第73話 魔法の修行
シエラさんとのデートの翌日。俺はライゼと一緒に久しぶりに草原エリアへと行った。
当然、草原エリアに俺たちが二人がかりで戦うようなモンスターはいない。
「それじゃあ、始めるわね。みっちり指導してあげるから覚悟しなさい」
「……よろしくお願いします」
目的は、魔法の訓練だ。
魔法が使えるようになって、しばらく期間が空いた。俺はダンジョン攻略の合間を縫って、魔力を練る練習を続けていた。
結果から言えば、魔力を練るのはかなり上手くなったと思う。以前のように無茶な出力で魔法を撃つことはないだろう。
だが、根本的な部分で問題があった。それは実戦で全く通用しないということだ。
的確な魔力量を練り、正確な位置に魔法を放つのがかなり難しい。時間がかかるし、上手くいかないことの方が多いくらいだ。
「それで、今回の訓練の目的は、実戦に役立つレベルで魔法を使いこなせるようになることなのね?」
「そういう理解で問題ない」
ライゼは腕を組むと、感心したようにうなずいた。
「そもそも魔力をコントロールできるようになるにはかなり時間がかかるのよ。魔法に限らず剣術もそうだけど、極めるには年単位の時間が必要になるわ」
「年単位か……相当だな」
「私は小さいころから剣術・魔術・体術を習ったわ。技は少しずつ培われていくもの。一朝一夕で完璧にできるなんて思わないことね」
「じゃあやっぱり、魔法を使えるようになるのは難しいのか?」
大会に参加するときに、技の一つとして使えればいいと思ったんだけどな。俺は思わず肩を落とした。
しかし、ライゼはその反応を待っていたとばかりに、得意顔で俺を見た。そして、自信満々に言い放つ。
「確かに一朝一夕で
俺の肩がピクッと動くのを見て、ライゼはさらに笑みを深めた。
つまり、実戦で魔法を使えるようになることは可能。思えば、俺は剣術の訓練なんてほとんど受けていないが、剣を振るうことはできる。それと近いのかもしれない。
「大会までにできるかはわからないけど、少しずつできるようになるはずよ。さあ、やりましょう」
「やる気出てきた! よし、まずは何からやればいいんだ!?」
「そんなの決まってるじゃない。今から私と戦うのよ」
ライゼと、戦う……?
意味がよくわからなかったので聞き返そうとしたその時。ライゼが持っている杖の先を俺に向け、火球を生成してきた!
「ほら、早く魔力を練らないと丸焦げよ?」
彼女の言葉の意味はそのまま。今からここで俺たちは戦うということだ。
「ちょっと待てよ!」
「問答無用! それっ!」
俺の顔くらいの大きさの火球が、まっすぐに向かってくる。
剣でぶった切るという手もあるが、彼女が想定しているのはそういうことではないだろう。目標は、魔法だけの力でダメージを与えること。
まずは魔力錬成。イメージしろ。あの火球をかき消してライゼにダメージを与えられるような雷の一撃を!
指先に電流が走る感覚。あとはこれを形にーー
いや、間に合わない! 威力を重視すれば時間がかかりすぎる! このままじゃモロに魔法を食らうぞ!
「くそっ!」
仕方なく、俺は最小限の魔力で雷魔法を手のひらから放った。威力はとても低く、火球を消し去るまでには至らなかった。
火の粉がはじけ飛び、肌に焼けつくような熱気が伝わってくる。
「いちおう防ぐことはできるみたいね! でも、こんなのはまだ序の口だから!」
ライゼは心の底から楽しそうに笑うと、杖を振りかざして火球を連打してくる。
「ズルいぞ! せめてその杖しまえ!」
「ズルじゃないもん。悔しかったら自力で取り上げてみることね!」
さすがに数が多すぎるので、俺は地面を強く蹴って後退する。足元に火球が着弾し、爆発音を立てた。
「ちょこまかと面倒ね! だったら一瞬で終わらせてあげるわ!」
「主旨が変わってきてるじゃねえか!」
俺のツッコミはおかまいなしに、ライゼはさっきよりも二回りも大きい火球を杖の先から出した。
直径は2メートルほどあるだろうか。とにかくデカい。モンスターに撃つような規模だ。
避けるか!? いや、避け続けていてもいつかは当てられてしまう。それに、これはあくまで俺の魔法の訓練だ。
あの火球を吹っ飛ばすには、全力の一撃を撃つ必要がある。だけど、ゆっくり魔力を錬成していたら一瞬で消し炭になってしまうだろう。
ならば――ギアを上げるしかない。
水が急速に沸騰するイメージだ。体の中にある魔力を総動員し、一気に手のひらに力を集める。
やかんから蒸気が吹き出すように、手のひらの一点から雷を、放つ!
「おらっ!!」
刹那、俺のイメージが具現化したように、俺の手のひらから雷の柱が放たれた。
柱というよりかは濁流というのが正しいかもしれない。俺の右手の手のひらからはとめどなく雷魔法があふれ出ていた。
「ちょ……なんだこれ!?」
勢いが強すぎて、反動で俺の体が押される。即座に左手を添えて抑え込もうとするが、あまりにも激しすぎて体が吹っ飛ばされそうだ!
思い切り足を踏ん張るが、それでもまだ威力を殺し切れていない。俺の体はじりじりと押され、嵐の中の紙のように宙を舞った。
「何やってんのよ! 少しは加減ってものを……」
「頼む、止めてくれ! 俺にもどうにもできなそう!」
「仕方ないわね! <
ライゼは素早くしゃがみ込むと、両手を地面につけ、魔法陣を展開する。
俺が放った光線はライゼの方へ真っすぐに進む。あと少しでぶつかるというタイミングで、ライゼの緑色の魔法陣から突風が吹き出す。
彼女が放った暴風は光線を空へと押し上げた。雷魔法は空中で霧散して、何とか事なきを得る。
「助かったぜ……」
「まったく、危ないったらありゃしない……」
俺は地面に仰向けに倒れながら、ライゼにサムズアップした。
それにしても……なんだったんだ、さっきのは。
今まで使ってきた魔法のどれとも違う、新鮮な感覚だった。体はどこもおかしくなっていない。
さっきの魔法を敵に撃つことができたら、実戦で使える技になるはずだ。威力は申し分ない。
だが、一度撃つたびにこんなことになっていては駄目だ。もっとうまくコントロールできるようにならなければ……。
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