第75話 第一試合、スタート!

 控え室はコロッセオの舞台と同じ高さの位置にある。観客席の下の部分だ。

 そこには窓があって、舞台の様子を見ることができる。俺たちはその窓に張り付いていた。


「さあ、開会式が終了しましたので、第一試合を開始します!」


 舞台にタキシード姿の司会の男が現れて、声を張り上げる。観衆がワッと完成を上げた。

 すごい盛り上がりだ。今までは観客あっち側だったからわからなかったけど、すごい圧迫感のようなものがある。


「エントリーナンバー1! チーム・アズディン工房!」


 司会の紹介と共に、コロッセオのゲートから二人の男が出てくる。選手入場だ。

 その人物を見て、俺たちは息を呑む。


 一方の男はさして注目するほどではない。確かに筋肉質ではあるが、あのレベルなら冒険者にはゴロゴロいる。おそらくこっちは鍛冶師のほうだ。

 問題なのはもう片方の男。身長が明らかに2メートルを超えている。肌は小麦色によく焼けていて、脂肪と筋肉が発達してゴーレムのようだと感じた。


 そして、さらに驚くべきなのは彼が持っている武器だ。デカい。俺の身長を超えるような長さのその武器は男の巨体と比べても小ささを感じさせない。

 その武器とは――


「斧!?」


 それは剣ではなく斧だった。しかし、その斧は木こりが使うようなものとは違う、ギラギラとした装飾やのこぎりのように尖った刃はまさに戦闘に特化している。


「そっか……武器は大きくなくちゃいけないんだ……」


 隣でイレーナがつぶやく。彼女の視線は男が持つ斧にくぎ付けだ。


「エントリーナンバー2! チーム・ブルーノ武具専門店!」


 次に入場ゲートから登場したのは、先ほどの男と比べればやや小柄な男たち。

 と言っても、さっきの男が規格外なだけで、こっちの二人もかなり筋肉質だ。引き締まっている、と言ってもいいかもしれない。


 持っているのは二本の剣。どちらも片手剣で、目立った様子はない。

 ややインパクトに欠けるように感じるが、こちらの二人組も物怖じせずに堂々と入場をした。自信があるのだろう。


「それでは選手の二名は舞台に上がってください!」


 武器を持った二人がステージに上がる。にらみ合う両者。その間に司会が入った。


「今からお二人には戦闘を行ってもらいます! 相手を殺害する目的の攻撃は禁止、どちらかが参ったと宣言するまで試合は続行されます!」


 一応、舞台の横には癒術士ヒーラーも待機している。だから即死でもしないかぎりは治癒することができる。

 それでも、命がけの戦いには違いない。職人も冒険者も、文字通り命を張って舞台に立っているのだ。


 二人の冒険者がうなずく。司会が右腕を高く上げた。


「それでは第一試合を開始します! レディー、ゴー!」


 司会が試合の開始を宣言する。次の瞬間、大男の方が斧を振り上げて、二刀流の男に向かって思い切り叩きつけた。

 ズドオオオオオン! という大きな音とともに、土煙が立つ。なんという迫力だ。


 しかし、二刀流の男も負けていない。ひらりと攻撃を回避すると、地面を蹴って大男に肉薄する。


「オラオラオラァ!!」


 大男はさらに斧を振り回し、相手を切り刻もうとする。あの斧で攻撃を食らったらひとたまりもないだろう。

 会場を破壊し尽くしてしまうような勢い。まるで嵐だ。振り回される斧に、打つ手はなしに見られた。


 しかし、勝負は一瞬のうちに幕を閉じる。

 二刀流の男が一気に間合いを詰め、攻撃を全て回避したのだ。

 片方の剣で斧を弾き飛ばすと、そのまま蹴りを繰り出し、男の巨体を地面に倒す。


「動くな。降参したほうがいい」


 二刀流の男は仰向けに倒れる大男に馬乗りになると、剣を彼の顔面に突き立てた。大男が『ヒィッ!』と声を上げる。


 鮮やかな戦い方だった。無駄がなく、それでいて力強い。あれだけ大きな斧を前に、無傷で勝利を手にしたのだ。


「ま、参った……」


 大男の宣言とともに、歓声が会場を包んだ。二刀流の男の勝利だ。

 今回負けた大男のチームはここで大会終了となるわけだが、あのギラギラした斧を作ったということはこの会場の人全員に伝わった。

 ここから鍛冶師や冒険者に仕事が舞い込んでくることもある。だから、負けたからと言って無意味なわけではない。


 現に、あれだけインパクトを残していれば、観客たちの記憶には必ず残るだろう。


「さて、第二試合に入ります!」


 司会の男の宣言でようやく我に返る。次は俺たちの試合だ!

 急いで入場ゲートに走り、準備を整える。


「それではエントリーナンバー3! チーム・ダンツェル武具専門店!」


 心臓が高鳴る。俺たちはゆっくりと舞台の方へ歩き出した。

 湧き上がる歓声。剣の柄を持つ力が自然と強くなる。


 しかし。舞台の辺りに差し掛かったその時。歓声がぴたりと止むのがわかった。

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