、隣にルリカさんがやってきた。
「アルクスさん、お疲れ様ですぅ。私と違って既に大活躍ですね……」
「そんなこと言わないでください!? ここまではスライムを放ってるだけでなんとかなるレベルですから!」
ルリカさんは基本的に声が小さく、謙遜して喋る。だが、彼女が弱いと微塵も感じさせないのは、おそらく彼女が確かな実力者であるためだろう。
そういえば……ルリカさんは攻略班に入ってから長いのだろうか。見たところ年上っぽいけど、そういった話は全くしていない。
「ルリカさんって、いつ頃攻略班に入ったんですか?」
「20歳の時に東の国から来て攻略班に入ったので、2年くらい前のことですねぇ。こう見えて、ローラさんと同期なんですよ?」
『今はだいぶ差が付いちゃいましたけどね……』とルリカさんが付け加える。だが、それはローラが規格外すぎるというだけなような気もするが。
とはいえ、俺が気になったのはそこではない。ルリカさんがローラと同期なら、彼女について何か知っているのではないかと思ったのだ。
「ルリカさんから見て、ローラってどんな奴ですか? ……その、過去に何があったとか」
「過去のことはわかりませんけど、攻略班に入った後の話ならできますよぉ。一番印象に残ったのは……あの時ですかねぇ」
ルリカさんは青白い光の粒を手を伸ばすと、それを大切そうにぎゅっと握りしめた。彼女の目が少し悲し気になったような気がする。
「私たちが攻略班に入ってすぐのことです。ダンジョン攻略で仲間が亡くなったことがあったんです。なんてことはない、37層の道中のことでした。その仲間は、モンスターに半身を引き裂かれてしまいました」
聞いているだけでも痛ましい話だ。ルリカさんはまだ続ける。
「さらに問題だったのは、その仲間にまだ息があったことでした。当時のリーダーは、仲間を見捨てて先に進むことを優先しました。アルクスさんならこの状況でどうしますか?」
俺が出した答えは、見捨てること。それ一択だった。
まず、冒険者ならパーティのリーダーの命令には従うべきだ。指示系統が崩れると、行動がバラバラになってしまう。
おまけに、そこはダンジョンの中。仲間を一人抱えて帰ろうとすれば、最低でも二人分の穴が出来てしまう。そこをモンスターに突かれたら終わりだ。
「普通ならそうしますよね。でも、ローラさんはたった一人でその仲間を抱えて地上に走り出したんです。そして、無事に生還した」
「ふ、普通の人間がやることじゃない……」
「私もそう思います。そんなの自殺行為ですから。現に、その仲間は助かりませんでした。でも、彼女はやり切って、私にそれができなかった」
ハッとなった。そういえば、前にローラがこの場所で、仲間の話をしていた気がする。その中には、その仲間も含まれているのだ。
「ローラさんは、今を生きている人です。今何をするべきなのかを常に考え、誰より早く行動します。それは、彼女が合理的な人間だからじゃありません。ローラさんは、きっと人のことが好きなんでしょうね。誰かのために、最善を尽くしているんです」
ルリカさんが優しい表情で言うのを見て、確信した。ローラは過去を乗り越えている。
きっと、シエラさんとも分かり合えることができるはずだ。そうしたら、三人がまた笑い合える日が来るだろう。
「……ルリカさん、喋り方変わってません?」
「えっ!? そうですかぁ……?」
「今戻りました。ローラの話をしてる時はもう少し自信ありそうで落ち着いた喋り方でしたよ?」
「あはは……癖になってるだけなので気にしないでくださいぃ……」
そこで、休憩は終わった。俺たちは再びダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
30層のアリアドネは、ローラの一撃であっさりと片付いた。おそらく、戦闘には1分もかかっていなかったと思う。
35層のマシラは、後衛が魔法で動きが鈍らせているところを、前衛が叩くという連携で勝利。
40層のベヒーモスは、事前の打ち合わせ通りに出合い頭に魔法を集中砲火。
正直、あまりにもあっさりしていると感じた。ベヒーモスのサイズが小さくなっていたからというのもあるが、何よりメンバーの数も質も前回とは桁違いだ。
そのまま特に問題が起こることもなく、俺たちは45層へ続く階段を発見した。
「この下には、私たちが初めて見るフロアボスがいることが予想される。貴様ら、気を引き締めろ」
ローラを始めとして、俺たちの空気が全体的に重くなった。緊張感が高まっている。
鬼が出るか蛇が出るか――息を呑み、俺たちは階段を降りた。
その先で待ち構えていたのは――一匹の巨大な鳥であった。
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