第104話 ネーミング×ショッキング
ヴァサゴ盗賊団を全員撃退した後、俺はワープスライムを使って彼らをオルティアの衛兵たちに引き渡した。
団長の小物感からは想像できなかったが、あれはあれで有名な荒くれ者集団だったらしい。
「アルクス様、こいつで最後みたいっス! しっかしまあ、スライム一匹相手にやられてだいぶ伸びてますねこいつら。何回かビンタして試してみましたけど、全然起きる様子がなかったっスよ。あ、ビンタと言えば――」
「うんわかった。ビンタの話はまた今度で」
相変わらずアーチャーは狙撃の時以外はよく喋るようで……顔を合わせるたびに電撃のようなトークを披露していた。
「じゃあ、こいつをオルティアに運んだら終わりだから、アーチャーはもう下がっていいよ。ありがとうアーチャー……」
そこで、ふと言葉に詰まった。
思えば、俺は彼に名前を付けていなかった。ここまでアーチャーと呼び続けてきたが、他のスライムたちに名前がついているのに彼だけ役職呼びはおかしい。
「アーチャー、君に名前を付けようと思うんだけど、いいかな?」
「名前っスか! とうとうって感じっスね! チアとシノだけ名前があって自分だけそのままだったから、何か理由があるのかと思ってたっス!」
理由はない。単純にタイミングを失っていただけだ。バツが悪いので今決めてしまおう。
そうだな、彼の特性を考えたときに、しっくりくるようなネーミングは……。
「……『トーク』なんてどうかな?」
「なるほどいいっスね! 自分がお喋りなのと、遠距離戦を得意とするところがかかってる感じがしますね! 自分が理解できるのがその二つの意味ってだけで、アルクス様のことだからきっと他にも意味があるっスよね! 10個くらい!」
一瞬でネーミングを解説されてしまった。
彼の言う通り、二つの特性をかけたネーミングにしたのだが……考えたダジャレの解説をされたような気分で、俺の中の恥ずかしさがピークに達している。
ちなみに、そこまで深い意味もないので、勝手に勘違いされて心苦しいという気持ちもある。
「じゃ、自分は今日からトークなんで! 遠くから心躍るようなトークを披露するっスよ! ハッハッハ!」
上機嫌に高笑いをしながら、トークは消えて行った。
恥ずかしい。もしかしてあのダジャレを毎回言うんじゃないだろうな。彼のことだから本当にやりそうだ。
心がむず痒くなるような気持ちを抱えながら、俺はさっさと盗賊の男を衛兵に引き渡してしまった。
*
「あ、アル君おかえりなさい!」
盗賊団を全員移動させて馬車に帰ると、シエラさんがこちらに手を振った。
「お待たせしました。これで一件落着です」
「お疲れ様。で、アル君何か言うことはない?」
「……すみませんでした」
俺はシエラさんに頭を下げた。護衛中なのに彼女を危険な目に合わせてしまったからだ。
イレギュラーな事態が発生したとはいえ、俺の目的はシエラさんを守ることだ。気を抜いていて彼女を人質に取られてしまったのは紛れもなく俺の落ち度だ。
「今回はたまたま私だったからよかったけど、他の依頼者だったら大変なことになってたよ? 気をつけなくちゃ」
「はい、仰る通りだと思います」
「反省してるなら次は気を付けるんだよ。じゃあ、そろそろ行こうか」
「え……? もう終わりですか?」
再び馬車に乗り込んでしまうシエラさん。俺はてっきりもっと怒られるものだと思っていたから、咄嗟に聞き返してしまった。
「うん。私が怪我をしたわけじゃないし、盗賊団が来たのに気づかなかった私の問題もあるからね。その代わり、ちゃんと次からは気を付けるんだよ?」
シエラさんは前からメリハリがある人だとは思っていたけど、ここまでとは。
正直、何を言われても受け止めようと思っていた。それだけに、こうもあっさりと片付けられてしまうと悪い気がしてしまう。
俺は改めてシエラさんの性格に驚きながらも、馬車に乗り込んだ。
「……! そうだ、シエラさん! さっきヴァサゴを投げ飛ばしてましたよね?」
シエラさんが傷つかずに済んだ理由は、彼女がヴァサゴを倒してしまったことにある。
体の重心をずらすことで、自分よりも体格が大きい相手を簡単に背負い投げしてしまった。咄嗟の場面で素人ができる芸当ではない。
シエラさんは困ったように視線を上に逸らすと、はにかみながら頬を指で掻いた。
「あー、あれはね。なんていうか、昔武道を習ってたっていうか……?」
「そうなんですか!? ってことは、道場に通ってたってことですか?」
「うーん、まあそんな感じかな。昔やったことって意外な場面で役に立つものじゃない? たまたまだよ」
今日はシエラさんの意外な一面を何度も見ている気がする。王都出身なのも、武道を習っていたのも初耳だ。
比較的長い付き合いをしてきた間柄だと思っていたけど、きっとまだまだ知らないことがたくさんあるんだろうなあ。
「見て! 見えてきたよ!」
数時間が経過して日が暮れかかった頃、シエラさんが進行方向の先を指さした。
見ると、地平線から少しずつ、赤褐色の城壁が姿を現し始めているのがわかった。それは近づくにつれて少しずつ高さを増していき、数分もすると圧倒的な大きさに変化した。
王都だ。オルティアとは比べ物にならない規模の大きさに、遠くからでも威圧感を覚える。
それから俺たちが関門を超えたのは20分後、すっかり日が沈んだ頃だった。
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