第62話 いざダンジョン
「25層のフロアボスだと……? ハハハハハハハ!!」
ライゼの父親は腹を抱えて笑い始めた。
二人だけで25層まで行くというのは、普通に考えれば荒唐無稽な話だ。
現在、灰のダンジョンの最高踏破記録は42層。これは、3か月に一度結成されるS級パーティの『連合』による記録だ。
街中の――時には外からも来る――精鋭たちが集結し、命を懸けてまだ見ぬ世界へ足を踏み入れる。それが42という数字の重みだ。
そんなダンジョンに、俺たちはたった二人で25層まで行くと宣言したのだ。笑われるのも仕方ない。
「いいだろう、もし本当にそんなことができるなら、冒険者にでもなんでもなるがいい!」
よし、言質は取った。
「言ったからな! 行くぞライゼ!」
「あ、ちょっと!」
蚊帳の外になっているライゼの手を引いて、俺は屋敷の外へ出た。
前回イレーナを連れてきた15層に到着したのは、それから1時間後のことだった。
相変わらずダンジョンの構造はまるで変っており、俺たちはまた1階層から時間をかけて下に進んでいく。
しかし、今回はライゼが魔法でバックアップしてくれるので、攻略のスピードは桁違いだ。
「アルクス、正面に魔法を撃つわ!」
「わかった、一気に畳みかける!」
ライゼが右手を前に出し、向かってくるモンスター3体に炎魔法を放つ。
「はあああああッ!」
モンスターたちが炎で焼かれて怯んでいる隙に、俺は肉薄して斬りかかった。
3体のモンスターが斬り捨てられて絶命する。辺り一帯のモンスターを片付けたので、俺はようやく一息ついた。
「ピギー!」
スライムが階段を発見した。俺は剣を鞘に納めて声がした方へ歩き出す。
「どう? まだ行けそう?」
「ああ。今回はライゼもいるからやりやすいよ」
まだ攻略に詰まるような強いモンスターには遭遇していない。ただ、ここから先は話が別だ。
16層から先にはミスリルゴーレムよりも強いモンスターがうじゃうじゃと生息している。一筋縄ではいかないだろう。
ここからの攻略の鍵になってくるのは、俺のレベルだ。強いモンスターとの戦闘を経て、25層までにどこまでレベルアップできるか。
不確定要素が多い。正直言って不安になってくる。
「なに辛気臭い顔してんのよ」
俺の背中を叩いたのはライゼだった。
「なあ、25層を攻略するって俺が言ったとき、どう思った?」
「馬鹿だと思ったわね。そんなの無茶もいいところだもの」
「お前、もうちょっと遠回しに言えないの?」
「だって事実だもの。……でもね、同時にこうも思ったわ。アンタとなら行けるんじゃないかってね」
ライゼは俺の横に並んで、フフッと笑った。彼女の表情から恐れのようなものは感じられない。
俺、意外と期待されてるのかもな。だったらやっぱり、それには答えてやりたい。
「――よし、まだまだ行くぞ!」
「頼りにしてるわよ。アンタがどれくらい強くなれるかにこの攻略はかかってるんだから」
下の階への階段が目に入る。背筋が伸びるのを感じた。
25層への到達はかなり賭けの部分もある。でも、強くなるためにも――そして、ライゼを仲間にするためにも――絶対にやってみせる。
階段を降り、俺たちはさらに探索を続けた。
17層。モンスターがかなり手ごわくなってきたのを感じる。
それでも、まだスライムたちに探索を任せながら進めるくらいだ。俺たちはモンスターとの戦いに集中しよう。
――
レベルが37になりました。
<スライム>の能力が強化されました。
――
20層。1層降りるごとにモンスターが格段に強くなっている。
1層から2層へ降りたときの感覚とはまるで違う。これがダンジョンか。
――
レベルが38になりました。
<スライム>の能力が強化されました。
――
22層。ライゼとの二人がかりでモンスターと戦うことも多くなってきた。
初見のモンスターを鑑定し、弱点部位を的確に攻撃する。徐々に息が上がってくる。
――
レベルが39になりました。
レベルが40になりました。
<スライム>の能力が強化されました。
――
そして到着した24層。
「あった……」
激戦の末、ようやく25層への階段を見つけた。俺もライゼも、かなり疲弊している。
治癒スライムに体力を回復してもらいつつ、俺は自分のステータスを確認した。
――
アルクス・セイラント 17歳 男
レベル40
スキル
<スライム>
『スライムテイマー』……レベル(6→7)のスライムを発生させることができる。最大(42→48)匹。
『スライムメーカー』……スライムにクラスチェンジを施すことができる。
・鑑定スライム(1) ・収納スライム(1) ・ワープスライム(1) ・鉄壁スライム(3→4)
・治癒スライム(2→3) ・コピースライム(1)
・スライムジェネラル ・スライムアサシン
<人間>
――
やれるだけのことはやった。次はついに25層。
この先にどんなモンスターがいるのかを想像し、俺は武者震いした。
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