第131話 二の打ち

「<鑑定>!」


 鑑定スライムを召喚し、素早く緋華の状態を確認する。


――


緋華 レベル3


・<炎属性付与>


・<魔力伝導>……所有者の魔法を剣に通すことができる。


・<二の打ち>……一度目に放った斬撃を、威力を倍にしてもう一度放つことができる。


――


 予想は正しかった。緋華のレベルが上がっている。

 この<二の打ち>という能力が新しく加わっているが、これは一体なんだんだ……?


 俺は改めてスキルの内容を読んでみて、ようやく意味を理解した。


 <二の打ち>は、その名の通り『二撃目』のスキルだ。一撃目の攻撃の威力を倍にし、二撃目を加えると言う能力。


「お前も……応えてくれたんだな」


 地面に転がっていた緋華を拾い上げると、手のひらを通じて剣が返事をしてくれているような気がした。


「ローラ! 俺と同時に、奴に斬りかかってくれないか!」


 ローラもさっきの攻撃を喰らって、反対側の壁際に立っていた。彼女は俺の呼びかけに気づくと、不思議そうな顔をした。


「正気か!? そんなことをしても意味なんてないだろうが!」


「今新しい力を手に入れたんだ! これさえあれば……<紫電一閃しでんいっせんほむら>を倍の威力で打ち込むことができる!」


「……ということは、<青天飛翔>と同じくらいの威力か……試してみる価値はある」


 俺とローラは視線でタイミングを合わせると、同時に走り出した。


 まずは、俺が奴の注意を奪う! わかりやすく蛇行し、一気に迫っていく!


 派手な動きに反応し、ベヒーモスの視線がこちらに向けられる。食いついてきた!


「ゴオオオオオオオオオオ!!」


 咆哮を全身で浴びる。鼓膜が破れてしまいそうな勢いと、肌を刺すような殺気。だが、立ち止まることはない!


 ベヒーモスが前足を上げ、俺を叩き潰そうとしている。いいだろう、真っ向勝負だ!


「<紫電一閃しでんいっせんほむら>!」


 木の幹のような前足と、緋華の刃が交じり合う。金属音が鳴り響き、火の粉が散った。

 圧倒的な重量感。確かな手ごたえが伝わってくる。俺は歯を食いしばった。


 重圧に今にも押しつぶされてしまいそうなほどだ。腕が小刻みに震えている。


 ――だが、今の俺は一人じゃない!!


「今だ!」


 俺は声を張り上げた。刹那、ベヒーモスの背後に影が現れる。


「でかした!」


 跳躍してベヒーモスの背中に回り込んだのは、ローラだ。剣は白い光を放っており、フロア全体の風の流れを変えるほどのエネルギーを纏っている。


「<青天飛翔>!!」


 ローラが放った斬撃が、ベヒーモスの背中を襲う。恐るべき衝撃だ。ぶつかった瞬間、とてつもない爆風が吹き荒れた。

 彼女の一撃を喰らい、さすがにひとたまりもなかったのか、ベヒーモスがひときわ大きい声で叫ぶ。俺はそれを見て、再び緊張感を高めた。


「ぶっつけ本番だけど……頼む、上手くいってくれよ!」


 柄を握り込み、刃を返す。俺は目の前の巨体にタックルをするようにして飛び上がった。

 一撃目を弾かれた反動を利用し、さらにそれ以上の威力の二撃目を叩きこむ!


 俺の言葉に呼応するように、緋華の炎は勢いを増していく。そこに、俺の雷の魔力を練り込めば――!


「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 ローラの一撃を喰らって悶えているのか、はたまた俺を威嚇するためなのか。ベヒーモスは血走った目で俺を睨み、大声で叫んだ――!

 突風のような逆風に反し、俺は最大限の力を込め、立ち向かう。


「<二の打ち>!!」


 剣を振るった瞬間、まるで剣が勝手に動き出したかのような感覚を覚えた。それほどまでに<二の打ち>の効果は絶大だった。

 これまで以上の速度で放たれた斬撃は、二つの属性を伴ってベヒーモスの巨躯を切り裂く。


「ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 その時、驚くべきことが起こった。ベヒーモスの体が宙に浮いたのだ。

 テーブルがひっくり返るようにして宙に打ち上げられたベヒーモスは、そのまま斬撃の勢いに押され、壁がある方に吹っ飛ばされていく。


「後は任せろ!」


 いつの間にかローラが、奴の背後から俺の隣に移動していた。再び剣を高く掲げたローラは、今度は思い切り、奴の腹に向かってそれを振り下ろす。


「<鎧袖一触がいしゅういっしょく>!!」


 それは、何か技の名前――というよりは、力任せに剣を振り下ろしただけのように見える。斬撃が直撃した瞬間、ベヒーモスの腹から血が噴き出した。

 そして、奴の巨体が壁に打ち付けられる。フロア全体が激しく揺れ、俺たちは思わず身構えた。


 背中から壁に激突したベヒーモスは、重力で地面に叩きつけられ、またしても地面を大きく揺らした。

 時間にして数分くらいだっただろうか。とてつもなく長いような気がしたベヒーモスとの戦いは――


 奴の絶命を以って、俺たちの勝利で終わったのだった。

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