第133話 聞きたかったこと
「――で、これからどうする?」
ギルドの外に出た俺たち三人は、ベンチに座って話し合いを始めた。
しかし、ローラは魂が抜けてしまったような様子で、ボーっと空を見上げていた。
「……ローラ?」
「――すまない、少し気を抜いていた。ゲルダの様子を見て、少しショックでな」
ローラはすごく仲間思いだ。きっと、ゲルダのあの人間性をこれまで何度も見ているはずなのに、彼女はきっと、ゲルダが改心することを期待していたんだろう。
それが裏切られたんだから、悲しいに違いない。俺はローラに少し同情するような気持ちになった。
「確かにショックかもしれないけど、ゲルダがああいう奴だって決まっちゃった以上は、私たちもやることをやるべきよ」
ライゼがその場を取り仕切り、人差し指を立てた。
「やるべきことは一つ。王都に行って、取ってきた証拠品を突きつける。ゲルダを攻略班のリーダーから外して、代わりにローラを班長にするの」
「私もそれに異論はない。だが、リーダーは私でなければいけないのか?」
「いきなりリーダーを変えるってことは、攻略の当日に統率が取れないリスクがあるってこと。だから、今回の攻略だけでも、リーダーは実力のあるローラがなるのがいいわ。それとも、他にあてがあるの?」
「いや、それで構わない」
じゃあ決まりね、とライゼが言い、今度は俺を指さした。
「さ、モントロリアに行きましょ。ワープスライム、出して」
この前モントロリアに行ったときに、移動先として登録しておいた。だから、今から一瞬で移動することはできる。――だけど。
「悪い、俺は行かない。ちょっとやりたいことがあるんだ」
「はぁッ!?」
ライゼが俺の頬をつねってきた。痛い。イルザの時と違って、こいつは本気で攻撃してくる。
「アンタ最近、単独行動多すぎなんじゃないの!? その辺どうなのよ!」
「す、すみません……」
「まったく……どうしても必要なことなのね!?」
俺は頷いた。それを見て、ライゼは深くため息を吐いた。
「……仕方ないわね。私とローラの二人で行ってくるわ。ただし、わかってるわね?」
「今度クレープおごり、だな」
「そういうこと。クリームがいっぱい乗ってるやつね」
ライゼはローラの肩を叩くと、二人で行きましょうと彼女に言った。
なんだかんだ言って、ライゼは俺のことをわかってくれている。これは俺たちの付き合いの長さと、彼女の相手を思いやる気持ちが成す技だろう。
ワープスライムを召喚し、ライゼとローラを王都へと送り出す。俺は二人に手を振った後、くるりと振り返ってギルドの方を見た。
*
「えっ、私に話?」
俺は再びギルドに入ると、わめき散らしているゲルダをよそに、カウンターに座っているシエラさんに声をかけた。
「だ、大事な話?」
「はい。シエラさんと俺に関する、とても大事な話です」
「ちょ、ちょっと待って! 心の準備が……」
シエラさんは椅子から立ち上がると、俺に背を向けて深呼吸を始めた。
「……はい、準備できました。でも、今は仕事中だから、休憩の時でもいい?」
俺はその提案に承諾し、一時間後にシエラさんの元を訪れた。
「……で、話って?」
休憩に入ったシエラさんは、ギルドの裏に俺を呼び出した。顔が紅潮し、緊張しているのがわかる。
なぜだろう。彼女と俺の緊張は、なんだか別物のような気がしてならない。
しかし、俺は構わず本題を切り出すことにした。
「聞かせてください。シエラさんと、ローラのことを」
「ローラの、こと……?」
シエラさんの顔の紅潮が引いていく。同時に、シエラさんが妙に納得した様子になった。
「この前も言ったでしょ? ローラと私は姉妹。それ以上でも以下でもないよ」
「本当にそうですか? だとしたら、シエラさんはどうしてローラを不必要に避けるんですか?」
シエラさんの態度は明らかにおかしい。二人の間に何かがあったのは見ていればわかる。
気になるのは、一体何があったのかということ。
「本当に何でもないよ。それとも、ローラに何か言われたの?」
「ローラは言ったんです。『自分がシエラさんに関わると、幸せを奪ってしまう』と」
シエラさんの表情が曇る。視線を逸らし、口ごもってしまった。
「シエラさん。教えてください。ローラと過去に何があったのか。どうして、ローラがシエラさんと関らないようになってしまったのか」
ダンジョン攻略中、ずっと気になっていたことがようやく聞けた。
ローラは、仲間思いで、強くて、俺は彼女のことを仲間だと思っている。それはシエラさんも同様だ。
だからこそ、どうして二人が距離を置いているのかが知りたい。二人がいい人だからこそ、何か原因があるのという確信が強くなる。
「……もう、話さないといけないよね」
シエラさんはそう言うと、大きくため息を吐いた。壁にもたれかかり、悲しげな瞳で俺を見つめる。
「……わかった、話すよ。ローラと私の……ハンステン家の過去を」
シエラさんは、そのまま話し始めた。
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