【書籍化決定】最速進化のスライム無双 追放された俺の外れスキル<スライム>は超効率的にレベルアップするチートだったので、100倍速で鍛えて世界最強に成り上がる。【WEB版】
第82話 あたしらしさ【SIDE:イレーナ】
第82話 あたしらしさ【SIDE:イレーナ】
あたしの中では炎が燃えている。
それは真っ赤に燃え上がり、今もゆらゆら心の中で揺れている。
炎はあたしの想いを燃料に、理想という名の煙を上げて、今日もこの身を駆り立てる。
どれくらい時間が経っただろう。気づけばとっくに日は昇り、時間の感覚なんてとっくに無くなってしまった。
あたしは工房に籠って、ひたすらに剣を作り続ける。それが自分の役割だから。
あたしらしさってなんだろう。剣を作っているときはいつもそんなことを考える。金槌を振り下ろすたび、何度も自分に問いかけた。
時々怖くなった。そんなもの、自分にはないんじゃないかと思って。この手を動かし続けた先に、あたしは自分に何もないことに気づいてしまいそうで。
手が震えた。本当は今だって、道具を捨てて逃げ出してしまいたいくらいだ。
わからなくなった。怖かった。信じられなくなった。
でも、アルクスが言っていた。
『俺はイレーナの剣で試合に出たい。だから、イレーナの好きなようにやってほしいんだ』
初めてのことだった。誰かに自分が必要とされたのは。
こんなに臆病で、弱虫で、そんな自分を隠すように上っ面だけ威勢がいいあたしを信じてくれる人がいた。
嬉しかった。心が熱くなった。
あの瞬間、消えかかったあたしの心の炎が大きくなった。
もう一度だけ、信じてみよう。こんな自分を。こんな自分だからこそ。
炎はあたしを突き動かす。それでお前の限界かと言うように。それがお前の全てかと問いかけるように。
あたしは炎に呼応するように、また金槌を振り下ろす。それが何故かもわからないまま。
理屈を捨てた。持っているのは燃料のこの想いだけ。世界一という憧憬を糧に、あたしは剣を作り上げる。
あたしらしさ。これまでは気づかなかったけど、今ならそれが明確にわかる。
それは――この『炎』だ。
絶えず形を変え、それでいてやることはシンプル。
暗闇で迷子になったあたしを導く灯り。何度折れかかっても再び燃え上がる種火。
弱さを知っているあたしだからこそ作ることができる、本当の強さ。
この想いを今――この一振りに!
金鎚と剣がぶつかりあったその瞬間だった。あたしの目の前が光で包まれた。
虹色の輝きを放っているのは、目の前の剣だ。銀色の刃が、オーロラのような美しい光を纏っている。
「――で、できた!」
あたしは急いで剣を抱え上げた。おそらく大会の時間はとっくに過ぎている。
工房から出ようとしたその時、誰かが店の扉を開けて入ってくる音が聞こえた。
「――アルクス?」
「お、いたいた。あれがイレーナだぜ」
違う。入ってきたのは強面の男三人組だ。威圧的なオーラを放つ男たちは、あたしを見るなり下衆な薄ら笑いを浮かべる。
「な、なんだおめぇらは!?」
「なんだっていいじゃねえか。そんなことより、俺たちとここでお喋りしようぜ?」
「お、やっぱり剣を持ってるぞ! バリーが言ってた通りだな!」
こいつらの目的はあたしだ。あたしが会場に戻るのを足止めするために依頼でもされたのだろう。
「俺たちだって手荒な真似はしたくねえからよ、大人しくその剣を預けてここで雑談でもしようぜ?」
「い、嫌だ!」
「おいおいつれねえなあ。どうせ今から行ったって意味なんかねえよ。ここで待ってようぜ? な?」
確かにその通りかもしれない。あたしは大会のことなんか忘れて剣を作り続けていたのだから。
でも――信じてくれたアルクスを裏切りたくない!
「う、うわああああああああああ!」
「おっと!」
あたしは声を上げて正面突破しようとしたが、いとも簡単に腕を掴まれ、動きを止められてしまった。
「放せ!」
「それは無理だな。さ、その剣から手を放しな!」
男が剣を引っ張ってくる。あたしは必死で抵抗した。
「わかんねえ女だな! 今すぐ手を放さないと――」
「今すぐ手を放さないと、少し痛い目を見ますよ?」
刹那、第三者の声が耳朶を打った。鈴のように透き通った女性の声。男たちの後ろに立っていたのは――黒髪のシノビだった。
「お前いつの間に……ガッ!」
シノビは手刀を三度、軽く首筋にぶつけると、男たちはたちまち気を失って倒れてしまった。
「シノビの姉ちゃん! 助かったぜ!」
「シノビ――ではありませんが。お役に立てたのなら光栄です」
そう言うと、シノビは頭にフラフープを載せたスライムを足元に置き、あたしにそこを潜るように促した。アルクスが使っていたやつだ。
「いろいろとご説明したい気持ちはあるのですが――今はとにかく、会場に向かいましょう」
シノビは髪をかき上げると、淡々とした表情で言った。
「決勝戦が始まっています。答え合わせの時間です」
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