第64話 総力戦

「ブルモオオオオオオオオッッ!!」


 肌が焼けつくような圧迫感。俺たちはミノタウロスを睨み据えていた。


「チア、スライムたちの強化はどれくらいの時間持ちそうだ?」


「最初の頃よりかはかなり伸びましたけど……10分が限度だと思います!」


 10分。それが俺たちに与えられたタイムリミットだ。

 何としても、チアのスライム強化が持続している間に決着をつける!


「シノってアサシンなんだよな? こっそりとどめを刺すとかできたりしないか?」


「一対一ではとても。ですが、隙さえあれば急所を攻撃することができます」


 それは頼もしい。なら作戦は決定だ。


「俺とスライムたちが前線で戦う! ライゼは後方支援をしてくれ! 隙ができ次第、シノがミノタウロスの急所を攻撃する!」


「キュー!」


「了解!」


「御意」


「わかりました! みんな行きますよー!」


 チアの掛け声と同時に、スライムたちの体が白い光を放ち始める。

 俺たちは一気に前線に詰めて行った。


 ただ正面から戦っても、俺たちに勝ち目はない。だからこそ、数の有利を活かして立ち回る。


「みんな、頼んだ!」


「キュ!」


 俺が声を上げた瞬間、スライムたちが一斉に地面を蹴って飛び跳ねた。

 壁に激突すると、そのまま方向を変え、別の角度に一直線に飛ぶ。


 まるでゴムボール。散り散りになったスライムたちは別のスライムにぶつかり、どんどん方向を変えていく。


 あっという間に、目では負えないほどスライムたちが分散し、部屋の中を飛び回りはじめた。


「キュ!」


「ブモッ!?」


 その時、壁から跳ね返ってきたスライムがミノタウロスの胴体に激突した。

 チアの効果で強くなったスライムたちのタックルは、かなり微弱ではあるがダメージになる。じわじわ体力を削るにはうってつけだ。


 ミノタウロスはスライムたちを鬱陶しく思ったのか、蚊を潰すように体をじたばたと動かし始めた。


「お前の相手は俺だ!」


 剣をミノタウロスの足に突き付け、棒で地面に線を引くように横一閃をする。ミノタウロスが悲鳴を上げた。


「ブモオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 刹那、ミノタウロスが足をばたつかせて暴れだした。まさに暴れ牛のような勢いだ。

 俺は身の危険を感じ、すぐに地面を蹴って後退した。これでは近づこうにも難しい。


「フンッ!!」


 ミノタウロスが斧を一振りした。怒り狂った様子で、もはややけくそ気味だ。

 激しい音を立てて、斧が地面に突き刺さる。今の一撃で3匹のスライムが潰されてしまった。


 やはりそう甘くはいかないか。こちらの作戦を一瞬で崩すほど、奴の破壊力はすさまじい。


「準備オッケー! <業火弾ミグル・フレイア>!」


 その時、ライゼが錬成していた魔法陣を解放し、巨大な火球を放った。流れ星のような炎の一撃はミノタウロスの胴体に直撃し、巨体をグッと押し戻した。

 なんという体幹だ。さすがに倒れてはくれないか。


「なんなのあの化け物! <業火弾ミグル・フレイア>であれとか!」


 これだけやってもまだ立っているなんて、まさに規格外だ。

 でも、こちらの攻撃も全く効いていないわけではない。ミノタウロスは鼻息が先ほどより荒くなり、肩で呼吸をしているように見える。疲れているのだ。


 そして、それは大きな隙になる。


「後ろから失礼いたします。あなたに恨みはありませんが、始末させていただきます」


 ミノタウロスの肩。花のように美しい立ち姿でそこにいたのはシノ。スカートから一本のナイフを取り出すと、ミノタウロスのこめかみに突き立てた。


「ブルモオオオオオオオオオオオッッ!!」


 ミノタウロスの膝が折れ、地面に崩れ落ちた。シノは一瞬のうちにジャンプでこっちに戻ってきた。


「相手の平衡感覚を奪っておきました。できれば視界も奪っておきたかったのですが」


 シノは涼しい顔で報告をしてきた。十分すぎる働きだ。

 ミノタウロスは立ち上がることができないのか、膝を地面についたままがむしゃらに手を振り回している。


「最後だ! 出し惜しみせずに行くぞ!」


 俺とスライムたちは再びミノタウロスの方へ畳みかけた。

 スライムたちの戦法はさっきと同じバウンド作戦。まともに動くことができないミノタウロスは雨に打たれるように攻撃を食らい続ける。


 しかし、敵もされるままではない。腕を必死に振り回し、スライムたちを潰そうと躍起になっている。

 1匹、また1匹潰された。ここでの俺の働きで勝負の結果は変わってくる。


「ブモオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 ミノタウロスの叫びを正面から浴びながら、俺は剣を持って突進した。

 自分でもわかる。今の俺は<人間>の効果でさっきとは比べ物にならないほどの力を纏っている。


「ミノタウロス、お前は確かに強い! だけど教えてやる! これが弱者の本当の強さだ!!」


 手に魔力を走らせる。振り上げた剣を思い切り縦に振り下ろすと、雷を帯びた白い斬撃がミノタウロスめがけて走り出した。


 爆発のような衝撃と、激しい突風。斬撃はまっすぐに駆け抜け、ミノタウロスの巨体を吹き飛ばした。


「ブモオオオ……オオオ」


 風が止むと、ミノタウロスは力なく地面に倒れた。

 小さな地響きの後の沈黙が、俺たちの勝利を祝福していた。

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