第96話 スライジング・バースト
「なんですかアナタは!? 気を失っていたはずですよね!?」
少年の腰にまとわりつくバリー。突然の出来事に、俺は面食らった。
だが、同時にその意味は理解できていた。この一瞬の隙をなんとかしろ、という意味だ。
バリーが決して作り出したこの隙を、俺たちは勝利につなげなければいけない!
「アルクス様! ここは私たちに!」
そう言って、シノが少年に攻撃を仕掛ける。振り返ると、アーチャーも黙って首肯した。
チアの能力もそう長くは持続しない。つまり、勝負を決めるなら今このタイミングしかない。
「二人とも、任せた!」
俺は一度後ろに下がり、右腕を胸の前で真っすぐに伸ばした。
「何をしているのです! ゴーレム、その男を叩き潰しなさい!!」
「させるか!! うおおおおおお」
少年が体をよじり、バリーの体に拳を叩きつける。しかし、彼は絶対に離れない。
かすり傷でもかなり痛かったのに、あの攻撃をモロに食らえば、激痛なんて表現では生ぬるいだろう。
それでもバリーは少年の体から絶対に手を放さない。必死に食らいつくその姿はまるで獲物を放さない番犬のようだ。
「助太刀いたします!」
シノもナイフを握ってゴーレム少年に斬りかかる。スライムアーチャーの射撃も加わって、少年は身動きが取れない。
三人が時間を稼いでくれている。俺はこのチャンスを絶対に逃さない!
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しかし、だからといって完璧なわけではない。穴があるとしたら二つ。
一つ。時間制限がある。スキルの特性上、経験値を消費して技を使うなら、あんなに強力な身体能力をずっと誇れるわけがない。
だから、少年の経験値を枯れさせたときが好機。その時、彼はもう技を使うことが出来ない。
そして一つ。<
今、この状況で決着をつけるとしたら、やるべきなのは後者。敵のガードを打ち破る。
だからこそ――俺ができる最大限の一撃を、奴に叩きこむ。
目を閉じ、大きく息を吸い込む。血液が全身に循環するのを感じながら、徐々に力を込めて……
魔力を練り上げる。
「ゴーレム! 何をやってるのです! 早くその男を殺しなさい! 今さら潔白ぶるんじゃない!!」
マシューが慌てて声を上げる。少年はなんとかバリーを引き剥がそうとしていたが、ついにしびれを切らして手のひらを前に出した。
「<
白い爆発がバリーの目の前で起こる。彼は顔面にモロに一撃を食らい、小さく悲鳴を上げた。
――それでも。
「全然効かねえんだよ雑魚がああああああああああ!!」
バリーは離れない。まるで不死身のゾンビのように、しぶとく少年にしがみついている。
「なぜだ……!?」
「なんでだってか? わかんねえだろうよ、自分のために生きてないお前にはな!」
「……! <
「……ッ! しまっ――」
渾身のストレートがバリーの顔面に直撃し、とうとう彼は手を放して地面を転がった。
少年の顔に焦りが見て取れる。バリーの言葉に揺れているのか、経験値が減ってきているのか、あるいはその両方か。
バリーが稼いでくれた時間で、しっかり魔力を練ることができた。準備はあと少し。
思い出すのは、ライゼとの魔法の修行。最後に放った雷魔法の威力は、これまで俺が撃ってきた魔法の中で最高だった!
問題なのは、撃つ時に大きな反動が来てしまうこと。それで狙いがずれてしまったらせっかくのチャンスが台無しだ。
だから――俺は一人じゃなく、皆で戦う!
「
「キュ!」
俺の背後に、残ったスライムたちを全員配置する。
雷の衝撃で俺の体が吹っ飛ばされてしまうなら、それを支える『壁』を作ればいい。すなわち、魔法の反動を打ち消すのだ。
俺はこれまでも、たくさんの仲間に支えられてきた。だから今回も、皆の力を借りる!
指先に電流が走る感覚。準備ができた。あとは、奴を引き付けるだけだ!
シノとスライムアーチャーの二人を戦線から離脱させつつ、奴の注意を集められるような言葉は――
「ゴーレム! お前の全力をぶつけてこい! 人間を経験値にした怪物を、俺が倒してやる!」
途端、少年の顔つきが変わった。激しい怒りを目に灯し、こちらに向かって走ってきた。
「お前に俺の、何がわかる!!」
拳を振り上げて接近してくる。これが最後のぶつかり合いだ。
全員のバトンをつないで放つこの魔法。スライムたちが紡ぐ、鎧袖一触の雷鳴。
だから、名前は――
「<スライジング・バースト>!!」
少年が最も近づいたタイミングで、魔法を放つ。手のひらから拡散したのは、まるで大木のような雷の奔流だった。
ガガガガガガ、という激しい音とともに拡散する光は少年の体を飲み込み、絶対防御の壁すらも押し返し、破壊してしまう。
「うわああああああああああああああああ!!」
少年の叫び声が上がる。魔法が終わった時、森には再び沈黙が訪れた。
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