第103話 VS.ヴァサゴ盗賊団!
「いいぜ、ずいぶん舐められたもんだが、そこまで言うなら相手してやる。タイマンだ!」
ヴァサゴはファイティングポーズを取ってこちらへ近づいてくる。表情からは余裕さがにじみ出ており、頭の中は俺をボコボコにしているイメージでいっぱいだろう。
「おい、かかって来いよ! なんならハンデをくれてやってもいいんだぜ?」
俺はゆっくりと足を踏み出し、ヘラヘラと笑うヴァサゴの顔面を見据えると――
――横面にパンチをお見舞いした。
「ブハァッッ!?」
ヴァサゴの体が宙に浮かぶ。ゴロゴロと地面を転がり、たった一撃で五メートルほど吹っ飛ばされてしまった。
冷やかしのように騒いでいた他の盗賊団の男たちの顔が固まり、その場が凍り付いた。
「な、なんで……こんなの、おかしい……」
ヴァサゴが地面に尻餅をついたまま、じりじりと手を使って後ずさりを始めた。
口の中を切ったのか、口から顎にかけて血が垂れており、心なしか顔が腫れている気がする。
「お、お、お、お、お前! 何をした! そんなヒョロヒョロした体で俺様を吹っ飛ばせるわけがない! 何かトリックがあるに違いない!!」
「トリックでそんな派手にやられるほど、お前は脆いんだな」
「ヒッッ! お前ら、やれ!!」
ヴァサゴの号令と同時に、盗賊団の男たちが一斉に俺たちを取り囲み始めた。
大将をやられて多少は警戒しているのか、鋭い眼光で俺を威嚇するように睨んでいる。
「さっきタイマンって言ってなかったか?」
「ごちゃごちゃうるせえんだよ! 団長をやったからにはもう逃がさねえぞ! 覚悟しやがれ!」
「そっか。じゃあこっちは
そう言って、俺はスライムを一体繰り出した。
盗賊団の男たちが顔を見合わせる。突然のスライムの登場に面食らっているようだ。
「ハッ! 馬鹿にしてんじゃねえぞ! そんな雑魚モンスターに負けるわけ――」
「ボーっとしてると舌噛むぞ?」
次の瞬間、一人の男の顎にスライムがタックルを食らわせた。わずか一瞬のうちに、男は吹っ飛ばされ、陣形は崩れてしまった。
「う、うわあああああああああ!? なんだこのスライムは――がッ!」
また一人、スライムのタックルで男がノックアウト。数秒の間に仲間が二人沈められてしまったことで、男たちはパニックに陥った。
「き、聞いてねえ! スライムなんかにやられるなんて――あががっ!!」
ナイフを必死に振り回す男たち。しかし、スライムはまるで蚊のように素早く立ち回り、男たちを一撃で沈めていく。
一分も経たないうちに、十人の子分たちは全員うめき声をあげて地面に伏せてしまった。
「さて、ヴァサゴ、次はお前の番だ――」
「動くな!!」
その時、俺はハッとした。ヴァサゴの声がしたのは、さっきまで彼がいた場所ではなく、馬車がある方だったからだ。
「動くんじゃねえぞ! 一歩でも動いたらこの女は殺すぞ!」
全身の血の気が引くのを感じる。血気迫る表情でヴァサゴがナイフで脅しているのはシエラさんだった。
彼女の肩に手を回して、首元にナイフを突きつけている。
「お前……どんだけ小物なんだ!」
「うるせえ! 俺様は最後に必ず勝つ! そのためには手段を選ばねえんだよ!」
ヴァサゴが腕の力を強める。刃の先端はシエラさんの真っ白な肌に今にも触れてしまいそうだ。
抵抗の姿勢を見せれば、シエラさんが危険な目に合うかもしれない。
俺は両腕を上げ、抵抗の意志はないことを示した。
しかし、対策はできている。盗賊団の姿が見えた時点で、スライムアーチャーを馬車の後ろの席に待機させている。いざとなったら狙撃してもらえばいいだけだ。
奴がアーチャーの存在に気付いている様子はない。となれば、俺がやるべきことは一つ。ヴァサゴの注意を引き付けること。
「ヒャハハハハハ!! おいおいダセエなあ! 土下座しろヒョロヒョロ野郎! 二度と立てなくなるまでボコボコにしてやるよ!」
ヴァサゴは水を得た魚のようにゲラゲラと高笑いをし、愉快そうにナイフの先端を俺に向けてきた。そこに土下座しろという意味だろう。
仕掛けるならここだ。土下座をする姿勢を見せているタイミングで、アーチャーに狙撃させ、シエラさんを助ける。
俺はゆっくりと地面に膝を突き、土下座のモーションに入る。ヴァサゴが期待に満ちた目でこちらを見つめている。
よし、今だ――
「それっ!」
その時、予想外なことが起こった。声が上がったのは馬車からではない。俺の目の前だ。
ヴァサゴが地面に仰向けに倒れている。スライムアーチャーも、何が起こったのだという表情で馬車から現場を見つめている。
俺が合図を出そうとしたとき――体をねじ込むようにしてヴァサゴの脇の下に潜り込み、重心をずらして彼を投げ飛ばしたのは、意外にもシエラさんだった。
「な――な、なんで、お前、が――」
地面に仰向けに倒れたヴァサゴは、最後にゴニョゴニョと恨み言を呟いた後、気を失ってしまった。
「――ふう、どんなもんですか!」
俺たちが沈黙している中、草原にはシエラさんが手を叩く音だけが響き渡った。
シエラさんは一連の騒動を片付けると、腰に手を当てて息を吐いた。
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