第101話 仕事が終わって

「「つ、疲れた…………」」


 ギルドの扉を開け、俺とライゼはそのまま倒れるように席に着いた。

 疲弊の原因は今日二人で受注した『フォーチュンスネイク討伐』にあった。20層にいる白い蛇モンスターを倒すという比較的簡単なクエストだが、問題なのはその後。

 俺たちはどうせならとさらにダンジョンの奥へと進んでしまったのだ。結局、命が保証される限界ギリギリの35層まで下りてしまった、というわけだ。


「ああー、疲れた……アルクス、討伐報告行ってきて」


「しょうがないな……その代わりジュース頼んでおいてくれ」


「ん。私はオレンジジュースにするけど、アンタは?」


「同じでいいよ」


 俺は疲れた体を引きずり、カウンターまで歩く。とにかく足が鉛のように重い。よろよろとした足取りで、俺は討伐報告カウンターに座った。

 そこで待っていたのは――そう。


「アル君、お疲れ様。討伐の達成報告でいい?」


 紺色ロングのギルド職員、シエラさんだ。今日もしわ一つない綺麗なギルドの制服に身を包み、花のような笑顔で俺を迎えてくれる。


「はい。お願いします。今、フォーチュンスネイクの鱗を出しますね」


 収納スライムの能力で、俺は提出用に分けておいた巾着袋を取り出す。この操作もお手の物だ。


「それにしても、アル君がもうD級冒険者かあ。なんか感慨深いかも」


 書類をそろえてトントンと机にぶつけながら、シエラさんが言う。彼女の言う通り、俺とライゼはコツコツとクエストをこなし、ランクを上げていた。

 ランクを上げるにはクエストの難易度はもちろんのこと、数もこなす必要があるので、まだスタートダッシュではあるが、それでもFランだったころと比べればかなり成長したほうだろう。


「シエラさんのおかげですよ。シエラさんがいなかったら俺は今頃……」


 ダンにいびられていた時も、追放されたときも、俺を支えてくれたのはシエラさんだ。お世辞でもなんでもなく、俺はどれだけシエラさんに助けられてかわからない。


「……はい。確認しました。達成報告終わりです。お疲れ様でした」


「ありがとうございます。換金が終わるまで少し休んでますね」


 いつものように席を立ったその時。


「あの……アル君!」


「あれ、まだ何かやり残してましたか?」


「そうじゃないんだけどね。実は……今度、私からの依頼を受けてもらえないかな、と思って」


「シエラさんから……依頼?」


 冒険者は、ギルドに張られているクエストを受注する以外に、依頼人からギルドを通して仕事を貰うことが出来る。

 以前、ダンツェルさんから直接依頼を受けたことがあるが、それは後者の形だ。

 だが、シエラさんからこうして依頼をされるのは初めてのことだった。


「珍しいですね。相手は俺でいいんですか?」


「うん。実は依頼をしたい用事が出来たんだけど、どうせだったらアル君に受けてもらいたいなって」


「もちろん、シエラさんからのお願いだったらなんでも受けますよ。内容は何ですか?」


「依頼は『王都までの護衛』だよ。王都に行くまでの道中、モンスターから守ってもらいたいの」


 王都とは、その名の通り王族が暮らす城がある都市。オルティアからしばらく離れた場所にそれはある。

 道中に森などはなく、比較的安全な道だと言える。時々ではあるが馬車も通っているので、それに乗れば1日くらいで行くことが可能だろう。

 とはいえ、訓練していない人間が一人で歩けるような場所でもない。シエラさんはその護衛に俺を選んだのだ。


「どうかな? やっぱり忙しい?」


「いや、そんなことはないですけど……俺でいいんですか?」


「もちろん。それに、せっかく王都まで行くなら、知らない人よりアル君と一緒がいいなって」


 そういうことなら、と俺は頷く。シエラさんに信頼してもらえているなんて、これほど光栄な話なんてあるもんか。


「それより、ライゼちゃんとダンジョンに行く予定とかはないの?」


「ああ、ちょうど今日、嫌というほどダンジョン攻略してきたところで、あいつのことだからしばらく行きたくないって言うと思いますよ」


「本当? じゃあ、三日後に出発でどうかな?」


 もちろん問題はない。俺は快諾し、シエラさんの依頼を受けることにした。

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