第63話 25層の牛頭人身
準備が完了した俺たちは、階段を下りて25層へ向かう。
意識が集中しているからか、一段一段を踏みしめる感覚が他の階よりも強い。同時に、心臓の鼓動が早くなっていく。
階段を降り切ると、目の前には扉があった。真っ黒な門扉で、どっしりと俺たちを待ち構えている。
俺は覚悟を決め、門をゆっくりと押し開けた。
そして、その先の光景に驚き、息を飲んだ。
扉の先は大きな空間になっていた。迷路のようになっている他の階層とは違う。
何より目を引いたのは、その部屋の中心にいる存在だった。
背丈はゴーレムよりも一回り以上大きい。5メートルは優にある。
二足歩行のそれは、血塗られたように真っ赤な毛を全身に纏い、岩石のような筋肉を隆起させている。
頭部には鋭利な角が生え、黄色の瞳はギラギラと光ってこっちを見据えている。
極めつけは、手に持った巨大な斧。俺の背丈の倍はあるだろう。
牛頭人身の怪物がそこに立っていたのだ。
「あれは――ミノタウロス!」
「ブモオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
轟く咆哮。吹いてきた突風に、俺とライゼは思わず身構えた。
25層は探索をする場所ではなかった。いきなりフロアボスとの戦闘だ。
しかも、圧倒的にサイズが大きい! 強敵であることは容易に想像できる。
「<鑑定>!」
叫びにひるむことなく、俺は素早く相手の情報をキャッチした。
――
対象:ミノタウロス レベル1
灰のダンジョン25階層のフロアボス。巨大な体躯から放たれる一撃は強烈。
――
ミノタウロスの体が何か所か赤く点滅しているため、弱点はある。
しかし、あまりにも体が大きすぎて頭部には全く届きそうにない。胴体は筋肉に覆われていて、とても突破できそうにない。
仕方ない。弱点を狙う隙ができるまで、地道に相手の体力を削る!
「<
ライゼが杖を振りかざすと、彼女の足元からミノタウロスに向かって一直線に氷の波が地面を駆ける。
魔法は一気にミノタウロスまで到達し、奴の足を氷漬けにした。
「今よ!」
「わかった!」
体が大きくても、足が動かなければ行動範囲は狭くなる。正面から戦うなら、まずは相手を動きにくくするのが常套手段だ。
剣を強く握り、俺はミノタウロスの向こう脛をめがけて突進を仕掛けた。
ミノタウロスが握っている斧は、まだかなり高い位置にある。一撃入れてからでも余裕で回避できるだろう。
いける。まずはここを削って、相手の隙を大きくすれば――。
その時、俺の目の前でミシッという音が鳴った。
嫌な予感がして視線を下げると、ライゼが放った氷にひびが入っていることに気が付いた。
――マズい! こいつ、氷を破ったのか!?
「鉄壁スライム!」
俺は咄嗟に2体のスライムを出した。うち1匹を鉄壁スライムにクラスチェンジする。
目の前に出したスライムを足で踏み、反対方向から押してもらうことで、壁の役割をしてもらう。俺の体は後方へ弾かれた。
鉄壁スライムは俺とミノタウロスの間に出す。
するとその刹那、ミノタウロスの足が氷を破って現れ、俺に強烈な足蹴を食らわせた。
間にいた鉄壁スライムが盾となり、攻撃を弾く。しかし、威力は圧倒的にミノタウロスの方が上だ。
鉄壁スライムが押し負け、ビリヤードの球のように俺の体に直撃する。俺たちはライゼがいる場所まで一気に吹っ飛ばされる。
「ブモオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
次の瞬間、目の前に巨大な斧が振り下ろされた。ズドンという激しい音と地響き。
あと0.1秒でも判断が遅かったら、あの斧の餌食になっていた。俺は宙に浮かびながら全身に鳥肌が立つのを感じた。
「<
俺の背中に一陣の風が吹く。風が柔らかい衝撃で俺をキャッチし、壁に激突するのを防いでくれた。ライゼの魔法だ。
「助かった!」
「それよりあいつ、どんだけよ! あんなにぶ厚い氷を自力で破るなんて……!」
ミノタウロスはさっきまで足を氷漬けにされていたのに、今では何事もなかったようにズシンズシンと足踏みしている。
規格外のパワー。これが25層のフロアボスの実力か。
「やっぱり一筋縄じゃいかないな……!」
このまま戦ってもジリ貧だ。相手を倒すまでにこっちの体力が削り切られてしまったらゲームオーバー。
さらに言えば、彼我の差は歴然。あの攻撃と対等に渡り合える自信はない。
「こうなったら、総力戦だ!」
俺はワープスライムなどの便利スキル持ち以外のすべてのスライムたちを召喚する。
総勢48匹。中にはチアとシノもいる。
全員であの巨大ボスを倒す! 絶対に勝って帰ってやる!
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