第85話 進化する剣

「なんだ……!?」


 俺は慌てて〈鑑定〉を発動して剣の情報を確認してみた。


ーー


緋華 レベル2


・〈炎属性付与〉

・〈魔力伝導〉……所有者の魔法を剣に通すことができる。


ーー


「剣にレベルが……!?」


 こんなことは初めてだ。今までいくつか武器を〈鑑定〉したが、こんな表記は初めてだ。

 あり得ない。普通ならそう考えるが、今ならなんとなく信じられる。他でもないイレーナが打った剣だからだ。


 これまでに剣にレベルがあるなんて話は聞いていない。そんなことは不可能だ。しかし、彼女は不可能を可能にした。


 ーーこの剣は、進化する!


 そして、次に目に入ったのは〈魔力伝導〉の文字。自分自身の魔力を通すってことは……。


 この剣は俺の雷魔法も使えるのか!?


「ものは試しだ!」


 俺は手のひらに意識を集中させ、魔力を練り上げる。ゆっくりと息を吐くのと同期して、指先に電流が走った。

 剣が雷を帯びた。青白い光が点滅し、バチッという音を空気中で鳴らした。

 さらに、ここに剣本来の炎属性の力を加える!


『お、おい! あれどうなってるんだよ!?』


『魔剣が二属性の魔法だと!? そんなことあり得るのか!?』


 赤い炎と青い稲妻。二つの属性がまるで二匹の龍のように交差している。

 これが緋華レベル2の能力。炎と雷の魔剣だ。


「――だったらなんだって言うんだよ!」


 会場のざわめきに気圧されたバリーだったが、すぐに気を取り直して瞬間移動を再開した。

 どこから現れるかわからない奇襲。しかし、もはや今の俺にとってそれは関係ない。


 緋華が炎を噴き出す。刹那、バリーが瞬間移動を解除して、剣を振り上げた。


「どこ狙ってるんだよ間抜け!」


 今回も上手くいった。彼のしたり顔からはそんな思いが見て取れる。バリーはケタケタ笑いながら、俺の頭をめがけて剣を振り下ろしている。


「俺の攻撃はまだ終わってない!」


 バリーが息を呑んだ。しかし、気づいたときにはもう遅い。緋華は既に雷を帯びている。

 放電。俺の全身を包み込むような形状で放たれた雷魔法は、例外なく接近中のバリーをも襲う。


「なんだと!?」


 バリーは驚きの声を上げると、寸前で体をよじって一気に後退する。

 彼の服の袖が焼け焦げている。追い詰められた狼の視線。バリーは気づいたのだ。もはや自分がやられる側になっていることに。


 炎魔法は強力だが、剣を振るった一方向にしか放つことができない。バリーは姿を消して不意打ちをすることで、炎を躱しつつ攻撃をしていた。

 しかし、雷魔法は俺を囲むようにして放たれる。これではどこから攻撃をしても雷は食らってしまう。

 攻略法が崩れた瞬間だ。そして、それは瞬間移動が通じなくなったことを意味する。


「もうどうだっていい! 作戦もクソもあるか!」


 追い詰められたバリーは、もはややけっぱちになって特攻するほかなかった。激しく叫んだ後、正面から剣を振り上げてきた。

 刃と刃が交わる。獰猛な獣のように剣を何度も振り下ろし、全ての攻撃を俺に弾かれた。


 ヒリヒリするような緊迫感。必死になったバリーの吐息が顔にかかる。彼の心臓の鼓動が聞こえてきそうだ。

 鍔迫り合いの状態から、俺が押し勝つ。体勢を崩したバリーに斬りかかると、瞬間移動で回避される。


『おい、なんかこの試合すごくないか……!?』


『あいつ、不正してる二人組と互角以上に戦ってるぜ! ここまで巻き返したあの魔剣を作った奴、ヤバいだろ!』


『絶対に目を離すなよ! こんな試合、二度と見られないぞ!』


 剣と剣がぶつかり合って金属音が鳴り響くたび、会場の歓声は大きくなった。間違いなく今回の大会で一番の盛り上がりだ。

 きっと、誰もが思っているはずだ。緋華の凄さを。そして、イレーナの想いの結晶を!


「ぐあっ!」


 雷を浴びて悲鳴を上げるバリー。これでもう5回目だ。

 雷は範囲が広いだけに威力はそこまで高くない。しかし、食らった回数が積みあがれば、それだけダメージは蓄積していく!


「どうして……お前たちだけが進化し続けるんだよ!!」


 剣がぶつかり合う。バリーの脇腹に炎が直撃した。


「イレーナは諦めなかった。お前らに不正をされて、自分自身について悩んで、それでもこの剣を作り上げたんだ! お前みたいに進化を諦めてないからな!」


 火傷の痛みでよろめいたバリーに、俺はさらに攻撃を仕掛ける。剣の軌道に乗って放たれる炎を、バリーは避けることはできない。


「ガハッ!」


 バリーが舞台の上で転がる。それこそが、彼が見せた最大の隙だった。


「お前の負けだ! 教えてやる、これこそが、お前が見下した弱者の、本当の強さだ!!」


 視界が一瞬スローモーションになる。バリーが舞台に膝を突いて、大きく目を見開くのがわかった。

 炎と雷を纏った斬撃。この一撃で決着をつけるという俺の思いに呼応するように、二つの力は威力を増していく。


「<紫電一閃しでんいっせんほむら>」


 一瞬の静寂。斬撃はバリーの胴体を斜めに切り裂き、彼の体を吹っ飛ばした。


「勝者、アルクス・セイラントーーーーーーー!!」


 司会が叫んだ瞬間、会場が万雷の拍手を轟かせた。

 ――俺たちの、勝利だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る